はい! 歴史大好きの奈央です。
よく、古墳の発掘などで、その築造年などが問題になることがよくありますよね。
甕棺や古墳の玄室なんかに被葬者の人骨が残っている場合、その炭素14を調べることで、年代が簡単にわかりそうなんですけど、どうしてできないんでしょ?
実は、骨試料はAMS放射性炭素(炭素14)年代測定のために最もよく利用される物質なんだそうです。
でも、いろいろな問題もあるんだそうです。
骨の成分について
骨は30%の有機質と70%の無機質で構成されています。
有機質はタンパク質で、無機質はリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸塩で構成されるハイドロキシアパタイトです。
骨の主な化学組成
コラーゲン: たんぱく質の一種
骨の約20%
リン酸カルシウム: 化学式 Ca10(PO4)6(OH)2
骨の約60%
炭酸カルシウム: 化学式 CaCO3
骨の無機質成分の約15%
主にコラーゲンから成るタンパク質は骨に強さと柔軟さの両方を与え、ハイドロキシアパタイトは、骨の硬い構造の基となります。
理論的には、有機質でも無機質でも炭素原子(C)を含んでいるため、年代測定が可能です。
しかし、無機質であるハイドロキシアパタイトは格子状のオープンな構造のため、地下水中の炭酸塩の影響を受けやすく、年代測定に適さないそうです。
ハイドロキシアパタイトは酸に溶けるため、希酸による前処理では汚染した炭酸塩を取り除けません。
一方、タンパク質は比較的酸に溶けにくく、ハイドロキシアパタイト成分や他の炭酸塩と分離が可能だからです。
従って、ラボでは主に有機質であるタンパク質を抽出して骨試料のAMS年代測定を行うそうです。
人骨サンプルで年代を決定する場合、食べ物によって年代が変化するそうです。
それは、魚介類を主食としている場合、古い炭素(炭素14が更新されない海底蓄積有機物)が摂取されるため、AMS年代測定で、古い時代という結果が出てしまうそうです(海洋リザーバー効果)。
そんな場合、食料中の炭素と窒素の安定同位体比(δ13C/δ15N)から、過去の食生活を推定できるそうです。
それによって、海洋リザーバーの炭素が何%含まれているかが推定できるそうです。
それでは、その一例をご紹介しましょう。
縄文人骨の年代を決める
ークロノスフィア 時を刻む先端科学 より
H5 縄文人骨の年代を決める (u-tokyo.ac.jp)
地球規模の炭素循環は私たちの身体にもその痕跡を刻んでいる。例えば、東京都北区にある縄文時代の貝塚遺跡である西ヶ原貝塚から出土した人骨の例を見てみよう。この遺跡では、2007年の発掘調査で、縄文時代後期初頭の称名寺式の土器に収められた胎児骨が発見された。
土器の研究から、称名寺式の土器は較正年代で、4420~4250年前(cal BP)に使用されたと推定されている。
ところが、この胎児骨の放射性炭素年代をそのまま較正すると、4568~4440年前となった。
土器編年では、骨が納められていた称名寺式よりもひとつ古い、縄文時代中期加曾利E4式期(4520~4420年前)に相当する年代だ。
縄文人が魚貝類を食べたため、炭素14が減衰した海の炭素が影響したのだ。
そこで私たちは、骨のタンパク質(コラーゲン)で炭素と窒素の安定同位体比(δ13C/δ15N)を測定した。この値は食物の割合に応じてその特徴が反映するので、過去の食生活を推定できる。
食料資源の安定同位体比との比較から、この胎児骨の場合、母親が摂取した魚貝類を通じて海洋リザーバの炭素が約34%含まれていると推定された。
海洋リザーバー効果
東京湾採取のシオフキなどの年代から東京湾の海水は大気よりも約460年古いと推定された。
3割が海洋由来の炭素だとすると、胎児骨の年代は海産物のせいで150年ほど古くなっていることになる。その分を加えて再計算すると、4412~4296年前という年代になった。
これは、称名寺式土器の年代とぴたりと一致する。
個体識別
今回調査中に、不明人骨とされていた資料の中に、「西ヶ原十七区」と書かれたメモと一緒に1951年の新聞紙にくるまれた人骨が見つかった。
メモを残したのは理学部人類学教室で多数の発掘を行った酒詰仲男だ。
しかし、酒詰が残した日誌の記録と骨に注記された発掘区が一致しない。
そこで、調査記録と形態学的な特徴から別個体と想定された7点について、同位体分析と年代測定を実施した。
頭骨を除く全身がほぼそろっていた1号人骨は成人女性で、その箱には酒詰日誌にあるように別個体の男性の膝蓋骨が含まれていた。この2つは非常に近い年代を示すが、安定同位体は一致しない。
3号と想定された下顎骨と4号と想定された大腿骨も年代は一致するが、安定同位体は大きく異なり明らかに別個体だ。
一方、3号と想定した距骨と5号と想定した大腿骨は、年代も安定同位体比もよく一致しており、同一個体の可能性が示された。
結論
考古学的な情報が失われてしまった西ヶ原人骨には、縄文時代後期の加曽利B式期の少なくとも6個体の人骨が含まれていると判断された。
(米田 穣・佐宗亜衣子)
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AMS放射性炭素(炭素14)年代測定、そして炭素と窒素の安定同位体比(δ13C/δ15N)測定によって、ご遺骨の人物がいつの時代に生きていたか、どんな食料を食べていたか、さらに、他の人のご遺骨が混入していても個人識別によって分けることができるなんて、凄すぎます!
はい! 今回はここまでです。
次回は、炭素14がどうやってできるのかについて調べてみたいと思います。
それじゃあ、またね。