TBS「半沢直樹」シリーズと同じ原作者・池井戸潤なので、舞台はドロドロしたあの東京第一銀行。東京第一銀行と言えば、大和田常務が強烈なキャラだった。他にも第1シリーズの浅野支店長の苦渋に歪んだ顔もハッキリと甦ってくる。銀行員のダークな部分をたっぷり堪能できるのかと変な期待して上映開始を待っていた。
コロナ禍の映画館ってずっと閑散としていた。そのスカスカ状態に馴れきっていたけど、今春には遂に隣りの席も埋まっており窮屈。この人がもしかしてコロナ感染者で2時間も同じ空気を吸うのか、となんでも疑ってしまう妙な緊張感があった。
<松竹サイトより>
以下ネタバレあり。
さて、ATMに箱詰めされたカネを週末に一時的に着服して競馬に溺れる男。彼は手堅い馬券を狙っていたのだろう。私もかつて定期預金代わりに馬券を買っている遠い知人に出会った事がある。映画の登場人物も馬券を当てたようで、週明けまでに拝借した札束をちゃっかりATMに詰め込んで不正を知られずになんとかやり過ごしていた。
他にも取引先から賄賂を受け取った事で不正融資に加担せざる得なくなっていく男、100万円の札束が消えて行員を追い詰める支店次長、イタズラのつもりで帯封を嫌いな女子行員のロッカーに忍ばせる同僚など困ったちゃんが登場する。
もちろん全てが歪み切った行員ばかりではない。悲しい行員も出てくる。ノルマと罵声でメンタルを病んでしまい、神社の狛犬を取引先の社長だと幻覚に憑りつかれてしまう若手行員だ。いずれも著者が銀行員だった頃に見てきたリアルな姿なんだろう。
支店内での発言はあまりに軽いんだけど正義感を捨てていないまっとうな行員・阿部サダヲを中心に、分かりやすいストーリーで愉しめる。そこに胡散臭い酔っ払い仲間として柄本明も絡んでくる。
TBS「半沢直樹」のようなハナに付くクドイ芝居もなく、仇役や上司を執拗に追い込んでいく展開でもない。阿部サダヲが関係者を居酒屋に呼び出して事情を聴き出そうとするなど、いかにも日常のサラリーマンらしい風景が淡々と続いていくのがいい。
冒頭の佐々木蔵之介の「カネはたた返せばいいってもんじゃない」って科白が虚しく響く。毎日毎日、札束をモノのように扱っていると感覚が麻痺してしまうんだろうな。それはフジ「罠の戦争」で草彅剛演じる鷲津が知らぬ間に権力欲に憑りつかれていったのと同じこと。
一貫して正義の側に立っていると信じていた主人公も最後には思わぬ行動に出る。エンタメ作品としていい意味で裏切ってくれて面白かった。