鯨肉(げいにく/くじらにく) とは、食品として扱われる鯨類や、その小型種の一部の総称であるイルカ類の可食部全般を指す。狭義にはイルカ類は除く。筋肉、内臓、鯨類特有の脂皮(脂肪層)などを含む。
鯨類は世界各地で鯨油など多様な利用がされてきた歴史があり、鯨肉の食用もその中の重要な用途の一つである。多様な鯨種や部位に合わせて様々な嗜好や調理法も生まれ、国や地域によって様々な食文化を形成してきた。現在では商業捕鯨が大きく制限されているため、生産量が減少している。価格も商業捕鯨全盛期と比べると大きく値上がりしている。
分類学が発達する前、鯨はしばしば最大の「魚」ととらえられ、魚肉の一つという位置づけで古くから食用とされてきた。そのため、以下の記述では哺乳類の鯨を「魚」として表記する場合がある。
鯨肉の名称[編集]
鯨肉には様々な部位があって食味が異なり、調理法も分かれている。日本では、伝統的に以下のような部位に分類されてきた。ただし、方言が多い。前述のように鯨種によって取れる部位が異なったり、同じ部位でも食味が違ったりする場合がある。
部位[編集]
![](https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0a/Kujira%28WhaleMeat%29-Takashimaya-20101013.jpg/220px-Kujira%28WhaleMeat%29-Takashimaya-20101013.jpg)
![](https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/45/Icelandic_fin_whale_meat_on_sale_in_Japan.png/220px-Icelandic_fin_whale_meat_on_sale_in_Japan.png)
![](https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fe/Koro_Oden.jpg/220px-Koro_Oden.jpg)
![](https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/06/ObakeWhale.jpg/220px-ObakeWhale.jpg)
- セセリ - 舌。「さえずり」とも言う。高級部位とされる。付け根と先端でも味が異なり、全体に脂肪が多い。「コロ」に加工されて関西のおでん種等に用いられるなどした。
- オバ(尾羽) - 尾鰭。脂肪とゼラチン質からなる。「おばけ(尾羽毛)」「おばいけ」とも。塩漬にし、後述の「さらしくじら」に用いる。
- オノミ(尾の身) - 尾鰭の付け根の霜降り肉で、現在は最高級部位とされる。尾肉。刺身やステーキに用いられる。ミンククジラでは霜降り程度が弱く、厳密にはほとんど存在しない。ナガスクジラのオノミが最高級とされる[1]。
- ヒメワタ(姫腸) - 食道のこと。茹でて食べる。
- ヒャクジョウ(百畳) - 胃のこと。茹でて食べる。
- ヒャクヒロ(百尋) - 小腸のこと。茹でて食べる。
- マメワタ(豆腸) - 腎臓のこと。茹でて食べる。
- フクロワタ(袋腸) - 肺。煮物のほか、生食も。
- カラギモ - 肝臓。あまり普通の食用にはせず、肝油ドロップなどにする。
- ホンガワ(本皮) - 表皮と皮下脂肪層。刺身のほか、後述の「コロ」や「塩鯨」にする。
- カノコ(鹿の子) - あごから頬にかけての関節周辺の肉で、鹿の子状に脂肪の中に筋肉が散り、霜降り状態のもの。同じ霜降り肉でも、尾の身より歯ごたえがある。はりはり鍋や刺身で食べる。
- アカニク(赤肉) - 背肉、腹肉などの脂肪の少ない部位。赤身肉。生産量の30-40%を占める最も多い部位であり、かつての学校給食にも供給された。鯨カツや竜田揚げのほか、刺身にも多く用いる。
- シロデモノ(白手物) - 赤肉の対語。本皮などの皮下脂肪部分の総称。白肉。
- ウネス(畝須) - ヒゲクジラの下あごから腹にかけての縞模様の畝状凹凸部分で、白い脂身部分を畝(うね)、その内側の赤い霜降り肉部分を須の子と呼び、この二つが一緒になったものが“畝須”。ベーコン材料のほか茹でても食す。
- ヒゲ - 若いセミクジラのクジラヒゲが食用にされた例もある。代用醤油の原料にも使われた。
- コヒゲ - 歯茎の部分。薄く切って食用にすることがある。
- カブラボネ(かぶら骨) - 上あごの骨の内部にある軟骨組織。松浦漬や玄海漬に用いるほか、江戸時代には鯨熨斗(くじらのし。ホリホリとも。)という珍味にも加工された。
- タケリ - ペニス。江戸時代には薬効があると称された。
- キンソウ - 睾丸。茹でて食べる。
- ヒナ - クリトリス。
加工品[編集]
食品として加工された後の名称として以下のようなものもある。
- コロ - 鯨肉を揚げて油を絞った残りを乾燥させたもの。大阪で好まれ、本来は再利用であったはずが、積極的な生産対象にまでなった。本皮を原料とした一般的なコロ(煎皮とも)のほか、舌を原料とした「サエコロ」、内臓の「ダブ粕」などがある。マッコウクジラのものが庶民には親しまれた。鹿児島県では「セシカラ」と呼ぶ。
- ウデモノ(茹で物) - 百尋ほか各種内臓を茹でたものの総称。
- 末広 - 畝須を茹でたもので、主に長崎での呼び名。断面が末広がりであることに由来。薄く切り生姜醤油などで食す。
- 塩鯨 - 本皮を塩漬けにしたもの。古くから山間部までかなり広く流通し、鯨汁や煮物に用いられてきた。
- さらしくじら - 塩漬の尾羽毛を薄く切って熱湯をかけ、冷水でさらしたもの。酢味噌で食べる。これも「おばけ」などと呼ぶほか、白く透明な外見から「おば雪」「花くじら」とも。本皮の塩鯨も同様に調理できる。
- くじらベーコン - 畝須を塩漬けにしてから燻製にしたもの。表面が赤く着色されていることが多い。薄切りしたものを軽く火であぶるなどして食べる。原料の不足から、本皮で代用されることもある。