ジェーン・ドゥの解剖 | 毎日がメメント・モリ

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 これ最初に観たのはちょっと前なんですけども、dTVで今月一杯定額内で観られるのでまた観ちゃった。なかなか奥の深いホラーです。しかもクオリティ高い。「ジェーン・ドゥ」と言うのは身元不明の遺体に付けられる名前で、男性なら「ジョン・ドゥ」になります。「ジェーン・ドゥ」とか同じ名前の人はいないの?と思いますが、この「Doe」自体が「架空の姓」と言う意味らしい。

 

 と、言う訳で主人公は一応この遺体って事になるのかなあ?しかし遺体なので動きません、彼女がゾンビの如く歩き回って何かする事は全く無く、最初から最後まで横たわったままです。しかし怖いし謎が多い、よく考えたもんだなと感心します。

 

 事の発端は、ある殺人現場、家族3人が惨殺された家の地下で半分土に埋もれた女性の遺体が発見されます。行方不明者とも照合出来ず、身元不明の上に外傷が全く無いので検死にまわされます。

 

 

 検死を請け負ったのは、その町で遺体安置所と火葬場を経営するティルデン親子、息子のオースティンはガールフレンドのエマとデートの約束でしたが、その直前にジェーン・ドゥが運び込まれ、父親のトミーを助けるためにデートの時間を延期します。この時、トミーは「一人でできるから大丈夫だ」と言うんですが、オースティンは残るんですね。父親の言う事に従ってれば恐ろしい目に合わずに済んだのに。

 

 

 検死はいつも通りに始まりますが、いつも通りには進みませんでした。実に不可解な事ばかりが発見されます。まず、外傷も無いのに手首足首を骨折しており、死斑も無く、爪の中からはこの辺りに無い泥炭が発見されます。口を開けると舌が千切られた様な跡を残して無くなっていました。

 

 

 その後も本当なら執刀した際には出血しないはずなのに夥しい出血があったり、抜かれた奥歯が何やら不思議な文様の描かれた布に包まれて胃の中から見つかったり、内臓に多くの傷が付けられていたり、肺が真っ黒に焼け焦げていたり有り得ない事ばかりが起こります。中でも推測の大きな鍵になったのが体内から発見された朝鮮朝顔。

 

 

 解剖が進むにつれて周りでも不可解な事が起こり始めます。飼い猫が瀕死の状態で発見される、ラジオの電波が乱れ急に歌が流れ始めたり、暴風雨と洪水の告知、停電、エレベーターの故障、安置してあった遺体に襲われる等等。恐れをなした親子はジェーン・ドゥを焼却しようとしますが、検死の証拠になるビデオカメラが燃えて火が収まり、彼女の遺体は元の美しいまま……

 

 煙の向こうから遺体の足に付けられた鈴の音だけが聞こえてくるシーンは何だか日本のホラーみたいで怖いんですよ、はっきり見えない怖さ。

 

 

 布に書いてあった文字から浮かび上がって来たのが1692年にアメリカのニューイングランド地方マサチューセッツのセイラム村で起こった、かの悪名高きセイラムの魔女裁判でした。

 200人近い村人が告発され、19名が処刑、1名が拷問、2人の乳児を含む5名が獄死したと言う記録ですが、そもそも降霊会に参加していたアビゲイルが突然暴れ出すなど奇妙な行動を起こす様になり、それがきっかけで先住民の使用人や、そのほかに降霊会に参加していた少女たち、の中でも身分の低かった少女たちが逮捕され、自白すれば減刑と言われたために男性を含む多くの村人が次々に告発される羽目になりました。最近ではこの「急に暴れ出す」や「引きつけを起こす」などの症状は病気が元であったと考えられていて、特に麦角アルカロイドによる中毒では無いかと言う説もあります。この麦角中毒は菌に感染したライ麦で作られたパンによって強烈な幻覚や激しい手足の痛みを伴い、進行すると壊死を起こすので「聖アントニウスの火」と呼ばれ、中世ヨーロッパなどでも恐れられていました。これによく似た幻覚症状が朝鮮朝顔によって引き起こされるんですね。

 

 つまり彼女はLSDに似た朝鮮朝顔による幻覚、幻視などの症状から魔女の汚名を着せられ、拷問を受けたのではないか。(推測)

 

 そして一番恐ろしいのは、彼女の脳の一部を切り取り顕微鏡で見たところ、細胞は活発に動いている、つまり彼女は生きていた!!生きながらにして身体の中を傷つけられ、数百年の間、解剖され、燃やされ、それでもまた元に戻ってしまう、彼女の目的は自分が受けて来た同じ痛みを全ての人に味あわせる事。彼女は無実の罪で拷問され本物の魔女になってしまったのか!?

 

 次の朝、遺体安置所でティルデン親子とエマの遺体が発見されます。ここで何が起こったのか知る人は誰もいません。ジェーン・ドゥは開腹され骨を切られ臓器を摘出されていたのにも関わらず元の美しいまま発見され、何と大都市の病院に映される事になります。

 

 この事件はこのまま連鎖して行くんでしょうか、それとも誰か彼女と互角に渡り合える人間が現れるのか、でも続編とか作らなくていーからね。

 

 淡々としながらもかなりの緊張感があり、解剖なのでゴアありですが過剰なものは無く正統派ホラーと言った趣です、間違いなく名作です。まあ、過剰演出が無い方がよりリアルで怖いっちゃー怖いです。だから解剖とか苦手な方にはオススメ出来ません。

 

美しい遺体の中には地獄が待ち受けていた。

 

 

†††アンドレ・ウーヴレダル監督作品
オースティン・ティルデン:エミール・ハーシュ
トミー・ティルデン:ブライアン・コックス
エマ:オフィリア・ラヴィボンド

バーク保安官:マイケル・マケルハットン

ジェーン・ドゥ:オルウェン・ケリー

 

†††2016年 アメリカ
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