資産所得倍増プラン 1.基本的考え方 〇岸田政権では、「新しい資本主義」の実現に向けた取組を進めている。「新し い資本主義」を資金の流れで見ると、企業部門に蓄積された 325 兆円の現預 金を、人・スタートアップ・GX・DX といった重要分野への投資につなげ、成 長を後押しすると共に、我が国の家計に眠る現預金を投資につなげ、家計の 勤労所得に加え金融資産所得も増やしていくことが重要である。 〇我が国の家計金融資産 2,000 兆円は、半分以上がリターンの少ない現預金で 保有されており、年金・保険等を通じた間接保有を含めても、株式・投資信 託・債券に投資をしているのは 244 兆円、投資家数は約 2,000 万人にとどま る。1 他方、米国や英国では、中間層でも気軽に上場株式・投資信託に投資でき る環境が整備されており、米国では 20 年間で家計金融資産が 3.4 倍、英国 では 2.3 倍になっているが、我が国では 1.4 倍に留まっているのは、こうし た投資環境の違いが背景にある。 ○我が国において家計金融資産に占める現預金の割合が欧米諸国に比べて大 きいことは、戦後、企業が銀行などの金融機関からの借り入れで調達する間 接金融が発展してきたことも一因である。貯蓄から投資を実現し、直接金融 への転換を推進することは、ベンチャーキャピタルから資金を調達するスタ ートアップのエコシステムを構築する上でも重要であり、企業の成長を支え るリスクマネーを円滑に供給することにもつながる。 〇中間層がリターンの大きい資産に投資しやすい環境を整備すれば、家計の金 融資産所得を拡大することができる。また、家計の資金が企業の成長投資の 原資となれば、企業の成長が促進され、企業価値が向上する。企業価値が拡 大すれば、家計の金融資産所得は更に拡大し、「成長と資産所得の好循環」が 実現する。 〇従来は、株式や投資信託への投資は、一部の富裕層が行うものというイメー ジがあった。しかし、NISA やつみたて NISA の導入後、1,700 万口座が開設さ れ、28 兆円の新規投資が行われ、かつ、20 歳代から 30 歳代の若年層の利用 が急拡大している。 また、デジタル化により、アプリ上での簡単な資産の管理や、低廉な手数 料での豊富な金融商品へのアクセスも可能になっており、投資経験の浅い方 も含めて、幅広く資産形成に参加できる仕組みを整備し、中間層の資産所得 を大きく拡大することが可能である。 資料3 2 〇また、東アジアにおける地政学的状況が変化する中で、確固たる民主主義・ 法治主義に支えられた安心・安全な拠点という我が国の特性を活かし、「国際 金融ハブ」の実現を目指すべきである。特に、新型コロナの入国規制の緩和 に併せて、一気呵成に、①新たな成長に資する金融資本市場の活性化、②金 融行政・税制のグローバル化、③外国籍の高度人材を支える生活・ビジネス 環境整備と効果的な情報発信などを推進することで、我が国金融市場の魅力 向上を通じて、資産所得倍増をバックアップしていく。 2.目標 〇資産所得倍増プランの目標として、第一に、投資経験者の倍増を目指す。具 体的には、5年間で、NISA 総口座数(一般・つみたて)を現在の 1,700 万 2 から 3,400 万へと倍増させることを目指して制度整備を図る。 〇加えて、第二に、投資の倍増を目指す。具体的には、5年間で、NISA 買付額 を現在の 28 兆円 3 から 56 兆円へと倍増させる。その後、家計による投資額 (株式・投資信託・債券等の合計残高)の倍増を目指す。 ○これらの目標の達成を通じて、中間層を中心とする層の安定的な資産形成を 実現するため、長期的な目標としては資産運用収入そのものの倍増も見据え て政策対応を図る。 3.プランの方向性 〇金融庁の調査によれば、投資未経験者が投資を行わない理由として多いのは、 第1位:「余裕資金がないから」(56.7%)、第2位:「資産運用に関する知識 がないから」(40.4%)、第3位:「購入・保有することに不安を感じるから」 (26.3%)である。4 〇こうした調査からは、簡素でわかりやすく、使い勝手のよい制度が重要であ ることや、小口(100 円~1,000 円)の投資も可能であることの重要性ととも に、長期積立分散投資の有効性が幅広く周知されていないことがわかる。そ して、知識不足の解消や不安の払拭に向けて家計の金融資産形成を支援する ためには、消費者に対して中立的で信頼できるアドバイザー制度の整備が必 要であることがわかる。 こうしたことを踏まえ、資産所得倍増に向けて、以下の7本柱の取組を一 体として推進する。 ① 家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせる NISA の抜本的拡充や恒久 3 化 ② 加入可能年齢の引上げなど iDeCo 制度の改革 ③ 消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組 みの創設 ④ 雇用者に対する資産形成の強化 ⑤ 安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実 ⑥ 世界に開かれた国際金融センターの実現 ⑦ 顧客本位の業務運営の確保 〇なお、税制措置については、今後の税制改正過程において検討する。 