アメリカ合衆国シークレットサービス(アメリカがっしゅうこくシークレットサービス、: United States Secret Service, USSS)は、主にアメリカ合衆国大統領警護を行う執行機関

沿革

[編集]

変遷

[編集]

元々は1865年、南北戦争時に偽造通貨の横行に対しての防諜捜査機関として創設されたアメリカ合衆国として最初の国内諜報機関で、1883年に財務省の麾下(きか)となる。その後連邦捜査局(FBI)・アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(ATF)・入国税関管理局(ICE)・内国歳入庁(IRS)等へ警察機構の任務は移行され、財務省の傘下になり、貨幣の取締とともに伝統的に[注 1]大統領警護の業務も置かれていた(2001年まで)。

2001年のアメリカ同時多発テロ事件の影響で、国土安全保障省(DHS)が設置され、シークレットサービスも財務省から同省へと移管された。

年表

[編集]

組織

[編集]

シークレットサービスは、警護を担当するエージェント3,200人、制服部門(Uniformed Division)1,300人、技術・管理部門2,000人からなる6000人以上の職員を抱えている[5]

警護作戦局(Office of Protective Operations)

[編集]

シークレットサービスが担当する警護任務全般を管轄する。その対象は大統領やアメリカの要人に留まらず、アメリカを訪れた各国首脳なども含まれる。

大統領警護部門 (Presidential Protective Division)
大統領及び大統領一家への直接警護を担当する部隊。エージェントが所属する部署である。
制服部門(Uniformed Division)
2011年4月4日、制服部門を前に演説を行うバラク・オバマ大統領。

詳細は「en:United States Secret Service Uniformed Division」を参照

このうち、1922年にホワイトハウス警察隊英語版)として設立され、1930年のシークレットサービスへの完全統合で誕生した制服部門は、ホワイトハウス一帯・副大統領官邸・財務省(ホワイトハウスの敷地内の部署)・ワシントンD.C.内の在外公館の安全を担っており、以下の部隊が存在する。[6]
  • 狙撃部隊(Countersniper Unit:CS)…1971年創設。シークレットサービスのカウンタースナイパーに対する支援を行う。
  • 爆発物探知犬部隊(Canine Explosives Detection Unit:K-9)…1976年創設。シークレットサービスの爆発物対策に対する支援を行う。
  • 緊急対応部隊(Emergency Response Team:ERT)…1992年創設。ホワイトハウス及びその敷地内への不法侵入とその他の攻撃に対する戦術的な対応を行う特殊部隊。ERTの全職員は高度に専門的な訓練を積み、常に身体と戦術的技量を高度に維持しなければならない。
  • 金属探知機(Magnetometers)…シークレットサービスの警護地帯へ入る人物が、非武装であることを保証するために金属探知機による検査を行う。
 
メリーランド州のトレーニングセンターで訓練を行うCAT隊員
特殊作戦部門 (Special Operations Division)
  • 対襲撃部隊(Counter Assault Team:CAT)…1979年創設。重武装の襲撃者に対して反撃し、警護対象者が退避する時間を作る任務を負う特殊部隊[7]。隊員は特別捜査官として経験を積んだ者から選抜される。警護を担当する際は防弾ヘルメットやプレートキャリアを着用し、SR-16アサルトライフルを携行するなど完全武装である。特別捜査官と異なり大統領の側で警護することはないが、常に大統領の周囲に展開しており、大統領の警護車列にもCAT隊員が乗る車両が必ず含まれている。また警護対象が外遊する際、外遊先によっては陸軍特殊部隊群海兵隊フォース・リーコンなどの特殊部隊(日本外遊時なら訪問先の都道府県に関わらず警視庁特殊急襲部隊)と共同で警護を実施することがある。その場合、米軍の特殊部隊員は警護要員としての区別を容易にするため、服装を黒のトップスとタンのパンツに統制される。

技術開発・任務支援局(Office of Technical Development and Mission Support)

[編集]

