“あの”山王工業戦は現在の日本代表を予言していた? W杯開幕前に…『SLAM DUNK』で学ぶ「現代バスケットボールの新潮流」

8月25日からいよいよバスケW杯が開幕。映画『THE FIRST SLAM DUNK』とも共通する3つのポイントを抑えて日本代表の予習をしよう photograph by Kiichi Matsumoto

 いよいよ8月25日からバスケットボールのW杯が開幕する。映画『THE FIRST SLAM DUNK』が大ヒットした年に、このW杯が開催されることだけでもタイミングの良さを感じる。 【写真で比較】「髪の毛まで真っ赤…!」日本代表の“リアル桜木花道”や、『THE FIRST SLAM DUNK』の宮城リョータより小さい「代表の司令塔」を写真で見る  ただ、それだけではない。  あの映画で沖縄宮城リョータの関係が克明に描かれたこととタイミングを合わせたかのように、今回のW杯は沖縄で開催されるのだ(※フィリピン、インドネシア、日本の3カ国共催で、日本ラウンドの会場は沖縄にある沖縄アリーナ)。  地元開催だから、試合も仕事帰りでも見やすい時間帯に設定されている(20時10分または21時10分開始)。そこで今回は『THE FIRST SLAM DUNK』を見た人が気軽に楽しめる、日本代表の3つのポイントを紹介する。  バスケに詳しくない人でも、映画とも共通する3つのポイントを抑えればきっと楽しめるはずだ。

◆ポイント1:3P多投のスタイル

 作者の井上雄彦先生はやはりすごかった。  そう思わざるを得ないのが、山王工業の河田雅史の描き方である。河田のポジションは、当時で言えば「ゴール下を主戦場」とするセンターだった。ただ、作中で河田はセンターにも関わらず3Pシュートを放つなど、アウトサイドでの器用さも描かれている。  そして、漫画『SLAM DUNK』が描かれてから30年弱が経った現在、そこで描かれたセンター像は、世界のスタンダードになった。  当時のセンターといえば、ゴール下で身体を張るのが仕事だった。だが、現在は違う。今ではセンターのポジションの選手も、アウトサイドからシュートを打つのが当たり前になっているのだ。  日本代表のセンターは帰化選手であるジョシュ・ホーキンソンだが、彼は3Pシュートの名手として知られる。一般的に3Pの成功率は、3本に1本決められれば及第点とされているが、彼は昨シーズンのBリーグで33.6%の成功率をおさめている。  今回日本代表に選ばれた12選手のなかで3Pをほとんど打たないのは”リアル桜木花道”こと赤髪の川真田紘也だけ。他はインサイドのポジションの選手でも、一様にアウトサイドからのシュートを放つ。  例えば、日本代表の唯一のNBA選手である渡邊雄太。彼は昨シーズンのNBAのスリーポイント成功率ランキングで一時は首位に立つほどアウトサイドのシュートを決めてみせる。また『SLAM DUNK』で言えば桜木と同じポジションのパワーフォワードで、日本のBリーグでプレーする井上宗一郎も、シュートフォームの美しさを渡邊が賞賛するほどアウトサイドのシュートを得意としている。  そして、忘れてはいけないのが、現在のトム・ホーバスヘッドコーチ(HC)の目指すスタイルそのものが「3Pを多く放つバスケット」であることだ。  ホーバスHCは2021年の東京五輪で女子日本代表を銀メダルに導いた指揮官だ。  アメリカ出身ながら日本語を使って厳しく指導する姿はお茶の間でも話題になった。彼が東京五輪後に女子から男子のチームのHCに転身している。そんな指揮官が東京五輪後に就任して、日本代表の3Pがいかに増えたのか。わかりやすい例を2つ挙げよう。  以前のフリオ・ラマスHCに率いられた東京五輪における1試合平均の3Pシュートを放った数と、今回のW杯直前に有明アリーナで行われた3つの強化試合の平均とを比べると以下のようになる。 ◆東京五輪:28本 ◆W杯今大会直前:43.7本  1試合あたり実に15本以上の増加だ。  個人の選手データでも変化は顕著だ。ちょうど1年前に日本代表に選出され、Bリーグの2022-23シーズンのMVPに選ばれた河村勇輝を例に見てみよう。彼が代表に呼ばれる前の2021-22シーズンと、呼ばれた後(にホーバスHCに3Pを積極的に打つように求められた)の2022ー23シーズンとで1試合の3Pの数を比較すると以下のようになる。 ◆2021-22シーズン:2.8本 ◆2022-23シーズン:8本   実に1人で5本以上も増やしているのだ