一昨日と昨日の2日間、
横浜にて1級キャリアコンサルティング技能検定試験対策講座を開催いたしました。
2025年度講座プログラムを横浜会場でもスタートすることができ、
受講いただいた皆様に、心から感謝申し上げます。どうもありがとうございました。
4月に企画したスタートアップ講座プログラムは4月29日を最後に福岡で実施いたします。
福岡会場では講座の定員数を4名様にしているため、受講いただける方も限られていますが、
4月のプログラムの性質上、少人数制のメリットもあると思っています。
ご予約いただいた方は、当日の学びをぜひ楽しみにしていてほしいです。
さて、1級キャリアコンサルティング技能検定試験の対策講座を実施していく中で、
事例相談者との対話をどのように進めていけばいいのか…
といったことが話題になることが多いものです。
特に、事例相談者の語りの中から自らが気づきを得られていく過程における対話のあり方が難しいと感じられる方がいらっしゃいます。
(何かしなければならない)と考えているからでしょうか。
事例指導者(受検者)からの意図した問いかけが、事例相談者の気づきを促すことになればいいのですが、
実際には事例指導者の意図が過ぎて事例相談者の気づきを妨げてしまうということが多くあるのかもしれません。
事例指導者があれこれと前のめりになり、その場面をなんとかしたくて語り過ぎているような現象を観察することがあります。
心理職同士の学びの場などでも
「話すことよりも話さないことの方が難しい」
という話題があり、この表現は単なる印象論ではなく、
心理支援の本質を突いた重要な示唆を含んでいるようにも考えます。
この背景には、人が沈黙や空白の空気感に対して不安を感じやすいという心理学的な現実があるのだと考えます。
様々な分野において、その場の沈黙の不快さはよく知られています。
会話が続かない状態を不安定に感じることから、
無意識にその空間を言葉で埋めようとする傾向があるといわれます。
一方、カウンセリングや心理支援の場面においては、
沈黙は単なる「間」ではないということ。
スーパービジョンでも事例指導の場面でも同様のことが言えます。
これは話し手の内面で深い感情や思考が芽生えていく貴重な時間であることが少なくないという意味合いです。
事例指導者側が焦って言葉を挟んでしまうと、
事例相談者の内側で進めようとしている大切な作業を妨げることになりかねません。
要するに「話さない」という行為は、単なる受け身ではなく、極めて能動的で相手を尊重する支援行動なのだと思います。
「話さないこと」が難しい理由には、
共感的態度を保ちながら沈黙に耐える自律性、
自分の不安や介入欲求を自己制御するメタ認知能力など、事例指導者自身の内面的な成熟が深く関わっているように思います。
これらは形式的な試験対策や技術だけで習得できるものではありません。
継続的な自己観察と成長の自覚醸成を必要とします。
「話さないことの難しさ」というのは、人のキャリア形成支援やそれに携わるキャリアコンサルタントの育成支援における事例指導者側の自己制御、共感、相手中心の姿勢といった本質的な態度の重要性を表しているのだと感じます。
この難しさに実践訓練等の中で取り組むには、
まず自分自身が沈黙に直面したときにどのような感情が生じるかを丁寧に自己観察することが出発点となるはずです。
相手が黙っているときに自分が焦りや不安を感じたとすれば、
それは自己の中のどのような思いから来ているのかを探ることが重要。
「役に立っていないのでは」という不安、
「何かしてあげなければ」という過剰な責任感、
「間が持たない」ことへの居心地の悪さ…
こうした自己内の動きを把握することで、沈黙に耐えられない背景に合点がいき、
初めてそこに自分で働きかけることが可能になるのではないでしょうか。
沈黙を「空白」と捉えるのではなく「意味のある時間」として
リフレーミングしていくことが実践上非常に役立ちます。
沈黙の時間は、話し手にとって言葉にならない感情と出会っている時間であり、
まだ形にならない思考を探している時間かもしれません。
このように捉え直すことで、事例指導者は沈黙の場面にも落ち着いて立ち会えるようになることも期待されます。
CVCLABの講座等を活用した工夫としては、
沈黙を意図的に保持する練習や、沈黙中に自身の身体感覚、身体の相互性に意識を向ける練習、
沈黙の後に問いかける言葉を選び、磨くことも大事なのかもしれません。
沈黙を破るときも、ただ間を埋めるためではないのです。
事例相談者の内的なプロセスを尊重し、寄り添う意図を持って言葉を選ぶことが大事だと実感します。
このバランス感覚は非常に繊細ですし、体験的訓練や経験を重ねることで、
少しずつ身についていくものではないかと考えます。
事例指導の実習の場面において、
「話さないこと」の難しさをテーマとして扱うことは有意義だと思います。
昨日も横浜の講座でそうした話題にも触れていますが、
なぜ自分の中で事例相談者に気づかせたくなるのか、どんな感情を抱いているのか、
「ここで話さないこと」にはどんな意味があるのか、といった自己内省を促す訓練が重要です。
事例指導者自身が自己理解を深め、指導者としての成熟を促すことができると思います。
こうした積み重ねによって、
「話さないことの難しさ」は事例指導者自身の成長の糧となり、
より深い対人支援の力へとつながっていくことでしょう。
「話さないこと」の難しさを真正面から見つめ取り組むことは、
諸々の支援技術の向上以上に、キャリア形成支援者としてのあり方そのものを育てる道にほかなりません。