先日ちょっと前振りしたように、北アルプス・双六岳の登山途中に子グマと遭遇した。状況整理と情報共有を兼ねて書いておきたい。

 

(1)状況
日時: 8月7日 8:15頃

場所: 鏡平山荘から双六小屋に上がる途中。花見平(標高2600m)から少し先の稜線。

 

登って行くと、登山者2人が前方の黒い物体を凝視していた。10~15m先だ。その黒いモノの4〜5mくらい向こうに単独行の男性が一人、やはり立ち止まっていた。「もしかして熊ですか?」分かり切った質問をしてしまった。

 

<黒い物体を発見(8:16撮影)>

 

この写真はあまりに焦って撮ったので、残念ながらボケてしまった。子熊は登山道のど真ん中に座り込んでいた。こちらは熊の背中を見ているだけで、熊としてはこっちを全く意識していない。手前の男性が熊を驚かすように大声を張り上げてみたがウンともスンとも反応しない。3分くらいだっただろうか、4人とも立ちすくしていた。

 

<子熊が登山道から斜面に降りた後も待機(8:18撮影)>

 

しばらくして子熊は斜面を少し下りていく。食事中のようだった。「まだ距離が近いからもう少し様子を見ましょう」。私もその言葉に従った。ほどなくして、編み笠の下山者がそろりと動き出してこちらにやってくる。彼のデジカメにはクマがしっかり写っていた。「首の辺りにツキノワが見えた」。彼はツキノワグマと視線が合っていたのだ。恐怖はこっちよりも何倍か上だったろう。

 

花見平の位置は以下の地図を参照。8月初旬でもまだまだ高山植物と雪渓が同居しているエリアだった。もっと標高の低い場所に棲息していると思い込んでいたので、標高2600m超で出没してきたのはなんとも想定外だった。

 

<双六小屋HPより>

※参考

https://www.sugorokugoya.com/sugoroku/chizu/sugoroku_chizu.html

 

こちらも警戒しながらようやくその危険地帯を足速に通り過ぎた。子熊が戻って来るのも怖いし、何より近くに母熊が隠れていたらマズイ。いつも熊よけ鈴をストックに括り付けているので、クマを目撃してから双六小屋に着くまでワザと指を動かして余計に鈴を鳴らせてずっと警戒していた。

 

この登山道を越えていかないと、三俣蓮華岳の眺望には巡り会えなかったのだ。

 

(2)裏銀座にクマは出没するのか

2009年に登山を始めてこのかた、登山道でクマに出会ったのは初めての事だった。カモシカは信州の雪山(八ヶ岳山麓と飯山)で3回、静岡県(掛川)で1回出会っている。シカも偶に目にするけど、幸いにして本州のクマには縁がなかった。

 

それと、北アルプスでも表銀座(燕~蝶ケ岳)や涸沢、独標、爺、唐松、白馬、立山を歩いても、アクセスが大変な裏銀座エリアに入っていくのは今回が初めてだった。もしかして裏銀座ってこういうエリアなの?

 

確かにコロナ禍が始まった2020年には登山者が減ったためか、小梨平(上高地)や立山でクマ目撃が増えたと聞いた。今回の登山道でも、わさび平や鏡平に出没しているとの情報が掲示されていた。私が歩いたシシウドが原にも前日に目撃されていた。けど、いざ遭遇するまではどうも他人事のようにしか思えなかったのだ。

 

<クマ注意喚起の看板(2)>

 

 

山小屋で目撃情報を伝えても「情報提供ありがとうございました」と至って淡泊だった。新穂高でも「今年は目撃情報が多くて秩父沢(わざび平と鏡平の間)にも出没している。無事で良かった」と返ってきた程度。

 

もしかしてヤマ関係者にはクマって当たり前の存在だったのだろうか。それが意外でもあり、自分の認識が甘かったのかも知れない。ネット検索すると10月に双六小屋から三俣峠の間とか、11月初旬に小池新道入口付近で遭遇している記録がポロポロ出てくる。それは正に今回の山行で歩いたエリアなのだ。

 

今回クマに遭遇した話をすると、他の登山者などからいくつか経験談を教えて頂いた。尚、明らかにオフレコと思われる内容はカットしている。

 

