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では、今日は先週末のウィーンの舞台鑑賞について。

 

Giacomo Puccini "Madama Butterfly" (October 10, 2019) @Wiener Staatsoper

Cio-Cio san: Kristine Opolais

Pincaton: Ivan Magri

Sharpless: Paolo Rumez

Suzuki: Monika Bohinec

 

以前テレビで観て以来、かなりはまってしまったオペラ「蝶々夫人」。ヨーロッパ滞在中に一度は観ておきたいなと思っていたところ、近場の(笑)ウィーンで、しかも最高のプッチーニ歌いと言われるオポライス主演で上演されることを知って、5月に事前リクエストでチケットをゲット!140ユーロと決してお安くはなかったけれど、バルコンの1列目ど真ん中で観られたし、何より当日立ち見券売り場にできた長蛇の列を目撃してしまい、早々に買っておいて本当に良かったと痛感しました。開演2時間前にして既にオペラ座の裏手にまで行列ができていて、思わずデパートの初売りかと思ってしまいました。(笑)「蝶々夫人」は初心者にも分かりやすい定番演目なので、人気なのは分かりますが、まさかここまでとは!!

では舞台の感想を。日本人からすると日本へのステレオタイプがてんこ盛りの作品なので、あまり好きではないという人も多いようですが、僕はけっこう好きです。「夫の帰りを信じて、一途に待ち続ける控えめな日本人女性」は今の時代には絶滅危惧種かもしれませんが(失礼)、そのような女性像がもてはやされた時代もあった訳で…何より、このストーリーは日本人の価値観が存在したからこそ生まれたものだと思うので、名作を創り出した日本の文化的土壌を誇りに思います。もし西洋が舞台だったら、蝶々夫人が怒り狂って、ピンカートンと妻を殺害して幕、というよくありがちな血生臭い愛憎劇に仕上がっていそう。(笑)

 

また、今回のプロダクション、舞台装置や着物の色遣いがかなり美しく、ヘンテコなものがなかったので、「ウィーンも意外とやるじゃん」とプログラムを見たら、美術デザインはかの藤田嗣治でした。道理で正統派の日本だと思ったわけです。今まで観た「蝶々夫人」の中で、一番美しい美術でした。

(画像はウィーン国立歌劇場ホームページより)

 

ただ、やはり歌詞や作法は日本人なら思わず笑ってしまうものも多いです。

特に序盤、ピンカートンに仲介人が家の説明をする際のやり取りがこちら。

仲介人:「(障子を開け閉めしながら)開けるも閉めるもお望みのまま。同じ部屋を違う用途にも変えられます。」

ピンカートン:「寝室はどこに?」

仲介人「こちらでもあちらでも、どこででも。」   

ピンカートン「居間は?」

仲介人「(縁側を示して)こちらに。」

ピンカートン「外にあるのか!」

仲介人「(障子を見せながら)片方は滑ります。もう片方も滑ります。」

ピンカートン「ちゃちな家だな。」

このやり取りで爆笑。(笑) たしかに、扉が滑ったり、1つの部屋をいくつもの用途で使えたりするのは外国人からしたら珍しいでしょうね。でも、居間は縁側でなく、室内でも良くね?と思ったり。(笑)

あとは、外国人が正座しているのを見ながら、「絶対あの人たち今足つってるよな」なんて想像してしまったり。(笑)

しかし、この他は、比較的まともな日本の描写だったように思います。中途半端にいじくらずに、伝統的な日本の景色を再現してくれたのが高評価。

 

演出の話が長くなってしまいましたが、肝心の歌手の感想も。

タイトルロールのオポライス、素晴らしかったです。180センチほどの長身の彼女にとって、15歳~18歳の日本人女性を演じることにはかなりのハンデがありますが、それをものともせず、彼女らしい蝶々さんを見せてくれました。日本的所作を作りこんで演じるというよりは、彼女なりの解釈で動くことが多かったのですが、見ているうちに「こんな日本人女性が実際にいたかもしれない」と想わせるだけの説得力がありました。特に、ピンカートンの裏切りを知ってから命を絶つまでのシークエンスは大熱演で、死を決意した時の凛とした強さ、子供を思う親心等が見事に表現されていました。ラストで刀を突きたてる場面は、屏風の後ろで行うので観客からは見えませんが、緊迫感がすごかったです。出待ちでお会いした時に「観客からは見えていないけれど、そう思った瞬間に気持ちが途切れてしまうから、役に入り込み続けるために色々考えた」とおっしゃっていました。

また、演技に加えて歌唱力ももちろん素晴らしく、テクニックをひけらかすことはしないのですが、歌がまるで台詞のように聴こえてきたのはさすが。有名な「ある晴れた日に」も、もっと派手に歌うのかと思いきや、けっこうあっさりしていたのは意外でしたが、ここはあくまでも蝶々さんが、スズキと自分にピンカートンは帰ってくるのだと言い聞かせている場面。そう考えると、優しく語りかけるような歌い方には納得しました。ただ、拍手が少なかったのは、観客としてはもっと盛り上げてほしかったという気持ちがあったのかも。ご本人曰く「オケの音が大きすぎて、ちゃんと声が届いているのか不安だった」そうなので、もしかしたら意図していなかったのかもしれませんけれど。ウィーンフィルの演奏は綺麗なのですが、わりと歌手やダンサーそっちのけで勝手に盛り上げてしまう印象は受けていたので、出演者側から見ても、自分勝手なオケなのね、とちょっと笑ってしまいました。

ほぼ出ずっぱりの蝶々さんですが、やはり当代一のプッチーニ歌いと言われるだけのパフォーマンスを見せてくれて大満足。終演後、号泣しているおばさま方が何人もいらっしゃったのが、その素晴らしさを物語っていました。僕は、ラストよりも、第2幕でピンカートンの船が帰ってきたことを知り、喜ぶ彼女の姿を見て泣きました。(笑) ラストはすごすぎて涙すら出なかったです。

出待ちの際に、「日本人女性の謙虚さや誠実さだけでなく、内面の強さを表現してくれたのがとても良かった」とお伝えしたら、「日本の方にそのように言っていただけるのは、とても大きな意味を持つから嬉しい」と喜んでくださいました。やはり日本人が感想をお伝えしたら喜ばれるかなと思ったのも、出待ちをした理由の1つ。最初「日本人だ」と伝えたら「まあ!あそこが変だったとか、あれこれ言わないでね~」とふざけていらっしゃいましたが、スターであるにもかかわらず、お茶目な面もあり、ファン対応も丁寧だったので好印象でした。

 

オペラ界最低男ランキング上位ランクイン間違いなしのピンカートン(ゲス男なのに曲は素晴らしく美しいところがミソ)、どこかに実在しそうな働き者の女中スズキ、これまたリアルな領事シャープレス等、脇に至るまで素晴らしくレベルの高い舞台でした。

 

相変わらずぶれっぶれですが、カーテンコール写真を何枚か。子役も遅い時間まで頑張って、可愛らしかったです。

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