この本はあんまり消化できなかった。とりわけ後半に登場する諸概念(脱成長、コミュニズム、気候主義)については腹落ちできていない。ザックリと感想を書いたままずっと寝かせていた。
モヤモヤのままなので投稿を止めようかと思っていたけど、先日のG7広島サミットでG7がインドやブラジルを対ロシア策で自分達の側に取り込もうとしているのを見て、はあ? となってしまった。全てを二項対立に括り込むのは如何なものなのか。
植民地で支配した側の論理とされた側の論理はやっぱり違って当然だろう。国境を接している点でも立場が違ってくるし、インドがグローバル・サウスの代表として等距離外交を選ぶのは自然の成り行き、尤もだと思う。ブラジルも怒っていた。
<表紙>
(1)人新世の危機
まず、この「人新世」と言う3文字が不気味だった。ネット検索してみると、ナルホドねと納得した。人が作り出したモノで地球上が覆われてしまう世の中が来て、取り返しのつかない事態が迫ってきている。
それは尤もだ。ゴミは自分達の生活圏から消えてくれるけどけど、ホントに消えた訳ではない。長崎県の軍艦島(端島)も昭和初期には活況を呈していたけど廃坑になった跡はいかにも無機質の世界。コンクリートの建物もアスファルトの道路もどっちも人間が地球上に作ってしまい、土に還らないのは確かだ。
マルクス云々はサッパリ判らないけど、原油を掘り尽くしてエネルギー危機が来るのとは別に、なんだか分からなりに漠然とした危機感は感じていた。いや疑問と言うべきかも知れない。
それに、この本の冒頭に載っていたブラジル・ヴァーレの尾鉱ダムの決壊事故(2019年)に関する記述には参った。これは「尾鉱ダム」の意味(選鉱時の廃棄物を溜めておく場所)が分からないと始まらないけど、低賃金だけでなく、安全対策不足で環境汚染させているのであれば、やはり収益最優先ではなくてグローバル・サウスに対するコスト負担をキチンと考えなくてはいけない。しかも、ヴァーレは日本の大手商社も出資しているのだ。
(2)成長フロンティアは有限
もう1つが、同時に、日本の大企業も欧米の多国籍企業もニューフロンティアを探しては商品を売り込んでいく。しかも、売上が見込まれてかつ安い労働力が利用できると判断できれば、その国に工場を立てて更に利益を上げんとする。地球上の国は200前後の有限個しかないのに、それっていつまで続くんだろうかって疑問だ。
以前にNHKの番組でボトム・オブ・ピラミッド戦略に基づいて世界の低所得層に敢えて小口の商品を売りまくる戦略が賢いなと感心した。やっている事は地味で泥臭い。でも、一人ひとりの購買力は僅かであっても低所得層の人口がぶ厚いので十分な利幅を取れるので戦略としては賢いものだと思った。2050年頃の人口top10は2000年頃とは大きく変わってくる。そこに力点を置けば更に儲けられるって資料も説得力があった。
それで石けんやシャンプーの消費量が増えて、かの国の衛生環境も良くなるのだろう。それ自体はいい事だ。でも、その企業が多国籍企業であれば利益はその国の富として蓄積されない。きっと2050年にも貧富の差は変わらないのかも知れないな、そうボンヤリ思ったものだ。
だから、この本に書かれている成長しない世界はどんよりした地球規模の課題を解決する妙案なのかも知れない。ただ、自分が先陣を切って踏み出す3.5%の先駆者になれるのかと問われるとそうではないんだけど。
(3)グローバル・サウスを意識する事
あと、「帝国主義的生活様式」や「生態学的帝国主義」と称する尖った言葉も気になった。日本国内でオーナー企業を除けば社長でも従業員の10倍の報酬を得ている訳でない。貧富の格差があってもおそらく相対的な貧困に留まるもので、マスコミが大袈裟に報道しても絶対的な貧困に瀕している人は他国と比べたらその割合は少ないだろう。
ひと昔前のESGとか最近のSDGsなど環境に優しい事は大事だ。でも著者が主張するように、経済成長と環境負荷軽減がデカップリング(どちらも達成する事)する事は難しいのかも知れない。むしろ、GDP(国民総生産)とマテリアルFootprint(資源の消費量)は、国別に分解すると見えにくくなっていても地球規模ではリカップリング(比例)していると言う。このロジックも冒頭のヴァーレの例を引くだけでおそらく正しいのだと思う。
(4)資本主義は明るいのか
確かに日本人は働けど働けど苦しい。有給休暇も大して取得しないで働いているのに、幸せかと問われると肯定できない人が少なくない。著者はGDPと幸福は大勢としてリンクしていない、と述べている。
ギャップはありながらも、それでもみんな資本主義が正しいものと信じて働いてきた筈だ。成長性がない仕事でも、とにかく前年比プラスの売上と採算ラインを守るべく働いてきた人が殆どだろう。なので、アメリカの若者世代が社会主義に肯定的って調査結果には驚いた。そういう事がこれまでの大統領選挙にも表れていたのか。
どうすればいいのか。コミュニズムがいいのか分からない。ただ、長沼伸一郎が数学の本「経済数学の直感的な方法(確率・統計編)」で書いていた江戸時代やイスラム圏の直線的な商売(指数関数的な商売との対比で用いていた)の事を思い出した。あまりガメツイ資本主義では長続きしないのか。
長沼氏の「経済数学の直感的な方法(確率・統計編)」の感想はイエメン旅行記にちょっと盛り込んだのでここでは省略。
※参考:イエメン旅行記(後半)