1級キャリアコンサルティング技能検定の実技試験は、

論述と面接で構成されていますが、どちらも事例指導者としての力量を問う試験で、

対話するひとはクライエントではなく事例相談者となります。

この前提を踏まえると、

論述と面接を別々の試験として切り離して考えることは試験の本質を見誤るリスクがあると考えます。

 

論述と面接をどう関連づけて学ぶかは1級合格のカギになると思います。

本記事では、その本質と注意点を私なりに整理してみますね。

 

論述試験では、提示された事例問題を読み取り、

事例相談者の相談過程や課題を整理し、

どのように指導を進めるかを論理的に記述する力を問われるでしょう。

 

一方、面接試験では、事例相談者との対話を通じて、

関係構築、探索、合意形成、助言や提案といった実践力を測定されることもあります。

 

実技試験の形式は異なりますが、両者の根底には共通する評価観点があると想定できます。

それは、事例相談者の状況を的確に把握し、

指導の方向性を一貫して展開できるかという点です。

※1級キャリアコンサルティング技能検定実技試験実施概要の記載を踏まえ解釈。

 

論述で、事例相談者の背景や課題を整理し、

どのように合意形成を図るかを明確に書ける場合、

面接においても自然にそのプロセスを実践できるかもしれません。

 

一方、論述で理想的なプロセスを描けても、

面接で時間制約や緊張により実践できない場合もあると考えます。

 

面接で柔軟に対応できても論述で論理的に整理できない場合には、

事例指導者としての事例指導の面接プロセス理解が不十分であることが浮き彫りなるということもあります。

 

つまり、論述と面接は別物ではなく、

同じ事例指導プロセスを異なる角度から測定できる試験であり、

両者を関連づけて学ぶことが合格への近道でもあり、

また、実践的なスキルを磨く機会にもなるはずです。

 

注意したいのは、試験科目と測定範囲に関する誤解のようなものです。

 

技能検定試験の実技試験範囲には、

「①基本的技能」「②相談過程において必要な技能」「③事例指導(1級のみ)」

が示されていますよね。

 

このうち①と②は1級・2級共通ですが、1級は2級以上の水準で問われます。

 

しかも、1級では論述でも面接でも、

事例指導の実践を通じて①②③のすべてを測定されていくことも想定されます。

 

ひとによっては、単に③が追加されたと理解し、

①②は2級と同じ基準で答えればよい、

応じられればよいと考える場合が少なくないように思うのです。

 

結果、論述問題の一部設問を2級と同じ「キャリアコンサルタント視点」で解答してしまう現象が起きるのだと考えています。

 

1級では、基本的技能や相談過程における技能も、

事例指導という営みの中で高度に問われることがあるでしょう。

つまり、事例相談者の語りをどう受け止め、どのように焦点化し、

合意を形成し、助言や提案を行うか、その一連のプロセスを「指導者として」どう設計し、どう言語化するかが事例指導の実技の核心です。

この視点が意識できないと、2級と同じ感覚で論述や面接に臨むことにもつながり、

設問意図や評価観点とズレが出てくることもあるように思うのです。

 

事例指導の場面では、

探索から合意、そして提案へと進む流れを意識することも重要です。

 

探索では、事例相談者が語る内容の事実関係だけでなく、

その言葉の選び方や間、例えや言い換えからみえる意味を丁寧に拾いたいところ。

 

要約する場合も、単なる情報等の再配列ではなく、

新たな意味としての仮説として返すことが求められることもあります。

 

たとえば「他にできることがなかったのか」という事例相談者からの言葉の背後には、

過去の成功体験の乏しさやキャリア形成支援の評価への不安、

自己の支援イメージとの不一致など複数の層が併存しているかもしれません。

 

こうした可能性を断定せずに提示する要約は、次の合意をやさしく誘発できます。

合意では、「この時間で最も大事にしたいのはどこか」「いまは整理を進めたいのか、それとも支援方針を検討したいのか」といった焦点化を事例相談者と共同で行い、

たとえ短時間でも「このテーマをこの深さで扱う」といったような合意事項を明確にすることも重要かもしれません。

 

特に、事例指導者の意図を先に置かないことは重要です。

指導者の意図は必要だと思いますが、

事例相談者の意図、その選択と一致して初めて方針になるのだとつくづく感じます。

 