ニューヨークで開催された国連連合総会でのHAMMER隊員
技術警護部門(Technical Security Division)
主に技術的な側面から警護を支援する部門。爆発物処理やドローン対策などを行っている。
  • 有害物質軽減・医療緊急対応部隊(Hazardous Agent Mitigation and Medical Emergency Response Team:HAMMER)…大統領やシークレットサービス隊員への応急医療技術の提供と、化学・生物・放射線兵器への対処を行う部隊[8]。また大統領が建物や車などに閉じ込められた際の救出も担当する。CATと同様に大統領の周囲に待機し、襲撃を受けた際に対処行動を開始する。隊員は緑のジャケットにタンのパンツ、プレートキャリアを着用し、防弾ヘルメットを着用する例も見られる。携帯する武器は拳銃のみだが、治療のための医療資機材や救出に使うハンマー、バール等の工具を携行する。大統領の外遊の際にも同行し、警護車列に含まれる救急車は本部隊が運用している。

訓練局(Office of Training)

[編集]

捜査局(Office of Investigations)

[編集]

任務

[編集]

警護・警備

[編集]

大統領専用車のドアを開ける特別捜査官
2005年、ブッシュ大統領の就任式パレードで大統領専用車と車列を警護する特別捜査官。

シークレットサービスの任務として広く知られているものは、

  • アメリカ合衆国正副大統領とその一家
  • 大統領選挙投票日まで120日を切って以降は、正副大統領候補とその配偶者
  • 次期正副大統領(選挙結果確定から就任日まで)
  • 元大統領とその一家(当人と離婚していない配偶者(当人が辞退した場合を除き、生涯警護対象となる[9])及び夫妻の16歳以下の子)
  • 訪米中の各国元首と、同行するその配偶者(到着から離米まで)
  • その他の高位にある外国人訪米者
  • 外国で特別任務を行う合衆国の公式代表者(大使・公使)
  • その他の大統領令で定められた個人
  • 国土安全保障省長官が定めた国家特別警備行事(NSSE)

警護警備[10]である(ちなみに、彼らのうち現職正副大統領及び次期正副大統領以外は、警護を拒否することもできる[11])。

合衆国大統領とその家族が旅行する際には、地元警察(アメリカ国内なら訪問先の州警察、日本外遊時なら訪問先の都道府県に関わらず警視庁警備部警護課)及び軍と協力してエアフォースワンマリーンワン等の内部、また大統領専用車両から警護を行う。

シークレットサービスの大統領護衛部門の仕事はシフト制であり、2週間単位で昼勤、深夜勤、夜勤が入れ替わる。これが終わると2週間のトレーニング期間に入り、トレーニング期間が終了すればまた仕事に戻る形となっている。警護中は食事を摂ることも、雨の中で傘をさすことも出来ないなど肉体的に過酷であり[注 2]、だいたいは4、5年で限界が来るとされる[12]

シークレットサービスは、新大統領が就任するとコードネーム(米国大統領)英語版)を付ける。オバマには「レネゲード(反逆者)」、バイデンには「ケルティック(ケルト人)」、などがある[13]

捜査

[編集]

しかしながら、シークレットサービス設立時の本来の任務は、偽造通貨などの取り締まり、様々な不正経理犯罪・個人情報窃盗の捜査、地域犯罪における科学捜査情報の提供である[14]。これらの任務では、政府小切手・トラベラーズチェックのような通貨等価物の偽造、いわゆるナイジェリアの手紙として有名なナイジェリア刑法第419条に抵触するような詐欺、クレジットカード詐欺の捜査を行う。

また、連邦コンピュータ犯罪法に対する司法権も有している。シークレットサービスは合衆国全域に15の電子犯罪特別対策部隊 (Electronic Crimes Task Forces:ECTF) を設立している[15]。ここでは、技術的な犯罪を防止するためにシークレットサービス、連邦/地方警察、民間部門、学術部門との協力関係が構築されている。

権限

[編集]

シークレットサービスの捜査官と職員には、合衆国法典第18編2部203章3056条により以下の権限が認められている[11][16][リンク切れ]

  • 火器の携行
  • 連邦令状を執行する
  • 現行犯逮捕
  • シークレットサービスの管轄する法に反する者の逮捕を導く情報等の、提供の依頼と報酬の付与
  • 本人確認書類の偽造・詐欺商法・架空証券の捜査
  • 法で認可されたその他の職務の遂行