Aさん「自分達が住んでいる所に親子の熊3頭が出没した。あまりの怖さで自分でも考えられない大声を張り上げたらクマが驚いて逃げて行った」

Bさん「動物愛護団体がウルサイので、熊が向かって来ない限りこちらから撃てない」

Cさん「自分の居住エリアでよく見かけるのは冬眠明けの春。自分達が住んでいる所ではフツウに熊がいるし、爆竹でクマを驚かせておいてから入山する。それでも五色ケ原辺りではよく出会うヨ。クマ棚があればいるヨ」

 

確かに雪山で上を見ればクマ棚だと分かるけど、夏山では目立たないので全く意識した事はないなあ……。

 

(3)北アルプス3県のクマ目撃情報

長野県、岐阜県、富山県の過去5年の情報をネット検索してみた。これが集落での目撃情報なのか登山者に関わるものかハッキリ読み込んでいないが、県によって目撃されるピーク月が全く異なるのに驚いた。これでは傾向と対策もマチマチって事だ。

 

<北アルプス3県のクマ出没(3)>

 

 

※出典

https://www.teguchi.info/kuma-2/gifu/

 

(4)北海道のヒグマ

以前に書いたヒグマに関する文章があるので、こちらも参考として再掲する。

 

【2015年】知床で2日連続ヒグマに遭遇

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夏には知床の海でカヤックしている。再訪したのは2015年7月。ウトロからガイドさんの車で少し走って入水した。おおよそその付近の海域を漕いでおり、写真にも海に流れ落ちる滝が写っている。ガイドさん1名と観光客が7~10名くらいだったと記憶している。

パドリングしていると、ガイドさんが海岸沿いに子グマがいると教えてくれる。黒い影が小さく見えた程度でそれがクマなのか識別できなかった。こっちは水面にいていくら距離があると言っても、ピッと緊張が走る。

しかも、その翌日、知床自然センターからフレペの滝へ向かう遊歩道を歩いていると、観光客のおばちゃん達が騒々しい。どうしたのか聞いてみるとヒグマが目撃されたとか。私も遊歩道の50mくらい先に黒い物体が動くのを確認した。

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※原文:

 

【2019年】北海道・阿寒湖で伺った話

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クマと目を合わせたまま後ずさりするってのは良く聞く。とにかく背中を見せて逃げてはダメだと言う。流石にそれは知っている。

この日初めて聞いたのは、杖の使い方。杖でもストックでも良いけど、襲ってきたクマの顔をめがけて突くといいって言うけど、そんな事本当にできるのか疑わしい。杖の先を自分の踵でシッカリ押さえたまま、もう片方を上に向けて手で握っておく。で、襲い掛かってきたクマの喉元にクマの勢いのまま突き刺すのが先人の知恵だと言う。確かに、冷静に考えると突き刺すよりは突き立てて相手の力を上手く利用する方が勝てる確率は高そうだ。

本州ではツキノワグマより北海道のヒグマの方が怖いと聞く。でも、「逆だよ。本州のクマの方が性格が悪い」とか。この真偽はなんとも判らない。クマがザックに興味を持ったらもうその荷物は命と引き換えに置いていくしかないとか、松の木に登ればクマの体重だと支えきれないので追って来られないとか、これらはそうだと思うけど実は木登りできないなあ……。

それと、この4日間にいろいろな人の話を伺ったので誰に訊いたか判然としないが、熊よけの鈴の効果は疑わしいので、自分で曲がり角で手を叩くとか大声を出すとか自衛した方が遭遇する確率を抑えられるとか。

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※原文:こちらはAmebaに投稿した後で弊HPにまとめ直した記事。

 

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かつて明治温泉の近くでカモシカとご対面した時は、ホントの至近距離(2mくらい)だった。でも、今回は幸いにして4人目としてクマの現場に遭遇した。なので、直接クマと対峙したとまでは言い切れない。はて、自分が1人でクマと遭遇していたら、気が動転しないで対応できたのだろうか。まだまだ命は欲しいので、冷静に対処したい。そうしなくては。

 

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【2022.8.15追記】以下に旅HPへのリンクを追加します。

Amebaの記事2本をまとめて、弊HPにアップしました。こちらにこの登山道で出会った高山植物の写真を抜粋版(※1)で付けています。

※1:ウサギギク、ニュウ、イタドリ、ヨツバシオガマ、クルマユリ、トモエシオガマ、ミヤマホツツジ、キヌガサソウ、シナノオトギリ、ミソガワソウ、センジュガンピ、ジャコウソウ