第12回1キャリアコンサルティング技能検定試験の受検からだいぶ日が経ったような感覚をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 

昨年12月に実施された学科試験と実技論述試験、

今年2月4日から23日までかけて実施された面接試験、

そしてその合格発表は3月22日。

 

この期間ずっとソワソワして多かれ少なかれ緊張が続きます。

 

結果が待ち遠しい…待ち遠しくはない…

受検者によって思いはそれぞれだと思いますが、

あと約26日経つと2022年度の1級キャリアコンサルティング技能士が新たに誕生します。

 

ひとりでも多くの方が1級合格となりますように!

とずっと願っています。

 

昨年12月に実施された実技論述試験。

 

《事例をすっかり忘れちゃった》

《自分が何を考え書いたのかすら覚えてない》

 

なんてこともあるのではないでしょうか。

 

それでは少しもったいない感じです。

 

実際の試験本番の緊張場面で表現したご自身の実際の力なのですから、

自己の傾向等を分析していくうえでも、またとない機会にもなるのだと考えます。

試験結果が出るまでの間を活用し少し論述の内容を思い出していただければと思います。

 

さて今回から、

第12回1級キャリアコンサルティング技能検定試験の論述問題を活用し、

筆者の視点で少しずつ解説をしていこうかと思います。

読者の皆様もお手元に第12回の論述試験問題を用意してご一緒に考えてみていただけると嬉しいです。

 

なお、前提として書いておきたいと思うことがあります。

 

事例指導の面接を考えてみるとき、

キャリアコンサルタントの試験対策などによく示される

自己理解不足、仕事理解不足(組織ニーズの不足や役割認識不足等も含む)、中長期計画不足、コミュニケーション不足、視野狭窄や思い込み、経験不足(経験への意味づけや価値づけの不足やイメージ不足も含む)、情報収集不足、環境への働きかけ不足等々…

こうしたCC視点を基準にした人の問題の当てはめ方や認識、

こうした論理的な言い分を並べるのはナンセンス、

且つ全く実践的とは言えないように考えます。

 

普段の生活においても、

ただでさえ人の悪いところというものはよく見えるもので、

平気でそこをダイレクトに指摘する人が多い世の中です。

 

キャリアコンサルタントとして頑張ろうとしている人に向けて、

先輩キャリアコンサルタントがそのような一般的な当てはめ方で人のケースやその対応等を評価・指摘してしまっては元も子もないのです。

 

指導者のあり方の一つとして、経験も立場も全てが異なる他の専門家(CC)に対し、

真に目の前のその人自身を尊重できる姿勢をもてる人間になること、

実践家として成長していくためにそうした研鑽を重ねていきたいものです。

 

今回から先ず事例1の必須問題を使います。

最初に事例を読んで考え方を少し整理してみます。

 

相談者Aは44歳の男性で現在の会社に入社して22年になるようです。

専業主婦の40歳の奥様、そして長男が11歳、次男が8歳、長女が5歳という家族構成。

 

単純に考えてみると、

今後5年間ほど先をみると長男の高校入学、次男の中学入学があり、

10年間ほど先をみるならば、

長男の大学卒業前、次男の大学進学、長女の高校進学といったイベントが待ち受けています。

 

相談者Aも奥様もそうしたことは、

なんとなくでも話し合ったり感じていることはそれぞれあるかもしれません。

 

相談者Aから

「3人の子どももいるし、妻は専業主婦なので…」

「教育費などを考えると先の不安もあります。」

といった発言をしているように事例に記録されているわけですから、

このあたりで相談者Aが具体的に何を言いたいのか、

相談者Aの立場になって感じてみる場面がキャリアコンサルタントにあるといいかもしれないと感じます。

※この時点で事例相談者がそうしたかかわりが「できているとかできていない」とかを考えているわけではありません。

 

また、

相談者Aは中堅の広告代理店で営業部の部長職で部下を10名もつということです。

衣料・繊維関係の部門の部長で上席に事業部長もいらっしゃるようです。

コロナ禍という明確なワードも出てきています。

 