4.第一の柱:家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせる NISA の抜本的拡 充や恒久化 〇2014 年に開始された NISA(Nippon Individual Savings Account、少額投資 非課税制度)は、制度の開始以来、利用者数が着実に増加し、現在は 1,790 万口座と国民の7人に1人が NISA 口座を保有している。内訳としては、一 般 NISA の口座数が 1,065 万口座、つみたて NISA が 639 万口座、ジュニア NISA が 87 万口座となっている。買付額については、一般 NISA が 26 兆円、 つみたて NISA が 2.1 兆円、ジュニア NISA が 0.6 兆円となっている。5 ○所得別の NISA の利用状況を見ると、NISA を利用する個人の7割は年収 500 万円未満である。また、所有資産額別では、NISA 利用者の過半数は世帯保有 金融資産が 1,000 万円未満となっている。我が国の家計の平均保有金融資産 額は単身世帯が 1,062 万円、2人以上世帯で 1,563 万円であることに鑑みる と、NISA 制度は中間層を中心とする層の資産形成のために活用されているこ とがわかる。6 ○各世代の NISA 口座の開設状況をみると、どの世代でも概ね2割の国民が口 座を開設している。30 歳代まではつみたて NISA の開設が多く、40 歳代以上 では一般 NISA の開設が多い。特に足元では、20 歳代から 30 歳代の若年層の 買付が伸びている。60 歳代以降の買付額では、一般 NISA が多い。7 ○個人投資家を対象としたアンケート調査によると、NISA 口座開設によって、 「大きな資金がなくても、少額から投資が始められることが分かった」、「長 期投資や分散投資を意識するようになった」、「預貯金だけではなく、投資を 通じた財産形成の必要性を感じるようになった」といった回答が多く見られ、 投資に対するイメージがポジティブに変化することがわかる。

○他方で、NISA 口座を保有しない方へのアンケート調査によると、NISA 口座 を開設しない理由について、「そもそも投資をする気がない」や「制度が複雑 である」といった回答が多く見られる。9 ○NISA は中間層を中心とする層に対して、資産形成の入り口として定着しつつ ある。他方、上述のように、NISA の活用割合は2割であり、更に活用を促す 余地は大きい。そこで、制度の予見可能性を高め、制度をシンプルにするこ とにより中間層を中心とする層の資産形成を更に促すため、NISA 制度の恒久 化を図る。併せて、非課税保有期間の無期限化と非課税限度額の引上げを進 める。 ①NISA 制度の恒久化 ○現在、NISA は一般 NISA(一人当たり 120 万/年、5年間非課税)とつみたて NISA(一人当たり 40 万円/年、20 年間非課税)が成年向けの制度として存在 する。 ○2014 年に時限措置として一般 NISA の制度が開始され、その後、2018 年につ みたて NISA の制度が導入された。当初、一般 NISA は 2023 年までの投資可 能期間の期限が設定され、つみたて NISA は 2037 年までの投資可能期間の期 限が設定されていた。現在では、2024 年に一般 NISA が見直され、2028 年ま での投資可能期間の期限を設定した新 NISA に変更される予定となっている。 また、つみたて NISA は投資可能期間の期限が延長され、2042 年までの期限 が設定されている。 ○他方、NISA 制度が時限的な措置として設けられている限り、制度の終了が意 識されることで長期的な投資が行いにくいという指摘が個人投資家等から なされている。中間層を中心とする層に対して安定的な資産形成を促す観点 からは、将来にわたって安定的な制度として NISA を措置することで、NISA を活用した金融資産形成についての予見を可能とすることが必要である。そ れにより、継続的な投資を促すことが可能となる。 ○一般 NISA は、株式投資信託、国内・海外上場株式も含めて幅広い投資先への 投資が可能であり、個人投資家による企業への投資が企業の成長を支える資 金となり、成長の果実が個人投資家に還元されるという循環がある。一般 NISA を用いて個人が企業に対して直接資金を供給することで、資金面から日 本の成長を支えるエコシステムの構築につながる。 ○つみたて NISA は、投資先を金融庁が告示した要件を満たす長期・積立・分散 投資に適した公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定している。 このため、投資経験が浅い者等にとっての少額からの長期・積立・分散投資 5 を支援するのに利便性の高い制度となっている。 ○一般 NISA とつみたて NISA のいずれも重要な意義を有するものであり、そこ で、NISA 制度を恒久化することによって、中間層を中心とする層が将来にわ たって安定的に資産形成を行う環境を整備する。 ②NISA の非課税保有期間の無期限化 ○一般 NISA では、一般 NISA の口座において購入した金融商品について、投資 開始の5年後まで金融商品から得た利益(配当金、譲渡益等)が非課税とな っている。つみたて NISA についても同様に、つみたて NISA の口座において 購入した金融商品について、投資開始の 20 年後まで一定の投資信託への投 資から得られる利益(分配金、譲渡益等)が非課税となっている。 ○投資は短期的には収益に振れが生じるものであるが、長期的に平均すれば資 産形成に大きな効果がある。他方で、非課税期間に期限が存在することで、 短期的に含み損益が生じた場合に長期で価格が上昇するのを待つのではな く、短期的に損益を確定させてしまい、長期で保有を継続するというインセ ンティブが生じにくい制度となってしまっている。 ○さらに、20 歳代や 30 歳代からつみたて NISA での投資を開始した場合、40 歳 代や 50 歳代という未だに資産形成の段階にある時期に、20 年間の非課税保 有期間の期限が到来し、資産を活用する時期を迎える前に金融資産を取り崩 すインセンティブが生じることとなる。 ○このため、NISA の投資に関する適切な生涯の上限枠を設けることを前提とし て、NISA の口座において購入した金融商品について、金融商品から得た利益 (配当金、譲渡益等)が非課税となる期間について無期限とし、金融商品の 長期保有へのインセンティブを抜本的に強化する。 ③一般 NISA・つみたて NISA の投資上限額の増加 ○現在、NISA における非課税での年間投資枠の上限は、一般 NISA で 120 万円、 つみたて NISA で 40 万円となっている。 ○2021 年中における投資枠の利用状況をみると、一般 NISA の買付のあった口 座のうち、60 歳代以上の世代では、年間投資額が 100 万円超の世帯が 47%を 占めている。10このことは、年間投資枠の上限まで投資を行う投資家が多く 存在することを示唆している。 ○また、退職金の受取りや住宅ローン返済を終えた 60 歳代より上の世代は、 保有する預貯金額の世帯平均が 900 万円を上回り 11、現在の一般 NISA における生涯の投資上限額である 600 万円を超えている。貯蓄から投資を実現す
るためには、預貯金の過半を保有する高齢者の投資を促し、高齢者にとって
望ましい資産ポートフォリオ・資産配分実現のためにも一般 NISA の投資上
限を拡大することが必要である。
○さらに、働き方が多様化する中で、定期的な収入ではなく非恒常的な収入に
よって生活するフリーランス等の新しい働き方を選択する層も増加してい
る。こうした多様な働き方を支援するためには、資金に余裕のあるときに集
中的に投資を行うことができる環境を整備することが望ましく、一般 NISA の
拡充の必要性が高い。
○他方で、つみたて NISA についても、現在の年間 40 万円の上限では不十分な
場合も想定され、一般 NISA と同様につみたて NISA の投資限度額を拡大する
意義は大きい。また、現在の年間 40 万円の上限額では毎月の投資上限額が 3
万 3,333 円と 12 カ月で均等に割り切れる額ではないことから、毎月均等額
で積立投資が可能となる金額とすることも必要である。
○このように、NISA における非課税での投資の上限額に関して、一般 NISA 及
びつみたて NISA それぞれの投資上限額の増加を図ることで、資産所得の倍
増の目標の達成に向けて、家計の投資環境を整備する。
④2024 年から施行される新 NISA 制度の取扱い
○2024 年 1 月より、一般 NISA は、原則として1階部分において積立投資を行
った場合に限り2階部分で一般 NISA の投資を行うことが可能となる2階建
ての新 NISA 制度に移行する予定となっている。
○新 NISA 制度を利用しないと返答した投資家を対象としたアンケートによる
と、その理由として、45%が「2階建て制度が複雑なため」、31.5%が「1階部
分の積立投資を行いたくないため」としている。12
○簡素でわかりやすく、使い勝手のよい制度とする観点から、新 NISA 制度に
ついては、その施行を見直し、現在検討中の NISA の制度の拡充を行う。
⑤NISA の手続きの簡素化
〇投資未経験者も含めて、利用者が簡単に NISA を活用できるようにするとと
もに、サービスを提供する金融機関や利用者の負担を軽減する観点から、関
係省庁において連携の上、デジタル技術の活用等により、NISA に係る手続き
の簡素化・合理化等を進める。さらに、デジタル庁と連携を図りつつ、マイ
ナンバーカードの活用も含め、NISA・iDeCo の口座開設の簡素化を検討する。