第12回1級キャリアコンサルティング技能検定の論述試験問題を活用して、
事例相談者の立場での相談者への対応を考えてみたいと思います。
引き続き、必須問題の事例1を使います。
今回は問3を考えてみるのですが、ここでも大事にしたいことのひとつに、
この事例をまとめている事例相談者の立場を考えることがあります。
問3 あなたが、この事例相談者の立場なら相談者Aに対してどのように対応するか、あなたの考えを記述せよ。
この問いを考えるときに、事例の最初に記述されている通り、
《次の文章は、事例相談者が事例相談を受けるためにまとめた事例である。この事例を読み、以下の問いに答えなさい。》
という目的が示されていることを忘れてはならないと思います。
つまり、自分視点(事例指導者視点)だけで相談者Aへの対応を考えたところで、
単にキャリアコンサルティングを実施するイメージを書くだけに終始してしまいます。
《あなたの考え》には自分視点しかないのですか?
と実技として評価されることにもなるかもしれません。
《あなたの考え》をどこまでの意味合いを考え、
言葉をどのようにとらえるかは自由です。
大切なのは実技だという点で、事例指導やスーパービジョンの実践を行うイメージを浮かべるとわかりやすいと思います。
すると事例指導者が相談者を直接対応するイメージではなく、
事例相談者が専門家としてやろうとしたことを十分に理解して、
それが相談者の役に立つためにはどんな改善ポイントがあるのか、
どんなことをプラスして取り入れるとうまくいきそうか、
そのような視点で考えることが事例相談者の成長につながります。
今回の事例の場合、
事例相談者が記録にできている諸々の情報を少し深めていくテーマで要点を書いていくこともできそうですね。
※単に事例相談者がやろうとしたことに沿って考えるというよりは、
むしろ(このあとの支援をどのように進めればよいか)という相談内容にフォーカスした記述でもいいと考えます。
事例相談者のことを否定するかのような視点で、
事例指導者独自の対応方法を示すわけではありません。
問1と問2を通して事例相談者が支援しようとしている対応内容を肯定的、建設的にフィードバックする考えができていると、
事例相談者がやろうとしていることを理論と実践に置き換えて表現できると思います。
事例指導者自身が知っている知識や得意な技法等だけではなく、
事例相談者がやろうとしたことを相談者支援につなげられるような柔軟性と応用力が事例指導者には必要なのです。
このように考えてみれば、
必須問題の問3で問われていることの深さが理解できるように思います。
※筆者の実技としての考えとなりますので検定試験に特化した話ではありません。
前回、前々回の記事内容についても、
上記のことがわかると納得できる点も増えるのではないでしょうか。
ひとつでもフィットする点があれば取り入れて考えてみてください。
さて、今回の問3のひとつの考え方ですが、
以下のようにポイントを表現することもできるかと思います。
相談に来たことを労いつつ相談者Aがこの面談で何を求めているのか、
曖昧でもいいので最初に相談者Aの言葉にしてもらうことは大切です。
そして部長としての責任・責務という言葉の意味を確認しながら
(今後の働き方について迷っている)を受け止めていけるといいかと思います。
コロナ禍で変化している仕事環境等に影響を受けて、
役職へのとらわれや葛藤等が語られることもあります。
また22年今の会社に勤めてきたのはどうしてなのか、
相談者Aの仕事への思いや考え方、物語などを話してもらうことは大事だと感じます。
それは現在も続いている相談者Aにとって大切なことかもしれません。
相談者Aにとってその意味があり、自己の経験への価値づけがあると思います。
こうしたことを聴けると(独立した方が…)という事例相談者の発想が少し異なってくるかもしれません。
コロナ禍により変わったこと、
新しく経験している世界(仕事の変化や家族との時間等)について語ってもらいながら
相談者Aの中での価値観の変化の意味合いを振り返ってもらいたいところです。
特に「末っ子の送り迎えなどができる」「夕食も家族で一緒に過ごせる」「育児は妻に任せっきりでした」という点も、
相談者Aの中での価値観の変化につながる大きな刺激になっている可能性があると思います。
そして今回の相談が「今後の働き方に迷っている」という点があるので、
「現在は順調に業務を進めることができるようになってきた」
という何となく矛盾していることについて具体的に語ってもらうことも大切でしょう。
これは相談者Aなりにうまくいっていると認識している側面もあるのだと思います。
一方でデメリットも相当に出ている様子がありますよね。
良い面もあれば悪い面もあるということを話してくれているので、
冒頭で聴いた「責任」というキーワードについて相談者Aのその言葉の意味や考えを改めて教えてもらうことも必要です。
実は仕事だけでなく家族に関しても何かしらの「責任」を感じていることであれば
「八方塞がり」の意味も色々つながることがありそうです。
今の会社でテレワークが主流になっていること、
フレックスタイム制が導入されていること、現在の顧客の利益率が低いことなど、
会社の将来や市場環境変化などにも不安を感じているものなのか、
そうしたことが給与水準を維持したいという言葉につながることがあるのか等、
急激な環境変化に関して相談者Aの感じていることを話してもらうことも大切です。
今の会社に働き続けていくことで例えばピークに近い給与水準が5年後、10年後にどのように変化すると予測できそうか、
相談者A自身が自分と家族のイベントを整理してみることでプランを立てる必要性を感じるかもしれません。
相談者Aにとってあらゆる点で理解者がそこに一緒にいるというものがどれだけ意味があるのか、
これが相談者の成長につながることをキャリアコンサルタントがわかっている必要があります。
十分に話しをしてもらったうえで、
改めて相談者Aが今何を解決したいと考えているのか、働き方の悩みというのは一体なんなのか、
それらを言葉にしてもらい、仕事と家族の両立についてより充実感を高めることを目標に、
何から始めることができそうか一緒に検討していく場面を作ることができるといいかと思います。
これが事例相談者の(この後の支援をどのように)という疑問に合った事例指導のあり方にもなるかもしれません。
仕事の充実は家庭の充実にもつながり、
また家庭の充実は仕事の充実にもつながる。
そのためには周囲を巻き込むことも必要であり、
人的資源として考えられるものは何があるのか、
また会社にどんな働きかけができそうか、
そんな話の展開にもなっていくかもしれませんね。