No.229 アメリカ同時多発テロ 20周年 | D菩薩の仕事いろいろ趣味いろいろ

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1998~2004年のNY駐在期間中、日本からの出張者や親戚、友人などが訪ねてきたとき、かなりの頻度で案内したのがブルックリン・ブリッジのたもと、日本でもバブル期のドラマなどで有名だったリバーカフェの脇からイーストリバーに向かって突き出たデッキ。ここからの夜景の主役は、正面にそびえるワールドトレードセンター(WTC)のツインタワーでした。

 

(2000年12月 撮影:D菩薩)

 

世界一高いビルが、まだマンハッタンのエンパイヤステートビルだった1960年代のNYを初めて訪れた父は、当時建設中だった新しく世界一になる予定のWTCの工事現場を見物に行き、そこで「Nippon Steel」(旧・日本製鐵)のロゴが塗られた巨大な鉄骨が組まれていくのを見て、「日本もアメリカのこんなところで活躍するようになったか!」と涙が出そうになった、と生前語っていたのが印象的です。専門が土木だったことで感慨もひとしおだったとか…。

 

 

そして2001年9月11日のあのとき。私はNYから出張で東京の八王子にいました。仕事のあと駅前で仲間と飲んで、もうすぐ22時。そろそろお開きという頃、音声を切っていた店のテレビにこんな画像が映し出されます。

 


一目でNYのWTCビルとわかりますが、「中継」のテロップがよく見えず、これって映画かな? 何だっけ? キングコング?とかボケたことを考えていたら、誰かが、おい、これ、中継だ! 火事だ!と店内が騒然となります。そして店主がボリュームを上げてみんなで食い入るように見ていた刹那…

2機目の突入をライブ映像で見てしまいました。

 

すぐ携帯でNYの自宅に電話しますが、全くつながりません。一方、これは業務として自身の配下にいる8人の日本人駐在員の安否確認のため、急いでホテルに戻り、PCを開きます。部屋のテレビは、どの局も事件をライブで報道しており、この夜は結局朝まで起きて見ていました。さすがにツインタワーが立て続けに崩壊していく生中継には言葉を失います。

 

 

明け方近くにやっとNYと電話がつながり、その頃には現地の奥さんより日本にいた私の方が詳しい状況を把握していました。


このとき私のように国外にいた社員は、米国内の全空港が3日にわたって閉鎖されたため予定どおり帰れなくなりました。ちょうど家族とバハマにいてそこで足止めされ、休暇が伸びてラッキーだった駐在員もいれば、アメリカから日本へ帰国できなくなった出張者、NYから当日朝の国内便で西海岸出張へ向かう機内でテロ発生のアナウンスがあり、最寄りのフィラデルフィアに強制着陸のあと何が何だかよく理解できないまま武装した警官隊にターミナルから追い出され、空港のレンタカーもホテルも瞬時に無くなってしまい、夜中まで何千人という群衆とともにタクシーの順番を待った駐在員など、さまざま。

 

さらにはテロ発生時に中西部のクリーブランド出張中だった西海岸勤務の日本人駐在員とアメリカ人社員の3人組は、レンタカーでカリフォルニアまでの4000kmを交代で2日で走り通したツワモノでした。彼らの感想は、アメリカ人でさえ一生行くことなどないと思っていたネブラスカ州が「果てしなく広くて長かった」です。w

 

そんなこんなで私は4日遅れでNYに帰りましたが、少し身近なところでは、長男の現地校の友達のお父さんが消防士として崩落前のツインタワーに突入して殉職。また同じ会社のアメリカ人で証券マンの弟が犠牲になった人もいました。

 

 

半年後、WTCの跡地は"Ground Zero"として一時的なモニュメントになりました。

 

 

現場には犠牲者への哀悼メッセージとともに、人探しの張り紙もまだ多数ありました。

 

 

さらに半年経った1年後の2002年10月、通い慣れたデッキからもうWTCの姿は見えません。代わりに鎮魂のライトが、天高く照らします。

 

 

あれから20年。今年は米軍のアフガン撤退という大きな節目とも重なったことで内外のメディアが 9.11の特集を多数組んだようで、私はCNNとナショジオの特番とNHKスペシャルを一気に見ました。さすがに20年も経つと、事件の真実の多くが明らかになり、かつ公然と語られるようになっている一方、新たな陰謀論も数々生まれているようです。

 

アメリカのCNNとナショジオが 9.11当日に起こった事実を時系列で割と淡々と伝えていたのに対し、日本のNスぺは元FBIのエージェントを雇ってサウジアラビア黒幕説を追い続けサウジ政府の告訴まで行きついた 9.11遺族たちに焦点を当てた1時間で、とても見応えがありました。民放のように無意味な演出をしない、NHKの上質なドキュメンタリーは健在で、CNNにもナショジオにも見劣りしなかったと思います。

 

でも見ていていちばん衝撃的だったのは、9.11当日、WTCに2機、ペンタゴンに1機が既に突入し、残り1機のUA93便がワシントンの連邦議会かホワイトハウスに向かっているのを迎え撃つべく出撃した空軍の女性パイロットへのナショジオのインタビューでした。こんな形の本土攻撃を想定できず、ミサイルを搭載する時間(10~20分)の余裕もなく丸腰で飛び立った2機の戦闘機。

 

そのうち1機を操縦する女性がもう1機の上官に、丸腰でどうやってUA93便を撃墜するのか問うと、「これは、Suicide mission (自殺ミッション=特攻)だ。UA93便を見つけたら、オレは機首に突っ込むから、お前は尾翼に体当たりしろ」…。

 

 

 

結局、UA93便は勇敢な乗客によるハイジャック犯への反撃でワシントンに到達することなく墜落しましたが、上官の命令で自分の死を意味する捨て身の探索で標的を求めていた瞬間について淡々と話す女性パイロットの物静かな迫力というか、覚悟というか…。

 

 

米軍は歴史的に戦闘員の生命を第一優先にしてきたはずなのに…。(これもナショジオの好きなネタで、先日は太平洋戦争で日本軍に撃墜された500人のパイロットを救助した米海軍の潜水艦の活躍という番組をやっていました)

 

アメリカの凄さは、突然の有事にそれぞれの現場のプロたちが最善のアクションを瞬時に判断して覚悟を決めて突き進む底力の凄さ。

 

最初のWTC攻撃がテロだとわかっても、いったいあと何機が乗っ取られているのかわからない中、全米の航空管制に全ての飛行機を緊急着陸させることで残り3機のハイジャックを特定できたのは、時間がかかる本来の決裁ルールを無視した一人の管制官の機転と英断だったと、これもナショジオの特番が追っていました。

 

翻って日本は…?

 

万が一の尖閣有事の際、法律とルールに縛られて動きの鈍い自衛隊員より先に米兵が犠牲になるようなことをアメリカの世論が許すだろうか? 尖閣は安保の対象だって大統領も言ったでしょ、だから、はい、アメリカさん、よろしく!…などというぬるま湯では済まない覚悟をこの国の政府は本当に持っているのでしょうか?

 

次の20年は、私の人生最後の20年。見たくないこの国の姿を見ることになりそうな嫌な予感です。

(おわり)