書店に平積みしていたので、ちょっと手に取ってみた。どうやらシリーズもののようで、その第1冊目がこのタイトルだ。

 

<表紙>

 

ホテルマンとツンデレ薬剤師の織り成す短編が4本盛り込まれている。薬のこと(ex.商品名や作用、薬物動態)、医師と薬剤師の関係性、医療制度(ex.医薬分業とか自由診療、疑義紹介)をなんとなく分かっている人には分かりやすいストーリーだ。

 

小説なので薬の商品名は流石に架空の呼称に変更している。ステロイド軟膏のリンドロンはリンデロン、クルコートはOTC商品を最近CMでも流しているフルコートだ。

 

調剤薬局の薬剤師はなかなか微妙だ。患者の病名も分からないまま処方箋通りに薬を手渡す。会計の時に何か質問を交えて話を引き延ばそうとしてくるのだが、悲しいかな薬剤師は何も話の手がかりを持っていないのだ。

 

お薬手帳の有無や薬の残を尋ねることで薬剤管理費を追加徴収するのは勘弁して欲しい。


偶に薬Aと薬Bの違い、薬Cの特徴を聞いても満足な答を得られない。たいてい「同じです」と答えるのみ。知識がないのか、説明する意思がないのか、殆どの薬剤師が保有スキルとマッチしいていない作業に甘んじているように見える。

 

最近だと、当然のように「安いですよ~」とゾロ薬を押し付けてくる薬剤師も多い。それも本心ではなく薬局経営のため、あるいは疑義紹介が面倒くさいからだとしか思えない。最近はゾロ薬メーカーの不祥事が続いて日医工でも経営が傾いて上場廃止になったくらいだから、やっぱりゾロ薬は製造工程が完璧に一致しているわけがなく、品質も薬効もなんらか違うと考えるのが普通だ。一部の医師でもゾロ薬のロキソニン、ゾロ薬の抗生物質はダメと言っている。

 

以前、石原さとみが演じるドラマ、フジ「アンサング・シンデレラ」を見て、こんなスーパーな院内薬剤師は絶対にあり得ないヨ、と現実とのギャップに呆れてしまった。

 

※2020.8に書いたドラマ「アンサング・シンデレラ」の感想

 

ちょっと脱線したので、小説の話に戻そう。尚、薬物動態についてはp.118に簡潔に述べられているので、それで十分でもある。

 

ここに登場する毒島薬剤師は、冷静でかつ賢い。そうした違和感を与えない真面目な薬剤師を設定して書かれているので、ウソっぽさはない。むしろかなり地味な役回りだ。もしドラマ化するのであれば、主役は無表情に徹した北川景子や戸田恵梨香とか、フジ「ゴシップ」で乾いた演技に徹していた黒木華が相応しいんじゃないか。

 

ホテルマンの男はなんとかして彼女を食事に誘いたいと思い、でも話がかみ合わず男女の仲は全く始まらない。それがこの短編集のお決まりのパターンになっている。

 

毒島(ドクシマではなくブスジマと読む)とか方波見(かたばみ)、刑部、百目鬼(どうめき)など珍しい苗字の人物が登場する。「刑部」はおさかべさんもぎょうぶさんも、どちらも過去に私の学生時代の知り合いにいたなあ。それに、毒島って名字は本当に実在するみたい。語源は何だろう、毒見役とか?

 

もう10年近く前のことだけど、JR下諏訪駅で下車して毒沢鉱泉に1泊した事を思い出した。部屋の引き戸が直線じゃなくて、やや扇状に曲がっていて細かな細工が施されていた味のある宿だった。