過日、ABC予想について某所で某数学者の話を伺う機会を得た。しかも2回聞いて全て反対の耳から抜けていった。

 

ただ、これが主題ではなかったしABC予想に関してはさわり程度だったのでまあいい。でも、弊方のような素人にはピンと来なかったのだ。「+と×の独立性」と言われたんだけど、ABC予想の式がどうしても単なる式の羅列にしか見えなくて、恥づかしながら面白さが判らなかった。

 

2022年4月、なんとNHK総合放送で1時間番組があった。「数学者は宇宙をつなげるか? ―ABC予想証明をめぐる数奇な物語―」。なかなかチャレンジングな番組だ。もしかしてNHKプロヂューサーに数学フリークがいるんだろうか。それはありがたい事。

 

<4/10の番組より(2)>

 

 

番組では、数学アレルギーが出ないように素数って言葉を使わないで「掛け算は遺伝子が引き継がれていくから簡単だけど、足し算はそうでないので難しい」と話していた。水はH2O、二酸化炭素はCO2で、それぞれHとO、CとOの分子で構成されている。足し算する事で自然数の「原子」に相当する素数が引き継がれなくなってしまうのか! 同様に2乗、3乗って言葉も使わないようにして葉っぱが2つ、3つ伸びていくのだとvisualで表現してくれていた。通常のABC予想に出てくる式でなく、rad(ラディカル)を分数式で示してくれた事も判らないなりに距離を縮めてくれたように感じた。

 

そうか、某数学者の「+と×の独立性」ってワードはそういう事を言いたかったのか、と納得。まあ、ABC予想に関する本を読んでいれば良いのだろうけど、オイラー積ほど綺麗じゃなかったのでそこまで積極的になれなかったのだ。

 

あと、宇宙際タイヒューミラーについても解説があった。別の宇宙空間(数学世界の事、仮に宇宙Bとおく)に飛ばして元世界(仮に宇宙Aとおく)の数字を二乗してから足し算をするのだとか。演算はできる。でも宇宙Bから逆演算するとか必ずしも宇宙Aの中で行われた結果と同じならないとか。この辺の事情もあって、数理解析研究所の望月新一教授が証明されて査読&専門誌掲載も終えているものの、この考え方に数学界全体ではまだ納得感が得られていないのだと言う。

 

素人としては厳密さに拘泥しないのでまあいいじゃないかとやり過ごしてしまう。実数(ℝ)において四則演算は閉じているけど、自然数(ℤ)の中で完結できるのは+、―、×までで割算ははみ出てしまう。別の例を挙げてみると、逆行列って常に求められるものではない。行列式det|A|=0だったら逆変換はできなくなる。そうした条件が整理されていればもう1つの宇宙を定義しても構わないんじゃないか、と素人なりに思った。寛容に考えると、それくらいでいいんじゃないかとしか受け止められなかった。

 

番組で紹介していた「数学は違うものを同じものとみなす技術」ってポアンカレの言葉があるらしい。それは知らなかったけど、抽象化は難解さの元でもあり、数学の特徴だ。確か昔の京都大学教授・山口昌哉もどこかの本で同じような事を書いていた。確か「数学が分かるということ」(ちくま学芸文庫)だったと思う。電線に止まっているカラスは3羽、田んぼのカエルが5匹でしめて「8」、そんな喩えを用いていたと記憶している。

 

この番組でもう1つ良かったのは加藤文元氏が登場した事。昨年、彼の「数学する精神(増補版)」を読んで面白かった。Amebaブログの下書きまで書いたんだけど、ある事で固まってしまってまだ投稿できていない。素人なりに混乱して固まってしまった件があったためだ。まあ、それはさておき加藤文元ってなかなか精悍な顔つきの人なんだな。かつて20世紀に広中平祐のご尊顔をリアルで拝んだ時のようにギラギラした印象を受けた。ただ、「対象に対する認識の違い」と評されても困る。もっと言葉を補ってくれないと私には理解できないな。

 

数学のブログはいつも発散(or破綻)して終わってしまうのが困った所だ。まあ、4/15のNHK-BS放送を見た後でABC予想のプリントを探して読んでみようかな。