はい! 奈央です。
今回は、水素キャリアとしてのメチルシクロヘキサン(MCH)のご紹介です。
水素貯蔵能力の高い水素キャリア
インプレスSmart Grid フォーラムHPよりお借りしました。
前のブログでは、簡単に次のようにご紹介しました。
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メチルシクロヘキサン(MCH)
トルエン メチルシクロヘキサン(MCH)
メチルシクロヘキサン(MCH)は、トルエンに水素を付加させて作る液体であり、水素ガスと比べると体積当たり500倍以上の水素を含んでいます。
そのため効率よく水素を運搬できます。
さらに、MCHは石油に似た性状の液体のため、既存の石油インフラを活用できるというメリットもあります。
水素キャリア メチルシクロヘキサン(MCH)
日経XTECH HPよりお借りしました。
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さて、トルエンは、ペンキ、塗料用シンナーの溶剤として身近にたくさん存在するものです。沸点は約111℃、融点は約-95℃の無色透明の液体で、ガソリンの成分でもありますね。
また、メチルシクロヘキサン( MCH)は、重油から得られる留分の一つでもあり、インクの修正液の溶剤として一般に使われている身近なものです。
融点は-126.3 °Cで沸点は101℃と、常温・常圧では液体、強い毒性や臭いはなく、腐食性もなく、長期貯蔵にも問題がない。水素キャリアの中でも最も扱いやすい材料といえます。
メチルシクロヘキサンは、化学構造的に言うと、シクロヘキサン環にメチル基が1つ結合した構造で、いす型配座を採ります。
立体障害を回避するため、メチル基が外側を向くエカトリアル配座(右側)が優勢です。
用途
メチルシクロヘキサンは、修正液、医薬品や農薬製造用の溶媒、ジェット燃料としても使われます。
トルエンに比べても毒性が低く、有機溶剤中毒予防規則の対象外なのです。
メリット
MCHもトルエンもガソリンの成分であることから、その輸送、貯蔵では既存のガソリン流通インフラを使うことができるのです。
つまり、水素ガスを常温、常圧で約1/500の体積の液体として安全に輸送することが可能なため、例えば、商業化されている5万トンのケミカルタンカーでMCHを運べば、1回に約3,000トンの水素が輸送できます。
(これは60万台のFCVを満タンにできる量に相当します。)
さらに、長期間、大量貯蔵することができるので、備蓄により供給セキュリティの確保を図ることも可能なのです。
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水素キャリアとしての使い方
MCHを水素キャリアとして利用するというのは、MCHとトルエンという2つの物質間の水素の数の差を利用して水素を運ぶというアイデアなのです。
【図1】
国際環境経済研究所HPよりお借りしました。
転換用触媒
この系では、トルエンへの水素添加、MCHからの脱水素といった2つの化学反応を効率よく、安定的に進めるための工業的プロセスの開発が必要となります。
この化学反応は、それぞれ触媒を使って、特定の反応条件下で行われます。
その一例を以下にご紹介します。
有機ハイドライド水素キャリアの脱水素・水素化反応の繰り返し による反応活性への影響 (産総研、JXエネ)
第46回 石油・石油化学討論会(2016)よりお借りしました。
本研究で採用した反応条件においては、副生成物として脱メチル化物が主に生成され、脱水素反応繰り返し10回目までの蓄積量は、0.5mol%以下だったそうです。
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高い反応率ですね。
それでも、今後、脱水素反応に関して、もっと反応率を高める必要があるのではないでしょうか。
それでは、最後に、国際実証試験のニュースについてご紹介します。
世界初、水素を輸送する国際実証試験を本格開始 | ニュース | NEDO
世界初、水素を輸送する国際実証試験を本格開始
―水素キャリアを循環させ、水素社会の実現を目指す―
2020年6月25日
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
NEDOは、水素社会構築に向けた事業の一環として、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)とともに、世界初となる国際間で水素を輸送する実証試験を本格的に開始しました。
本事業は、トルエン/メチルシクロヘキサン(MCH)を水素キャリアとして用いる「有機ケミカルハイドライド法」を用い、水素を供給地から需要地へ輸送する国際間サプライチェーン構築の実証試験を行うものです。
有機ケミカルハイドライド法による未利用エネルギー由来水素サプライチェーン実証
NEDO HPよりお借りしました。
本事業では、ブルネイ・ダルサラーム国のプラントで水素とトルエンを結合させることで生成したメチルシクロヘキサン(MCH)をコンテナで海上輸送し、川崎市内に設置した脱水素プラントで水素を分離し、東亜石油株式会社京浜製油所内の水江発電所のガスタービンに供給します。
また、水素を取り出した後のトルエンは再度ブルネイへ輸送し、繰り返し水素輸送に使用します。
2019年11月、ブルネイにて、実証事業の起点となる水素化プラントが完成、製造されたMCHが、同12月に初めて日本に到着しました。
2020年4月、水素を取り出す川崎側の脱水素プラントが稼働を開始、5月にはMCHから取り出した水素を、川崎側プラントを設置した東亜石油(株)京浜製油所内の水江発電所のガスタービンに供給し始めました。
そして、川崎側プラントで脱水素処理により分離したトルエンをブルネイへ輸送し、再度水素と結合させる処理を6月より開始しました。
これにより、ブルネイでのMCH生成、海上輸送、日本でのMCHから水素の分離、海上輸送、ブルネイでの再度のMCH生成、という一連のプロセスで構成される水素サプライチェーンが完成し、安定稼働に入りました。
<実証事業の詳細>
水素輸送能力:フル稼働時 210トン/年(燃料電池自動車フル充填 約4万台相当)
チェーン運用期間:2020年 1年間
水素供給源:LNGプラントのプロセス発生ガスから水蒸気改質により水素製造(ブルネイ)
水素供給先:火力発電設備の燃料用途等(川崎臨海部)
輸送方法:ISOタンクコンテナ(コンテナ船/トラック輸送)
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今後、MCHを水素キャリアとした国際輸送が本格化すれば、水素社会へ一歩ずつ踏み出すことになるのでしょうね。
楽しみですね。
はい。 今回はここまでです。
次回は、もう一つの水素キャリア アンモニア のことについてご紹介したいと思います。
それじゃあ、またね。