第12回1級キャリアコンサルティング技能検定試験論述選択問題の事例2(企業分野)を使い、

この事例相談者が抱えている問題を考えていきたいと思います。

なお、この記事では筆者のひとつの視点で考えて文字にしていきます。

読者の皆様におかれましては異なる視点等からも実践的に考えてみてください。

 

問1 この事例相談者が抱えている問題は何か、あなたの考えを記述せよ。

 

この質問を事例指導者がどう捉え、どのように考えていくのかによって、

事例指導者(受検者)の指導スタンス等もみえてくるものだと思います。

 

例えば、

「夜勤を担当させられることもありました」

「夜勤は体力的にもしんどかった」

という相談者の発言に対して

(さぞかし大変だったでしょう)

と同調するに留まってしまっているため、

相談者本人が自身を振り返る機会になっていない…

 

「もともと旅行が好きでこの業界に入ったはずなのに、

全く旅行と関係のない仕事ばかりさせられていたので…」

という話しに関して

(今はまだ療養施設での業務ですか)

と事例相談者のペースで話題を変えてしまい、

相談者が語る機会を阻害している…

 

「これからもこうやって振り回されるかもしれないと思うと、何だか疲れてきまして…」

に対し

(振り回された感じがして疲れてしまったのですね)

と返していることで、

お互いの意味合いがズレてしまっていることが考えられ、

相談者のこれからの不安を照らす言葉がけができていないことから、

相談者が自分を客観視する時間が得られていない…

 

「起業も簡単になりましたからね」

という相談者の認識に

(起業はリスクが高いので…)

といった事例相談者側の枠組みで否定的な意見を言っている…

相談者に対して起業リスクの本質を理解させていない…

 

等々。

 

事例の内容からこのように事例相談者の不出来なところを見つけようとすれば、

もっと色々出てきますよね。

これらを事例指導者視点で問題として示したとしましょう。

私は事例指導の実践として指導効果があまり期待できない気がします。

それこそ、

事例指導者(受検者)の視点・枠組みだけで書いていることにもなるかもしれません。

この視点を問1での《あなたの考えを記述》とするなら、

指導スタンス自体が事例指導者中心で考えていることにもなりそうです。

 

ひとつの大切なこととして、

事例相談者自身が相談者支援に役立っているだろう(うまくできた等)と感じているところにフォーカスしてみるのが、

後々抱えている問題を共有するときに必要だと思うのです。

 

この事例相談者の場合、

(何がいけなかったのか)と書いているわけですから、

単にいけなかったところを探ろうとするだけでは事例相談者の成長につながり難いでしょう。

要するに、何ができていて、何ができていないか、

それを自分で見つけられることがひとつの成長です。

 

興味深いことにこの事例相談者は自己評価として、

(状況を十分に把握して悩む気持ちに寄り添うことで、かなり自己開示はしていただけた)

(現職に留まるほうがよいとは思いつつも…)

と記しています。

 

これを読んで事例指導者(受検者)が、

《そんな風に書いているけど、全然気持ちに寄り添ってないじゃないか》

《自己開示できているようには思えないけど》

《現職に留まるほうがよいと思っていること自体が自己決定権を邪魔している》

などと事例相談者のことを否定しているようでは、

事例指導者としての姿勢や態度がよいとはいえないと私は感じます。

事柄や事象ばかりに注意がいってしまっていて、

目の前にいる事例相談者のことを理解しようとする能力が発揮されていない感じです。

 

相談者が体験したしんどさや今後も振り回されるかも…という仕事をコントロールできない不安感や疲弊した気持ち、先々の希望が持てない感覚などを語ってもらっていることが事例相談者の所感内容にもつながっていると思います。

そうしたところは事例相談者が自分でできていると思っているでしょうし、

その話しを聞けているからこそ記録に残すことにつながっています。

 

では、事例相談者ができていると思えているところを、

さらに伸ばすことはできないのか。

できているところをさらに伸ばすことが、

今後の相談者支援(コロナ禍の影響をきっかけに相談に訪れるケース)に役立つこともあるかと思うのですがどうでしょう。

 

(何がいけなかったのかわからない)と事例相談者自身が書いている。

事例相談者本人がわからないことが事例指導者にわかるのでしょうか。

それはなかなかわかりませんよね。

 

それよりわかっていることから取り組むことで視野が色々と広がり、

事例相談者自身、自分でわからなかったことにも気づくきっかけができるかもしれません。

こうした発想は事例指導者のユニークさから生まれることでもあります。

学びは楽しいもの。大切にしたいですね。

 

相談者が言葉にしたしんどさや今後も振り回されるかも…

という仕事を制御できない時の辛さ、その不安感や疲弊した気持ち、

相談者が抱くこれらの感情的な側面は

「モチベーションが下がってきたと感じている」

「これから先どうしたらよいのか悩んでいる」

このような相談内容にどのようにつながっているのかを相談者自身に問いかけてみることができれば、

もう少し相談者が自分の考えを整理できるかもしれません。

 

転職でも起業でも、会社に残っていくことも含めて、

相談者自身が自分で納得できる人生を送るためにも、

今、何が相談者自身を揺らしているのか。

相談者自身が面談時間の中でじっくりと味わってみることができれば、

これまでの長年勤めてきた愛着の意味からも、

今後何を大切にして職業等を選択し人生の最適化を図るのか、

相談者視点を大事にして共に考えていく関係性が構築できるとさらによさそうです。

それは今後の相談においても、

より質の高いキャリア形成支援が実現できるのではないかと感じました。

 

結局、相談者の立場からは、この事例相談者との面談後半では、

「起業」について賛成か反対かという話題に終始した感が拭えないかもしれません。

それが(あまり納得のいく様子ではなく)という事例相談者の自己評価にもつながるのかもしれません。

 

『相談者が真に聴いて欲しかったこと』

ここが明確になっていない、二人の間で一致していない点が問題かもしれません。

『事例相談者の提案内容が相談者の価値観や優先順位と合っていないこと』

これが問題かもしれません。

でも大事なことは、そういう現象だけでできていないところをただ提示するのではなく、

その過程がとっても重要だということです。

 

事例相談者の立場でものを考えられる事例指導者でありたいところです。

 

次回は今回の記事を土台にして問2について考えてみます。