ゲームで人生変わった 元不登校・ひきこもりの33歳男性が語る「分かれ道」とはFacebook

 不登校の児童生徒は2021年度に初めて全国で20万人を超えました。中学1年の1学期で不登校になり、オンラインゲームに熱中してひきこもりの日々を送った新里渉さん(33)=沖縄市。自身はゲームを通じた出会いで社会とのつながりを取り戻した一方で、同じ時期に不登校だったゲーム仲間を自死で失いました。ゲームの光と影に接した経験から、生きづらさを抱える不登校の子どもやひきこもりのゲーマーの居場所づくりに取り組んでいます。

 

 2000年代初頭、オンラインゲーム「メイプルストーリー」にのめり込んだ。インターネットの世界は年齢や性別、地位に関係なく「誰もが平等」。強くひかれた。

 勉強は得意。嫌なことがあったわけでもない。「単に学校が退屈で、仮想の世界が楽しかっただけ」。夜は食い入るようにパソコンに向かい、朝日が昇ると布団に潜った。学校からは足が遠のいた。

 ゲームに熱中するあまり30時間ぶりに食事をして胃痛を起こし、前髪は口元まで伸びっ放し。親は心配でたまらなかったようだが、「人様に迷惑をかけているわけではないから」と、登校を無理に迫ることはなかった。

 次第に、毎日が「味のないガムのよう」に感じられた。一日一日をやり過ごしていた16歳の夏。ひょんなことで、新潟県に住むゲーム仲間に悩みを打ち明けられ、「直接会って解決を後押ししたい」と考えた。会話はチャットのみで、互いに顔も性別も知らない。ただ力になりたいと思い、悩んだ末、姉に旅費を借りて一人旅に打って出た。

 その相手が、現在の妻あかねさん(33)だ。「今の私があるのは妻との出会いのおかげ。救いに行ったつもりだったが、救われたのは自分だった」。旅をきっかけに持った携帯電話の料金支払いや旅費返済のために「働こう」と決めた。

 新里さんにとっての、ひきこもりの「終わり」だった。 
 

■ひきこもり続けた友人は命を絶った

 突然の訃報だった。

 スーパーのアルバイトを経て整体院で働いていた2018年。不登校の頃から親しくしていたオンラインゲーム仲間が亡くなった。久しぶりに彼の携帯電話に連絡を入れると、彼の父親が電話口に出て、自死だったことを伝えられた。遺書には、将来への絶望がつづられていたという。同じ年齢だった。

 自身がひきこもりを脱して、妻あかねさんと家庭を築いた約15年の間、友人は引きこもってゲーム漬けの日々を続けていたと初めて知った。たびたび電話はしていたが、ゲームの話ばかりで、互いに何となく「現実」の話題は避けていた。

 「彼と私に分かれ道があったとすれば、外に出るきっかけとなる出会いがあったかどうか、それだけの話。ひきこもりの頃の生活が10年以上続いていたら、私も命を絶ったかもしれない」

 友人は人気ゲーム「大乱闘スマッシュブラザーズ」の名手。オンライン対戦で全国有数の実力を誇った。「野球やサッカーのように、ゲームで仲間と切磋琢磨(せっさたくま)して練習を重ね、その努力が認められる世の中だったなら、彼は生きていたかもしれない」。友人の父親から生前の様子を聞き、そう思った。
 

■「独りにしない」  夜の居場所を運営

 「ゲーマーを独りにしない。ゲームを通じて社会につなげる」。友人の死を機に昨年、13年務めた整体院を辞めた。以前から手がけていたeスポーツの普及に仕事を絞り、「生きづらさを抱えるゲーム好き」の支援活動も本格的に始めた。

 水曜に那覇市内で、金曜にうるま市内で、午後5時からゲーム好きが集う「夜の居場所」を運営する。参加条件はゲームを楽しむ気持ちだけ。ゲームはオンラインでもできるが「対面に越したことはない」。動作速度が違うだけでなく、何より顔の分かる相手だと負けても楽しいからだ。

 今年、主催するeスポーツイベントで、全国規模では沖縄初のプロ選手を誕生させた。選手は今後、国内外で活動する全国有数のプロゲーミングチーム「DETONATOR(デトネーター)」の一員として、世界に挑む。

 ゲームそのものにさほどの力はない、と思う。それでも「ゲームを通じた人と人の出会いには、人生を変える力がある」。新里さんは、そう信じている。