CVV的おすすめ本:『降りていく生き方』 | CVVのブログ

CVV的おすすめ本:『降りていく生き方』

べてるの家 」とは、1984年に設立された北海道浦河町にある精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点である。べてるの家に関する数多くの著書のなかで、私は、この本が一番気に入っている。著者の横川さんは、『荒廃のカルテ』を始めとして、子ども・若者問題を一貫して追い続けてきたジャーナリストだ。私が、この本が一番好きなのも、どこか自分と視点が重なっているからだと思う。


私は、この本に出逢ってしまってから、べてるの本にすっかりはまり、最終的に2007年3月には、実際に北海道の浦河町まで行くことになった。そこは、不思議な空間だった。べてるの家には、たくさんのキャッチフレーズがあるが、その一つが「三度の飯よりミーティング」である。そのキャッチフレーズどおり、毎日たくさんのミーティングがある。見学に行った私たちは、一日中「ミーティング」のはしごをすることになった。ミーティングは、その日の体調と気分を自己申告することから始まる。例えば、昆布の袋詰め作業をするべてるの家のミーティングでは、今日働く時間を体調と気分の調子によって決めて申告、カップルミーティング(文字通りカップルのミーティング)では、自分の体調と気分に加えて、カップルの体調と気分も二人で申告する。私は、二日間をべてるの家で過ごして、考えさせられた。私は、べてるの家の人たちほど、自分の気持ちに向き合っているだろうか、自分の気持ちを正直に相手に伝えようと努力しているだろうか。そんなことをたくさん考えた。


気持ちを言葉にすること。


そのための仕掛けがべてるの家には、たくさんある。数多くのミーティング、当事者研究、ソーシャルスキルトレーニング。どれも、ユーモア(ブラックユーモア炸裂)があり、楽しく、あたたかい。なぜそのような機会がたくさんあるのかという理由を、べてるの家の精神科医である川村先生は、このよう話す。「病気の人が発作を起こしたりするのは、自分の思いや感情を言葉にできないからであって、言葉を獲得する、つまり、自分の思いや気持ちを話すことができるようになると、発作を起こさなくてもすむようになっていく」。横川さんは、あとがきでこう述べる。「私が、取材してきた取材してきた、事件を起こした少年少女たちも、自分の思いを言葉にできなかったからこそ、ナイフを持ったり、暴れたりして、思いを“爆発”させたのではなかったか、と思ったのである。」その人がそれぞれ発作や爆発を起こさずに「自分を助ける」ことができるようになるために、当事者同士が助け合う営みがそこには存在する。


さまざまな当事者運動があるが、べてるの家の実践からは学ぶことが多い。しゃかりきに頑張らなくとも、地域を活性化し、人々の居場所をつくる、そういった社会を変えている実践があるのだということが、何より私を勇気づけたと思う。


キーワードは、「弱さを絆に」なのだ。ソーシャルワーカーの向谷地さんの言葉で心に残る言葉がある。「私は病気の人たちに、『今困ったり苦しんだりしていることって、とても大切なことだよ』といつも言います。『それをけっして、あなたの個人的なものに終わらせないで、ある種の苦悩において多くの人と連帯しようよ』って。治すとか、社会復帰とか、障害を克服するとかいったうわべではなく、あなたの苦しんでいる苦労そのものが、根本的に人と連帯するんだ、ということの価値を伝えたい。そういう役割を背負ったものとして、いっしょにやっていこうよ」と。


私は、児童養護施設で生活した経験をもたない。でも、うまく言葉にできないが、私が子どものときから考えていたこと、生きづらさ、現在も苦労していることがあるから、私は、CVVのみんなに出逢えた。なかなか面白いチャレンジを一緒にできることを思うと、苦悩も悪くない。

向谷地さんや川島先生は、精神障害の当事者から学び続け、「非援助」の姿勢でそばにい続けている。当事者ではない伴走者が、どう一緒に苦労を共にしていけるのか。そのありかたを、向谷地さん、川島先生の実践から考えさせられるのだ。
 
しかしながら、べてるの家のことを言葉にするのは、とても難しい。このおすすめ本コーナーも、いつもの倍以上時間がかかってしまった。文章も長いし。私のこの文章は、とても拙いので、ぜひみなさんご自身で読んでいただけたらと思う。     
      
★べてるの家の本
浦川べてるの家『べてるの家の「非」援助論』医学書院、2002
浦川べてるの家『べてるの家の当事者研究』医学書院、2005
向谷地 生良『安心して絶望できる人生』日本放送出版協会、2006
すずきゆうこ『べてるの家はいつもぱぴぷぺぽ』Mcmedian 2006

田口ランディの『寄る辺なき時代の希望-人はなぜ死ぬのに生きるのか』(春秋社、2007)にも、べてるのことが書かれています。


降りていく生き方―「べてるの家」が歩む、もうひとつの道/横川 和夫

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(ぴぴこ、CVVニュースレター第6号 2008年2月発行より)