指導者は自分の頭に浮かんだ仮の方針を「脇に置く」ことも大切なのでしょう。

これは「相手から引き出してから整えてみる」ということにもつながり、

事例相談者自身の言葉で変化の理由や望む方向を語ってもらうことが、

次の提案の受け入れやすさを劇的に変えると感じます。

 

提案の段階でも、自分の助言的な発言を「当てにいく」「説得しにいく」のではなく、

「一緒に近づく」「間を大切にする」ということ。

つまり、選択肢の生成や明確化、次の一歩への具体化を、合意した枠の中で、

緩やかながらも小回りに行き来する感じ。

 

ここでも「提案の根拠」を短く添えることも必要かもしれません。

「根拠の見える化」は、事例相談者の自己決定感を損なわずに実行可能性を高めることにもなりと考えます。

 

1級レベルでは、事例指導者個人の力量だけでなく、

事例相談者であるキャリアコンサルタントを成長支援する視点、

つまり、事例相談者の意図の検討、関係の安全性、焦点化、合意、提案という指導面接のプロセスを外側からみて調整する視点も問われているはずです。

 

CVCLABでは、初見事例を用いた訓練で、受講者の皆様に

「この発言が、事例相談者自身にとって、相談者にしたことの是非を本人がどのように感じられているのか」

といった問いかけを呼び水的に投げかけることがあります。

 

事例の具体から、もう少し因数分解して、グループメンバーと点検してもらいつつ、

言語化を図るトレーニングを繰り返します。

 

ここでの意義深い取り組みは、結論や正解のフィードバックではなく、

やりとりの温度感・速度・タイミング・方向等に触れるフィードバック。

つまり、「間が半拍早い」「相手の比喩を拾いきる前に一般化した」「要約の主語があなた側に寄った」といった、技能の微細な調整点を言語化してみることです。

 

これは事例指導・スーパービジョン領域の実践論に基づく視点に近づきます。

 

さらに、論述試験で求められるのは、こうしたプロセス観を紙の上で一貫させる力です。

 

設問の意図に忠実であることは当然として、設問間の整合性、

たとえば問1や問2での考えが問4の対応の問題への焦点化と矛盾していないか、

問5で提示した指導方針が、前段の探索や合意から自然に生まれているかを保ち続けること、

この整合性そのものが「事例相談者の本音に近づく指導」のリハーサルだと考えられます。

 

論述上での解答の不整合はしばしば、

事例指導ロールプレイ場面での「指導者の意図の先走り」に起因すると考えます。

これは、技能検定1級の配点や観点の説明文が、事例指導プロセスの一貫性を重視していることと符合しますし、公開資料等とも照らし合わせができます。

 

最後に、対人支援の原点にもなると考えるのは、

ただ「相手から違和感を感じたら確認したらいい」ということが増えているように思いますが、「関係性に守られた言葉」を大切にする繊細さを磨く必要も感じます。

これは論述だけではなく面接でも、また、面接での体験で学ぶことを論述に活かすことができるはずです。

 

事例指導者ができることは、

事例相談者の内的基準や価値を信頼し、その言葉が現れては引っ込み、

また現れる循環を急かさないこと、そして、合意という名の小さな橋をいくつも架けながら、提案を押すのではなくそこに留まりつつ置く、

それでもなお、迷いやためらいが出たら、

それを「後戻り」ではなく「ごく自然な抵抗」として尊重できること。

この地道な往復の先に、事例相談者の行動が

「自分の言葉に支えられた一歩」として始まるのだと実務で確信します。

 

先日、2級の受検者の傾向ということで公開された内容に、

「自身の視点のみで話を進めてしまう受検者はまだ多かったように思う。相談者が話したことにのみに焦点を当て、その解決策を提案、目標設定をしてしまう場面もあった。

結果、設定された目標に対する相談者の関与が薄い。

目標設定やその後の展開が効果的に行われなかったことは気になった。」

といった内容のメッセージがありました。

※キャリアコンサルティング協議会HPより抜粋。

 

さらには、

「面談の終盤に相談者を説き伏せるかのごとく、事前に用意しておいたと感じられる方策をまくし立てるように提示する場面も見受けられた。」

という指摘も未だにあるということ。

 

1級でも同じ現象が起こっていることが推察されます。

※私の推測です。

 

そのようなことにならない本質的な準備を心がけたいものですし、

また、この1級試験対策を通して、実務・実践力向上につながる学びをご一緒に深めていきたいと願っています。