JR東海のリニア問題、今年の動きを振り返っておこう。
(1)以前に書いた記事の要旨
観光客の観点で考えると、現在の南アルプス横断ルート(JR東海が後出ししてきたC案)は乗車メリットがない。そもそもJR東海個社の事情でルートを決めるのは公共交通整備として不適切。名古屋のご都合主義ではなくて、JR東日本との協業体制に改めて、確実に乗降客のボリュームを見込める松本や茅野を通過するルートに変更して欲しい。どちらであっても飯田地域の活性化は達成できるし、難工事を避けて川に沿った路線でトラブルも少ないと想像される。
※参考:2022.8記事
このブログの後でもう1度、リニアに関してブログ投稿している。2つ目の記事で追記したのは主に以下2点。
・ほぼトンネルだらけのリニアで静岡県内に大深度のトンネル掘削を考えている事、それが赤石岳や塩見岳など南アルプス核心部をくり抜く工事になっている。
・JR東海は常に静岡県をやり玉に挙げるが品川近辺(調査用のトンネル掘削を中断)でも神奈川県内でもリニアの工事進捗が捗々しいとは言えない。
※参考:2022.10記事
(2)県知事選の出口調査
5月に静岡県知事選挙が行われた。その出口調査でのアンケート結果を抜粋すると以下の通り。
★川勝県政に対する評価
・大いに評価する 11%
・ある程度評価する 56%
・あまり評価しない 24%
・全く評価しない 10%
★リニア新幹線の静岡県内の工事
・急ぐべき 31%
・急ぐ必要はない 59%
・中止すべき 10%
<原文(2)> ※NHKサイトより転載
これを見ると、JR東海が全国的に世論を誘導したためなのか、全国レベルでは川勝県知事を揶揄し悪者に仕立てたイメージがある。それでも、県内では彼の失言に対する失望はあったにせよ、15年に及ぶ川勝県政に対する評価は決して否ではなかったと分かる。
何かと物議を醸す物言いが話題になった川勝前県知事だが、地域を守る立場として決して間違っていなかったと思う。むしろリニア欲に駆られたJR東海が勝手に世論を誘導したなんてことなかったのだろうか。
<県知事選の掲示板>
北の山梨県知事は良識派だが、マスコミ報道をそのまま受け取ると両隣りの知事の態度はすこぶる悪い。愛知県の大村知事は名古屋エゴ丸出しな雰囲気なので、たまたま偶然だろうけど同じ苗字の人(元副知事)が静岡県知事に当選しなくて良かった。神奈川県の黒岩知事も一部シーンだけ切り取られたのかも知れないがいつも挑発的な態度に映る。あの2人の映像は静岡県サイドからみるとかなり不愉快。そもそも民間企業のプロジェクトにさも自分達の意見が日本全体だって政治的に同調圧力をかけてくる姿勢が不適切。
※参考:2024.4記事
静岡県では不法盛土による熱海の土石流災害があった。近年には集中豪雨による土砂崩れにも見舞われた。その状況下にあって上流域の横断的な掘削を伴う工事が本当に必要なのか、疑問に思う県民感情は自然だ。大井川の水問題や南アルプスの環境問題を犠牲にしてまで本当にリニア工事を性急に進めるべきものとは考えていない、と読み取ることができる。
ここで1つ余談。立憲民主党が勘違いして臨んだ都知事選挙について。蓮舫さんは立憲に追い風と勘違いしたかも知れないが、あれは政党による争点ではない。伊豆はさておき、むしろ駿河と遠江を対立軸とした様相が強かったのではないか。静岡市の難波さんって熱海の土石流で活躍したけど、リニアに対する最近のスタンスはハッキリしない。
<選挙直後の日経or中日新聞>
(3)今年になって判明した事
・2027年開業を断念。早くても2034年以降
https://mainichi.jp/articles/20240510/k00/00m/020/157000c
・長野県飯田市の土地収用に関する説明不足で、行政がJR東海に対して苦言(新聞記事は上記リンクを参照)
・岐阜県瑞浪市での水源が涸れてきたため、トンネル工事を中断
<中日新聞より>
・東京都町田でも水が噴出
<11月のテレ朝のワイドショー>
(4)地方に沿線メリットは生まれるのか
もちろん静岡県知事が沿線メリットでゴネてきた訳ではないだろう。掛川駅があるのに静岡空港直結の駅が必要とは思えない。現在でもこだまが満席とは言えず、便数を増やすあんて無意味であり、JR東海自身が自分の不見識を分かっているはず。
冷静に考えるとJR東海は沿線の利便性を訴えようとするが、果たして山梨県や長野県南信地域にメリットがあるのだろうか。ないとは云わないが、JR東海の主眼はあくまでも東名阪を最短時間で繋ぐことであって、途中駅の存在は枝葉でしかないだろう。
マスコミでは北陸新幹線が敦賀まで延伸した事で東京からのアクセスが良くなったと言う。ホントだろうか? 確かに1本で行けるようになった。ただ、これまでも東海道新幹線で米原へ行きそこから特急しらさぎへ乗り継ぐことができていた。正確な乗車時間は分からないが同程度だろう。ただ、民営化後の会社を跨ぐ長距離路線なので、運賃+特急料金は明らかに北陸回りだと高額になっている。
それに敦賀を目的地にしている人は少数派だろう。関西から金沢へ行くには特急サンダーバード1本だったのが、新幹線利用で割高になってしまう。敦賀延伸は過渡期だと言えばそれまでだが、大阪までのルートが決まっていない段階においてはこの状況が当分続く。
(5)JR東海は私企業であり公共交通機関
・8月の南海トラフ対応でアンバランスな対応
鉄道各社は宮崎の地震を機に1週間ほど警戒対応をした。驚いた事にJR東海は幹線以外の特急を全て運休にしてしまった。運休告知の写真を紛失してしまったが、これを見ると特急ふじかわ(身延線)、伊那路(飯田線)、南紀(紀勢本線など)といずれも乗客が少ない路線ばかり狙い撃ちしている。まさかこの3路線だけが土砂災害とか多い訳でもあるまい。さらに言えば、ふじかわは山間部を走っているので津波にも縁がない。
対して、特急しなの、ひだ、しらさぎなど稼げる基幹特急は平常通り。JR東海の対応はいかにも恣意的に映る。
・台風10号で北陸ルートの存在感を確認
新幹線も東海道本線も運行停止や計画運休。乗客が最長で11時間も車内に閉じ込められたと言うので、これはやむを得ないことだろう。ただ、米原より西に行く人は敦賀まで北陸新幹線で移動する事ができたとか。こうなると迂回ルートとしてしっかり運用に耐えうる事が確認できたのではないか。
本当にリニア中央新幹線は必要なのだろうか? リニアにつぎ込む費用のごく一部の規模でいいから東海道新幹線の強靭化対策に充てるべきと言う主張も出ている。利益オンリーでなく、公共交通機関として行動して欲しい。