はーい! プラスチック探偵のナオでーす。
レーヨンはもともと、高級品であったシルクの代用品として開発されましたが、当時は強度や耐火性に問題があったそうです。
その後、科学の進歩によってさまざまな製造方法が開発され、現在私たちの身の回り品のほとんどには「HWM(ハイ・ウェット・モジュラス)レーヨン」と呼ばれる、丈夫さとしなやかさを兼ね備えた素材が使われているそうです。
最近は、HMWだけでなく、テンセル、リヨセル、モダールなんていろいろなレーヨンが開発されています。
どう違うんでしょうね?
これらの新しいレーヨンについては、また後のブログで紹介しますね。
さてさて、今回のレポートは
レーヨンの光沢はどこから生まれるの?
です。
LIMIA HPよりお借りしました。
シルクのような肌触りのよさはレーヨン最大の特徴です。極細のフィラメント糸に加工することで、軽量さと柔らかさを実現することができます。また静電気に強く、肌にまとわりつく不快感がない滑りの良さもレーヨンの特性です。
でも、下の顕微鏡写真で見る限り、レーヨンと綿(コットン)とは明らかに違いますが、絹とも違いますね。
では、レーヨンと絹の共通点って何でしょうね。
レーヨンの顕微鏡写真
コットンの顕微鏡写真
絹の顕微鏡写真
日本化学繊維協会HPよりお借りしました。
絹の微細構造に伴う複雑な反射や屈折による光沢の発現
昨日のブログでご紹介したように、絹フィブロインの内部の複雑な微細構造によって、真珠の輝きに似た優美な光沢が発現していました。
The Silk in Tango Kyoto Japan HPよりお借りしました。
実は、レーヨンの場合も、その内部の複雑な微細構造によってあの光沢が発現していたようなのです。
それについての情報は以下の通りです。
SPring 8 大型放射光施設HPより
SPring-8 Web Site (spring8.or.jp)
木材の利用 -再生セルロースの水系溶液からの構造形成メカニズム-(抜粋)
神戸女子大学 山根千弘
はじめに
再生セルロースは木質パルプを一端溶媒に溶解させ,繊維やフィルムなど所定の形状に沈殿して成形したものである。
再生セルロースの例として,繊維ではレーヨン,キュプラなど,フィルムではセロファンなどがある。
再生可能資源である木質資源をもっと有効利用するためには,再生セルロースの利用拡大は重要である。しかし,再生セルロースには利用上の大きな課題がある。それは、極めて水に影響されやすいことである。
なぜそんなに水に影響されやすい構造が出来てしまうのか,再生セルロースの構造形成過程から考えてみる必要がある。我々はこれまで,分子動力学(MD)により再生セルロースの固体構造形成過程を検討し,水に濡れやすい表面(内部表面も)が形成されてしまうことを報告してきた。
ここでは,MDにより得られた構造形成過程を簡単に紹介し,高輝度放射光でその過程を追跡した結果を報告する。
Structure formation of regenerated cellulose
再生セルロースの構造形成
SPring 8 大型放射光施設HPよりお借りしました。
再生セルロースの構造形成
MDによる検討から,次のような過程でセルロース溶液から再生セルロースの構造形成が進むことを我々は提案した。
ちなみに上の図では,すべての分子鎖が紙面に垂直に描かれている。
(1) セルロースの溶媒は極性が高いので,凝固が開始されると,ピラノースリング表面の疎水性表面積を減らすように,ピラノースリング平面の疎水性部分がファンデルワールス力などの疎水性相互作用でスタッキングする。これが分子シートの形成である(上図(a))。
この分子シートはあたかも水中に分散したミセルのように内部が疎水性で,表面は水酸基が露出し親水性である。
(2) 次にこの分子シートが,今度は水素結合で積層し微結晶が出来上がる(上図(b)の左)。
シート同士が歪を持って(シート間隔に分布を持って)積層した部分が非晶となる(上図(b)の右)。
(3) 最後にこれが集合して,再生セルロースが出来上がる(上図(c))。
しかし、分子シートの表面は水酸基密度が高く極めて親水性なので,分子シートが集合した再生セルロースは内部表面も親水性であり,水が浸入しやすい構造になってしまう。
これが,再生セルロースが極めて濡れやすく,吸水性が高いことの原因である。
高輝度放射光での構造形成過程の追跡
セルロース/水酸化ナトリウム水溶液(図の一番上に対応)を加熱(加熱すると凝固する),又はキャピラリ―に入れて,上から凝固液を加えて,凝固過程(構造形成過程)を高輝度放射光(SPring-8; BL40B2)で追跡した。
凝固直後に、q=14 nm-1 に回折ピークが現れた,これは0.45 nmの周期に相当し,まずはじめに分子シートが形成したことを示唆するものである。
シート状物の厚さは、時間とともに厚くなることが観察され,最終的には分子シート3~4層分の厚みになることが示された。
すなわちMDから提案された構造形成過程がSPring-8での実測でも支持されたわけである。
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つまり、厚さ 0.45nm のシート状物が何層にも重なりあって、再生セルロース・レーヨンが出来上がっていくのです。
これは、昨日のブログでご紹介した絹の微細構造に近い積層構造をなっているのではないでしょうか。
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The Silk in Tango Kyoto Japan HPよりお借りしました。
絹フィブロインフィラメントの内部は均質な状態ではなく、径が約10μmのフィブロインは、約1,000本のさらに細いフィブリル(径は約0.2~0.4μm)が束状に集まった構造をしています。
さらに、このフィブリルも数10本の微細なミクロフィブリル(径は約0.04~0.06μm)が束になった、とても複雑な微細構造をしています。
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つまり、再生セルロースであるレーヨンが紡糸の過程で分子シートを形成し、それが積層していくことで均質な微細構造を形成する。
そして、その均質な微細構造によって可視光を反射した光が干渉を起こし、光沢を発現したのではないでしょうか。
以上、プラスチック探偵ナオの推理でした。
はい!
今回はここまでです。
次回は、レーヨンと静電気の関係についてでーす。
それじゃあ、またね。