
「三たびの海峡」読了:帚木蓬生 ★★★★☆ 465ページ
戦時中の朝鮮、日本での使役のために半ば強制的に病弱な父親に代わり、海峡を渡った主人公河時根の一度目の渡航。過酷な労働、仲間の死、同胞の裏切りに長く自らの命が耐えられないことを悟り、福岡の炭鉱から脱走、途中で恋に落ちた千鶴と朝鮮へ帰る2度目の海峡越え、50年後、事業家となった彼は、日本に残って事業を営む徐から当時過酷な環境を強いた山本三次が市長となり、忘れがたき炭鉱のボタ山を撤去するという施策を打ち出していることを手紙で知る。
そして、自ら忘れようとしていた3度目の海峡を渡ろうと決意する。
河時根の壮絶人生を豊かなディテールで描く本作は読むにつれ、ずしん、と心に重石をのしかける。五味川純平の人間の條件にも共通する底暗い戦争における人間の本能の露出は、平和に生きる我々は是非、肌で感じておかなくてはいけない。人間は本能を理で抑えることを真剣に模索しているのであろうか。
歴史を踏まえたところで生きる我々は、知を持った人間たるがゆえに、多面的に切り口をもった客観的な姿勢で、歴史を感じていく必要があると感じました。
本作はその切り口の一つとして素晴らしい作品であると思います。
帚木作品を初めて読みました。
ストーリーもさることながら、テンポもよくさくさく読める筆力に脱帽。
他の作品も読んでみようと思います。
千鶴との恋物語は重い内容の中の一幅の清涼剤。
推薦。