1級キャリアコンサルティング技能検定実技面接試験では過去問の通り、
例年、試験問題となるケースが3つ受検者へ事前に知らされています。
このケースの扱いについて、
「事前に内容を推測し、考えられるキャリアストーリーや事例相談者に関する傾向、問題解決策等を万全に準備して臨む」
という考えやアプローチに出会うことがあります。
特に興味深いのは、
事前にケース概要が知らされていることの意味合いについて、
(事前にケースをよく分析しておくように!)
(ケースを十分に想像して試験に臨むように!)
といったような解釈をしていることがあるということです。
これは試験でも実際の実践でも当然によくないことだと考えますが、
なぜ受検者が上記のような認識をもつことがあるのかという点です。
もしこのようなことを行っているとなると、
いつまで経っても1級合格率も全体的に上昇していかないと感じます。
カウンセリングアプローチ等について実践的体験やそこから学びを重ねている方であれば、
ケース自体やその事象や事柄等ではなく、
その人自身(常に相談してくれる相手)にフォーカスしていくことが重要であるということを理解されているのだと思います。
勝手な憶測でケースを想定し、実技試験に臨むということ自体、
倫理的な観点からも違和感を覚えてしまうのではないでしょうか。
試験でも実践でもケース情報やその概要を事前に得られ、
知らない言葉や認識の低い情報等がそこにあれば、
事前に調べるなどすることは必要なのかもしれません。
※実際にはその場しのぎで調べたことや、それに基づいて知ったかぶり等をするより、
必要に応じて相談に来たその人から直接わからないことを聞けばいいのですが…。
事例指導者(受検者)にとって、自身が抱く不安や心配等から、
予めケースのあれこれを想定する行動をとることもあるのかもしれません。
この時点で、事例指導を実践していくうえでみているところがズレてしまっていることもあるから注意が必要です。
試験でも相談しているそのひとに焦点をあてていけるようにしたいですね。
事例相談者が備えている主体性を引き出したり、
相談者への支援のあり方について、事例相談者の気づきの場を提供することが大事なのです。
事例指導者がケースについて勝手な解釈をした態度や姿勢を持つとなると、
事例相談者の主体性を損なう可能性があり、事例相談者が直面し抱えている問題や悩みを十分に理解するという機会を損なうことにもなりかねません。
諸々準備を整えることは大切だと思います。
だからこそ違うところに磨きをかけて欲しいと願います。
ケースの内容等に関しては、事例相談者との対話を通じ、
事例相談者自身の考えや感じていることを言語化したり、
洞察が深まっていく過程を共に大切にしてそれを体験していくことに注力する。
これが事例指導の本質になるのだと思います。
事例相談者が自ら問題や課題に気づき、
その解決策を見出していくプロセスを支援するためには、
まず事例相談者が何を感じ、どんな考えを持っているのかを理解しようとすることが重要です。
事例相談者との初回の対話においては、
まず「聴くこと」に重きを置きたい。
事例相談者から直接、ケースについての背景や自分が抱えている課題、
これまで試みたことなどを話してもらうことで、
事例相談者がどのように問題を捉えているのかが明確になっていき、
事例相談者の視点に立ったアプローチを取ることが可能になるのだと考えます。
事例相談者が自らの面談体験を語ることにより、
事例相談者の思考を整理し問題解決への道筋を共に見出していくことができるのです。
事例相談者との信頼関係を築くためには相互での自由なやり取りが不可欠です。
事前にケースについてあれこれ準備をしすぎると、
事例相談者が自分の意見を自由に表現することが難しくなり、
結果的に対話が一方的になることが懸念されます。
事例相談者が気軽に質問したり、
自分の考えを話すことができる環境を整えることで、
信頼関係が深まり、より効果的な支援が可能となります。
事例相談者が自己成長を遂げるための支援を行うこと。
そのためには、事例相談者の思考と行動を尊重し、
事例相談者がどのように状況を捉え、どのような方法を試みたのか、
こうしたことを聴く過程が最も重要だと思うのです。
事例指導者がケースをなんとなく一般化したり事前に何かを準備したり大凡を決めてしまうのではなく、
事例相談者との対話を通し事例相談者が感じている課題を掘り下げていきながら、
共に解決策等を見出すことが事例指導に最も有効なのだと考えます。
最終的には、
事例相談者が自身の中に事例指導者やスーパーバイザーを育み、
問題解決に向かって自ら進んでいけるように導くこと、
これが事例相談者にとって最も大きな成長の機会になる得るのではないでしょうか。
事例相談者の自律を促進し主体的な学びを支援するためには、
事例相談者が自分の思考を表現できるような環境を整えることが、
事例指導者として最も大切な役割であると言えるのだと思うのです。
この記事の最後に…
事前にケースが知らされている理由を私なりの考えから表現してみます。
受検者の方が日頃活動している分野とは全く異なるケースも1級試験では取り扱うのですよ。
一応、事前に3ケースの概要を提示するので、
どのケースが当たっても公平性がありますよ。
事例指導の実技試験でみているのはケース分野やそのやり方に特化したスキル等ではなく、
事例指導自体の基礎セッションについてその実技の基本を評価しているのですよ。
こんなふうなメッセージを私なりに感じます。
※個人の勝手な見解です。
例えば、企業も需給も教育も、
ひとのキャリアに関する支援をしているキャリアコンサルタントへの事例指導面接においては、
先ずキャリア形成支援に関する共通項があります。
それをもとにして2人で相互作用を活かした振り返りを行う関係性が一番のポイントだと考えます。
事例相談者に会う前から、ケース内容等、
事例指導者の勝手な憶測で考えることではないはずです。