コロナ禍によって多くの事業があらゆる面で変化せざるを得ない状況です。

業界によっては激震が走っています。

先行き不透明で業績が急激に悪化している事業は多く、

日々メディアにも一部の企業組織等が取り上げられています。

 

相談者Aは44年の人生経験をもち、

そのうちの22年間、今の会社組織で生きてきた人です。

それでもコロナ禍は初めての経験でしょう。

そしてこのタイミングでキャリアコンサルタントに自己を開示し

「常に仕事をしている感じなんです」という具合に相談するという、

実に不思議なもので興味深い世界です。

真にその人の立場をわかろうとする関係性が必要なことが感じられますよね。

 

今の会社の業績等の動向につながる面で記されていることとして、

「コロナ禍でテレワークが主流となり」

「最近フレックスタイム制が導入され勤務体系が変わった」

「働き方改革の推進をしているので、部下の残業時間管理も強く言われています」

「直ぐに増員はできないと言われています」

「現在の顧客の利益率が低いので、人員削減を検討した方がよいという考えのよう」

といった事柄があります。

 

組織は場合によって一個人のことを基準には考えないでしょう。

こうした大きな環境変化に部長の立場を認識しているこの相談者Aは何を思うのでしょうか。

相談者Aは上記の話しから何を言いたいのでしょうか。

 

状況や事柄だけを文字通りに理解するのではなく、

そこでその人が何を言いたかったのか、

これはキャリアコンサルタントとして相談者を理解していくうえで必要な問いかけになります。

 

「部長としての責任」

「部長職として責務を果たすこと」

「最後は私の責任になる」

ということを事例相談者が記している点があります。

 

【所感】の冒頭にも、

(Aさんは責任感がとても強いと感じた。)

と記されています。

 

そして

(Aさん自身ができることはない、ということであれば独立した方がいいとも思うが…)

とありますね。

 

この事例相談者は相談者Aとの面談中に、

相談者Aは(責任感が強い)

というパーソナリティ側面に注意が向き、

その前提で支援方策を考えていたということになるのかもしれません。

 

もし、相談者の変え難いところ(性格など)に目を向けるのならば、

どうしてこの人はこうした場面で責任感が発動するのだろうか…

この人にとってそれはどういうことなのだろうか。

といった具合に、

その人のそうした時に起こるこだわりや大切にしているところを共有できるような側面的支持も必要になることがあります。

 

相談者が発言している言葉をそのままを受け、

それをキャリアコンサルタント自身がどうしようか…と考えることでは、

今回の事例相談者の相談内容にあるように

(このあとの支援をどのように進めればよいのかわからない)

ということになるかもしれません。

 

相談者Aという一人の営業部長が、

「今後どのような働き方をしたらよいか迷って…」

と相談に来ているわけですから、

相談者にとっては余程特別なことでしょう。

 

私たちキャリアコンサルタントがそれを簡単には理解できないでしょうし、

ましてや対処方法がわかることでもありません。

 

いや…

 

私たちは対処法などわからない方が、

より善い相談者支援に繋がり得るということもいえます。

 

するとこの事例相談者が事例指導で求めていること自体がズレてしまっている、

キャリア形成支援者としての自己の振り返りが適切におこなわれていないということも視野に入れておく必要があるかもしれません。

 

あり方として、キャリアコンサルタントが支援を進めるというよりは、

相談者Aが一体何を言っているのか、何をわかって欲しいのか、

それを相談者Aの立場になって感じてみる、理解しようとする、

そのキャリアコンサルタントの態度が求められているケースにもなるのかもしれません。

 

今ここで、圧倒的な理解者がいるということが、

相談者自身が自分のことを真に語れるようになる特別な場になっていくこともあります。

 

次回の記事からは、今回書いてきたようなあり方を土台にし、

各問をひとつずつ考えてみたいと思っています。