知人から森永卓郎のある本を勧められた。その本も気になったのだが、先ずはFPとしてこちらの本を読んでみた。
2024年から新NISA制度が始まった。あれこれと書かれているが、終盤に「快楽」って言葉が出てくる通り、要するに「過度にのめり込むな」ってことがこの本で言いたかったことではないか。
<表紙>
(1)REITの借金はリスクなのか
銀行融資を受けたり投資法人債を発行したりしてレバレッジを利かせており、REITが負債を抱える事を問題視している。上場REITのなかで4社の有利子負債をチェックしてみると、確かに総資産に対していずれも42~44%の借入金(投資法人債を含む)を抱えていた。4社全てが投資法人債を発行していたのも著者の云う通り。
投資法人債も一般の事業会社であれば社債を発行することはあるし、どこまでシビアに評価すべきことなのか分からないまあ、今後金利上昇局面が来るとすれば、金利負担が増すことは避けられない。
他方で、一般の消費者が家を買う(若しくは不動産投資する)場合を想定しても住宅ローンを組むのは普通のことだろう。それとて借金に違いないのだから、敢えてそこまでREITにクリーンであることを求めるべきなのか疑問。
(2)株式の価値はゼロなのか
一般的なファイナンス論で理論株価=配当金÷金利(≒期待収益率)であることは森永氏も触れている。これは私もCFPの勉強で学んだけどあくまで理屈に過ぎないし、金利水準によって企業価値が極端に大きく揺さぶられるものでもないだろう。
でも、著者は「完全競争市場では利益はゼロになる」という法則を用いれば配当金=ゼロになると云う。また、東証上場企業の多くがPBR=1.0以下に沈んでいることも触れて、大暴落が起きれば1/10に暴落することもあり得ると続ける。
後半は間違っていない。日本の大企業が1990年以降に利益が薄くなったからこそ、従業員給与を削って、下請けへの支払いを渋ってきたのもホントだろう。低金利が続いていることも期待収益率が低いことの表れだ。企業も含めて組織というモノは仮にその使命が終わったとしても、何かと持続本能(+自己増殖)を持っているので解体へのベクトルは働かない。なので、極端に過ぎると思う。
(3)著者が考える資本主義が詰む理由
4つの理由を挙げている。
・許容できないほどの格差
・地球環境破壊
・少子化
・ブルシットジョブの蔓延
どれも21世紀の諸相として正しいのだろう。けど、挙げられているのは国内要因が多いのもホントだ。詰むと主張するなら欧米各国にも通じるようなロジックが必要ではないか。日本企業は国内で稼ぐだけでなく、海外に投資してそこに工場を作って収益を上げている。投資収益を計上するだけで国内に資金が還流しないのは問題だとしても、会社が利益を産む構造まで詰んだとは言い切れない。
また、地球環境破壊に関しては地球温暖化が叫ばれているものの、ものの本に拠れば100~500年単位(正確ではない)で振り返ってみれば寒冷化が繰り替えされてそれが民族の移動に繋がってきたこともあり、結論に至るための極論を述べたのではないかと疑う。
ブルシットジョブ(Bullshit Jobs:どーでもいい仕事)、この言葉を初めて聞いた。確かにブルシットジョブは人間のヤル気を萎えさせるものだが、それは今に始まったことなのか。仕事のモチベーションは個々人にdependするもの、個々人matterだ。業務を単純化できたことはGAFAMの巨大な繁栄と裏表でもある。勿論、大成功した資本主義が偏在化していることは新たな歪みなのだけど。
(4)次の暴落で資本主義は終わるのか
長期投資が必ず成功する訳ではない。それは現在の株価が相対的に高い位置にあるからそうしたキャッチコピーが正しいのだと受け止められやすいだけのこと。もし、1990年のバブル崩壊直後や1990年代末期やリーマンショック後に定年退職を迎えて老後資金として積立投資した全額を一括換金しようとした人であれば、大損して落胆するしかなかったはずだ。また、今年は巳年なのでもしかしたら辰巳天井を形成するリスクもあり得るから悩ましい。
ただ、前項の4点を以って「資本主義が終わる」とするのは極論だと思う。2016年くらいに水野和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」を読んだ事があるし、当時はピケティのr>gの議論もあった。けど、もう忘れてしまった。
資本主義が終焉した後の形について、長沼伸一郎のイスラム教に関する考察は面白かった。確かに宗教や封建制度は社会の規律を維持するのに有用なのかも知れない。
※リンク
(5)極論を煽ることの是非
金の採掘・精錬に労働が必要でそのコストが裏付けになっているので金には一定程度の普遍的な価値がある。この当たり前のことを明示してくれる本は初めて。
他方で、株式の本質的な価値をどう計るのかはその時代によって変わってくる。低迷期は弱気になり、バブル期には強気になる。株価が相対的に高値水準にある時に敢えて政府が新NISAを導入して投資に誘導するのが正しいのか、著者が言いたいことはここにあった筈だ。それは正しいと思うのだが、上に挙げた(1)~(4)の議論はややズレているのではないか。