はい! 奈央です。

 

 

 北海道・北東北の縄文遺跡群は、1万年以上の長い間、戦いのない平和な時代の遺跡群として、国際記念物遺跡会議(イコモス)によって、ユネスコ世界文化遺産への登録勧告がなされました。

 

 

 この平和な縄文時代から、倭国大乱へと続く変化の時代こそが 弥生時代 なのです。

 

 立命館大学宇佐美智之は、このダイナミックな時代を可視化するべく、GIS(地理情報システム)を活用しておられます。

 その一例をご紹介します。

 

 下の図は、北部九州地方の弥生前半期における集落分布様相を可視化した図です。

 ベージュ色の地域が集落を表しており、赤色が濃くなるほど、密度が高まっていることを表しています。

 弥生時代前半期Ⅰ期(夜臼式期-板付Ⅰ・Ⅱa 式期)とⅡ期(板付Ⅱ b ・ c) 式期-須玖Ⅰ式期)の 2期(前半期前半/後半)に分けて 累積可視域図を用いて分布の空間的傾向を現わしています。

 いままで紹介してきた夜臼遺跡、板付遺跡、菜畑遺跡、曲り田遺跡、今川遺跡もちゃんと図示されていますね。

 そして、これからご紹介する須久岡本遺跡平塚川添遺跡三雲井原遺跡吉野ケ里遺跡なんかも明確に可視化されています。

 

 宇佐美智之は、「北部九州弥生時代前半期における集落分布・立地の変化」という2020年の論文で、このGISを活用して、弥生時代前期~中期にかけての集落のダイナミックな変化を可視化 されておられます。

 

 この中で宇佐美が用いた手法として、カーネル密度推定法があります。

 

カーネル密度推定法

 統計学において、確率変数の確率密度関数推定するノンパラメトリック手法のひとつです。

 犯罪の発生地点を表すポイントデータがあったとします。

 そのポイントデータをサンプルデータとして、ポイントのない地点の犯罪発生率を補完して推定したいような場合にカーネル密度推定を使います。

 

 下図の左側は2次元の地図上にポイントを配置したものです。

 右側はそのポイントを元にカーネル密度推定を行い、その値を3次元で表現したものです。点が集まっている部分は確率が高いと推定されます。

 このようにカーネル密度推定を3次元で表わすと、推定結果を可視化できるわけです。

空間情報クラブHPよりお借りしました。

 

 宇佐美氏が用いられた二次元地図は、九州北部の福岡平野と筑後平野を中心とする地域です。

 これらの地域内で発掘された 568遺跡 について、時代ごとの集落の消長を可視化 しているのです。

 

 (1)糸島地域(三雲・井原遺跡、曲り田遺跡)、(2)早良平野(吉武高木遺跡)、(3)福岡平野(板付遺跡、須久岡本遺跡)、(4)糟屋地域、(5)宗像地域、(6)嘉穂地域(立岩遺跡)、(7)田川地域、(8)遠賀川下流域、(9)筑後北部(宝満川中・上流域)、(10)筑後川中・下流域(平塚川添遺跡)、(11)筑後南部(矢部川流域および周辺)、(12)佐賀平野(吉野ケ里遺跡)、(13)唐津平野(菜畑遺跡

 そして、時代区分として、弥生時代早期~前期~中期1期から8期に分けて解析しています。

 

 

 早速、結果の概要を見てみましょうか。

下の図は、1期(弥生早期)の集落の密度を現わしています。

☆印は、拠点的な集落の位置を表しています。

  1期(弥生早期)には、博多湾周辺に多くの集落が展開します。ここで拠点集落となっているのは、板付遺跡有田遺跡那珂遺跡の三つです。

 2~3期になると、板付遺跡の様な整備された構造を持つ環濠集落が展開し、そうした有力な集落を中心に発達していきます。

 佐賀平野(吉野ケ里遺跡)や筑後北部にも拠点的な集落が現れてきます。

 5~6期になると、集落数が大幅に増加し、分布域も著しい拡大を見せます。

 各地でまとまりと拠点的な集落の形成がより進行する段階です。

 7期になると、上に示したグラフのように、集落数の減少があるが、多くの拠点的な集落が発達し、とくに博多湾周辺では、さら中核をなすものが成立してきます。

 比恵・那珂遺跡群、須玖遺跡群、三雲遺跡などです。

 そして、8期の終わり頃(弥生中期後半)になると、それらの中核遺跡の中には、前漢の大型鏡(平原遺跡)などを副葬した王墓を営む集落が現れ、次第に都市的な様相が認められるようになってくるのです。

 

 宇佐美はさらに、GISを活用して、集落立地の時期的変化を解析しています。つまり、丘陵、段丘、扇状地、低地の4つに大別して立地傾向の推移を解析しているのです。

 その結果、

  1期: 低地への集中傾向が強い

  2~3期: 段丘や丘陵が中心を占める。

  4~7期: さらに丘陵が増大し、維持傾向が生じる。

 

 標高について、

  1期: 5~10m、10~15mの低標高域に集約的に展開

  2~3期: 15~20m以上の標高域で多く出現するようになる。

  4期: 55~60m以上の高標高域で出現。

 

 勾配について、

  1期: 約7割の集落が、0~1%の平坦地に集約。

  2~3期: 1~3%、3~5%の微~緩傾斜地で増大。

  4期: 5~10%前後の傾斜地で増大。

  

 以上の様に、GISを用いて 弥生時代の集落のダイナミズム を解析され、各地で次第に政治的・社会的結合が形成されていく過程を推測されています。

 

  もう、とても面白くて、こんなアプローチがあるんだなあって、感心しちゃいました。

 でも、GISって、いろんなところで実際に活用されているんでしょうね。

 

 環境問題なんか、一番、利用しやすい分野かも!ウインク

 

それじゃあ、またね。