1級キャリアコンサルティング技能検定の実技論述試験や実技面接試験において、
共通することに、事例相談者がまとめた事例(ケース)記録を扱うという点があります。
当たり前のことのようですが、意外とこれが意識できないことがあるかもしれません。
改めて、事例指導を実際に行う際、
事例指導者として事例相談者から預かった事例を読み取るときに最も大切にしたいこと、
それは事例相談者の成長を支えるという視点です。
勿論、上記を通じて、相談者へのより善い支援を目指すという視点も大切です。
事例指導は、事例相談者が持つ技法の評価や指摘の場ではなく、
事例相談者が自らの実践を改めて言葉にして振り返り、諸々の気づきを得て、
次のキャリア形成支援に活かしていくための学びの場となります。
そのため、論述でも面接でも事例を読む際(聞く際も含む)には、
事実の整理だけでなく、事例相談者の内面にある気持ちや考え、その行動の背景を、
とても丁寧に理解し共有していく姿勢が求められるかと思います。
事例相談者が安心できる学びの場づくりをイメージしておくことが欠かせません。
当然、事例指導者自身も、
事例相談者から得られる気づき等から、自己の成長や学びに展開していくことができる姿勢が求められます。
実際の現場では、事例指導の面接冒頭、
今回の目的や期待する成果を共有し、
事例相談者の成長支援の場であることを、
改めて、具体的かつ明確に言葉にして伝えてみるようにしています。
そして、事例相談者が自分の実践を率直に振り返るためには、
心理的安全性が確保されていることが前提となるため、
事例の内容に触れる際には、事実と主観を分けて整理することを意識することも有益です。
相談者の背景、相談内容、支援の経緯などを時系列で確認しながら、
事例相談者がそこでどのような判断をし、どのような対応をしたのか、
これらを丁寧に読み取ります。
その際、記録の文脈等から事例相談者の語りの中にある感情や迷い等にも注目し、
単に検討にとどまらず、事例相談者自身の価値観や、
相談者への支援スタイルに目を向けるようにしています。
事例指導では、事例相談者の内面(感情だけではありません)への焦点化が重要です。
例えば、支援の場面で何を感じ、どんな葛藤があったのかを一緒に探ることで、
事例相談者は自分自身の支援観や行動の背景にある思考パターンに気づくことができるかもしれません。
こうした気づきは、次の支援場面での選択肢を広げることにもつながります。
また、事例相談者のやっていることや考えていること、
その妥当性や倫理的な視点も欠かせないと思います。
事例相談者が使用した理論や技法等が相談者の状態やニーズに合っていたか、
倫理的な配慮が十分であったかを検討することで、支援の質を高めることができます。
特に、守秘義務や境界線の問題などは、
事例相談者が見落としがちなポイントでもあるため、
事例指導の中で丁寧に扱うようにしています。
最後に、事例指導の締めくくり場面等では、
事例相談者が得た学びを言語化し、意味づけ、
今後の支援にどう活かすかを一緒に考える時間を大切にしています。
気づきや学びを相互での言葉で整理することで、
事例相談者はそれを実践に結びつける力を養うことができるかと思います。
事例指導は、事例相談者の成長を支える貴重な機会です。
事例を読む際には、事例相談者の語りに耳を傾け、
その背景や内面にあるものを理解しようと試みながら、
様々な視点をバランスよく取り入れていくことが、
効果的な事例指導につながると考えています。
1級論述問題に取り組んでおられる方、
目の前に事例相談者がいらっしゃることを想定し、
様々な視点をバランスよく取り入れ、各設問に向き合って欲しいと思います。