キャリアコンサルタント同士でも、
日常的に生成AIについて話し合うことが増えました。
思った通りの反応や肯定的な返事があると、
単純に嬉しくなったり、安心してしまったりするのは、
ひとの単純で純粋なところなのかもしれません。
そうした思い込みに似た関係性がひと側に生まれると、
その後のアドバイスや意見、改善点などもシンプルに受け入れやすくなっていく。
実に面白い現象です。
今の技術では、語るひとの状況に応じて、
感情パターンを読み取り、合わせたトーンや口調まで模倣できるほどに学習しているのですから、
バーチャルで心が奪われる場合もあるのだと思います。
これは今に始まったことではなく、相当な歴史もあるようです。
もちろん、昔は生成AIというものがあったわけではありませんが、
予め、理想とする回答をいくつかのパターンで取り込んだボックス等に向かって、
人間が問いかけると返事が返ってくる…
するとひとには好転的な刺激が生まれるというような研究もありました。
ひとが機械に心を宿わせているということです。
実に単純ですね。
かくいう私も誰か(生成AI含む)に褒められて、
内心笑顔になってしまうこともあります…苦笑
さて、今回の記事では、その生成AIに関して少し触れてみたいと思います。
私も企業での研修を実施しながら、生成AIはすっかりフル活用しています。
※むしろ場面によって積極的に利用するように働きかけられるほどです。
ただし、たとえ生成AIを活用する場面であっても、
キャリアコンサルタントとして気をつけておかなければならないことがあります。
例えば、過去問のような著作権のあるものや、
相談内容など守秘義務が発生する情報を、生成AIに入力すること自体、
広く第三者に「見せた」のと同じような扱いになる可能性があります。
つまり、不特定多数の人に向けて公開したことと同じ意味を持つと考えたほうが安全です。
過去問のようにすでにネット上で見かけるようなものでも、
使い方によっては大きな問題に発展することもあるはず。
倫理面等を踏まえ、専門家同士、お互いに注意が必要なことです。
お話は記事の本題に戻ります。
生成AIの進化とともに、キャリア形成支援の現場にも、
新たな問いが投げかけられると思います。
キャリア形成支援に関わる諸々の情報提供や諸制度等の説明といった支援は、
かつては、キャリアコンサルタント自身の専門的知識として不可欠とされてきました。
一方、現代においては、検索技術の発展や生成AIの活用によって、
それらの情報は目の前でリアルタイムにほぼ正確、且つ簡単に得ることが可能です。
しかも、それは誰が調べてもほぼ同じ回答にたどり着く性質のものであり、
プロンプトさえ的確であれば、数秒で必要な情報にアクセスできる時代となりましたよね。
にもかかわらず、
キャリアコンサルタントの育成・養成においては、
いまだに諸知識の網羅性や制度理解の深さに多くの時間とエネルギーが割かれている現状があります。
確かに、基本的な制度や支援体系、労働市場や企業組織における人材ニーズに関する知識は、専門職として最低限必要なものです。
だからといってそれらが支援の核心かといえば、決してそうではないと考えます。
特に最近強く感じているのは、どれだけ専門的な知識が豊富であっても、
目の前のクライエントに焦点を当て、そのひとの語りを丁寧に聴き、
そのひと自身もまだ気づいていないような感情や価値観に共に触れていくような面談こそが、キャリア形成支援の本質であるのではないか…ということです。
例えば、企業内外でクライエントが相談に来る動機は、
その多くの場合「仕事」にまつわることかもしれません。
ただし、実際に対話を重ねていくと、その背景にある心理的な課題や、
自尊感情の揺らぎ、人間関係の悩みなどが浮かび上がることは少なくありませんよね。
キャリア形成支援者がその気配を見逃さず、対話の中で心の声に気づいていくことができれば、それはメンタルヘルスの一次予防にもつながります。
そして何よりも、クライエントが「自分の話を本当に聴いてくれる人がいる」と感じられることが、支援の力そのものになるのです。
こうした支援は、生成AIやツールには到底代替できるものではありません。
誰でも調べれば同じ答えになるような情報は、
生成AIを活用するなりすれば、活用方法に慣れている場合、
即座に確実に正しい答えが出てきます。
情報提供等は生成AIがリアルに担い、
ひとがひとにしかできない支援に集中するという視点は、
キャリア形成支援の質をこれから高めていくうえで、避けては通れない考え方だと思うのです。
ただ、実際に現実の育成現場や業界全体を見渡すと、
依然として「知っていること」が「できること」よりも重視されている風潮が残っている気がします。
この背景には、諸団体が企画する研修やセミナーにおける動員や収益構造といった大人の事情も絡んでいるのかもしれません。
知識を扱う研修は目に見えやすく、資格取得や専門性のアピールにもつながりやすいため、どうしても「格好よく仕事をするための知識」を重視するような潮流が生まれやすいのです。
しかしながら、一般に目立つ知識や理論だけでは支援の質は保証されないはず。
クライエントと向き合う力、違和感に気づく力、対話のなかで深層のニーズを引き出す力。
こうした「ひととしての感性」や「聴く力」にこそ、
もっと時間をかけて磨いていく必要があると感じています。
キャリア形成支援者にとって最も重要な資質は、年数を重ねてもなお、
目の前の一人ひとりと丁寧に向き合える柔軟さと感受性を保ち続けることだと思います。
知識は更新され続けるものであり、調べれば誰でも同じ答えにたどり着けるものである一方で、ひととの対話は唯一一回性のものであり正解のないプロセスです。
だからこそ、キャリア形成支援者が真に力を入れるべきは、知識の量ではなく対話の質にある。そう強く感じています。
ひとへの支援の本質は、知識の披露ではなく、
相手の存在を尊重し、心を通わせる関わりにこそ宿るのだと信じています。