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17年前の七夕。

 

学校前のスーパーの駐車場に、
大きな大きな笹が飾ってあった。

 

私は、懸命に笑顔で過ごしていた。

その頃、無理をしていた。

絶対に、泣いてはいけなくて、絶対に、悲しい顔をしてはいけないと思っていた。

 

 

癌の、闘病中だった。

 

放射線治療用に、身体には、特殊なインクで描いた線が引いてあった。

一ヶ月は消えないようになっている。

その線に合わせて、放射線を当てるのだ。

放射線治療は、抗がん剤と共に術後行った。

 

 

 

お風呂に入ると、その無機質な線が見えて子供には怖かろうと、私はいつしかひとりでお風呂に入る様になっていた。

 

 

 

シャツをめくった下にはそんな恐ろしい身体の母親。

 

 

 

それでも、息子を連れて買い物に来ている。

髪もウィッグだし、顔はパンパンに腫れて手足も抗がん剤の副作用で痺れている。

 

お買い物に行って、アイスクリームなんか買ってくれなどと息子はだだをこねたりしない。

荷物を持ってくれて、いつも機嫌良く過ごしてくれていた。

 

スーパーマーケットにはレジの脇に花火なんか売っていて、子供には誘惑が多いのだが、息子は、買ってくれとも言わなかった。

 

自分のせいだと、悲しかった。

 

 

 



スーパーマーケットの駐車場に出ると、七夕の笹飾りが目に入った。

二階建てのスーパーの屋根まである立派なものだった。
きっと、男の人何人かで運んだものだと思った。
太い丈夫な土台も組んであった。


大きな竹にゆらゆらと飾りがついていて、幼い子供たちはしゃいでいた。

ふと目をやると、
その、真ん中一番目立つところに私の息子の短冊があった。

「願いが叶いますように 」

そう書いてあった。







他の子は、サッカーに選手になりたいだの、
おもちゃのなんとかがほしいだの、可愛らしい願い事が書いてあった。

息子の短冊…。
切なかった。

 

 



息子の小さな手を握りしめて、空を見上げる。


『七夕の日…、雨、振らないとイイネ。』
涙声でこう言うのが精一杯だった。

息子は黙っていた。

ごめんなさい。ごめん。
辛かろう。

 

 

 

 

 

 

 

駐車場を歩いていると、息子の友達とそのお母さんが、声をかけてきた。

 

『〇〇くん、今、よかったら花火たくさん買ったから、今日、夜に遊びに来ない?お兄ちゃんたちもいるし、愉しいよ!あ、私が迎えに行きますから、お母さんは、たまには羽伸ばして!いいわよ、帰りも送って行くから、心配しないで!!』

 

わーい、わーい!!

 

ありがとう。

ありがとう。

本当に、ありがとう。

 

 

 

 

 



息子、10歳なんです、まだ。
どうか、この子から、母を取り上げないでください。
こんなのでも、母なんです。
 

こんなポンコツでも私は、この子の母。





エンジンをかけて、クルマを出す。
家に帰ると、疲れたと、嘘をついて、私は、ベッドにもぐった。

泣きたかった。

ひとりで。

 

飼っていたセントバーナードが、私の涙をなめてくれた。

溢れる涙を温かく大きな舌が、なめてくれる。

 

それから、私の横で、身体をくっつけてくる。

ありがとう。ハイジ。

 

 



私は、子供の頃から生きるのがつらくて死ぬなんて怖くなかった。
できたら、早めに人生終わったらいいなぁとか、思っていたんだ。


でも、これは、学校全体で、作ってくれた七夕飾りなんだって思ったら、
私は絶対に生きないといけないんだって、思った。

 


そして、私は人にもっと感謝しないといけないんだって
思った。

 

ひとが皆温かくて、うれしくて…。


後にも先にもその場所に七夕の笹が飾られたのはその年だけだった。

 

雨の日、私は、なぜかこの光景を思い出す。

こんな冬にも、この花火と、笹飾りを、思い出す。

 

ありがとう。

 

 

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