「それ以上のことは何も意味していない」

書かれていることの解釈について、そのように主張する人もいます。

 

1級キャリアコンサルティング技能検定試験を受検するとき、

例えば、学科試験などではそうした解釈の方がブレずに早く正解に辿り着くことでしょう。

 

一方、実技試験の論述や面接においては事例記録を扱うわけですが、

事例相談者がまとめてきた事例記録について、

「文字通りの解釈が重要で、それ以上のことは何も意味していない」

と過度に偏った捉え方をしてしまうと、

記録をまとめた事例相談者に責任を課すことになるというか、

(あなたはこう書きましたよね。…ならば、こうなりますよね。)

というような、どこか冷たい融通のきかない圧をかけることになってしまいそうです。

 

「令和2年度 厚生労働省 キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業 報告書」

〜令和3年3月 特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会〜

 

によれば、公開されていることとして、

 

事例検討:

アセスメントや面接等の記録をもとに作成された資料に沿って意見交換し、その事例の見立てや援助方法の有効性を検討する。すでに終結または中断によって終了した事例について行われる事例報告(case report)のほか、専門誌や研究機関の紀要等に公開された事例報告を活用した「事例検討会」が行われることもある。(三川,2021より)

 

事例指導:

①事例について面接の流れを理解し、見立てることができ、事例の評価と事例相談者に対する意思決定(助言・情報提供、目標設定の提示、専門家育成能力)、②個人及び集団に対して、教育方法を活用し、個人又は集団に応じた事例指導(適切な介入、課題等に関する論理的・具体的・網羅的で簡潔な説明)、③個々の事例(専門領域を含む)に応じた環境(地域、組織、家族、対人関係やシステム等)の問題点(現状とあるべきものとの乖離等)について指摘、関係機関や改善案等の介入・指導、が安定的かつ適切にできること。

※特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会が1級キャリアコンサルテイング技能検定試験の「試験科目及びその範囲並びにその細目」で提示している実技試験に係る記述内容。

 

とあります。

 

これをこのまま文字通りに理解せよ、と言われると難しい。

 

1級キャリアコンサルティング技能士に、

上記に示されたような人は本当に実在するのでしょうか。

 

事例指導を安定して実践できる人がどれだけいらっしゃるのか。

例えば、試験官の先生方でも難しいのではないかと、勝手ながら推測します。

※私の感じ方です。

 

文字として表現するのであれば網羅的に示すしかないのかもしれません。

随分と欲張りな条件になりそうですね。

 

やれるものならやってみてほしい…

 

私はそこまでの条件が揃っている

事例指導者やスーパーバイザーにお会いした経験がありません。

 

というか、それでは受け身になってしまいますが…。

 

文字通りに解釈することが悪いとか良いとかではなく、

それは自分を苦しめたり狭めたりするだけではないかと感じます。

 

文中に「網羅的で簡潔な説明」と記載がありますが、

そもそもこの事例指導の説明文自体(どこが簡潔なのだろう?)という疑問も湧きます。

 

私の先輩の言葉をお借りすると、

 

事例指導と事例検討の異なりを理解することは大事。

事例指導者は勿論、事例相談者もその異なりを知っておくことが重要。

 

それには明確な理由があります。

 

以下のようにまとめてくれた先生がいます。

 

事例検討:対象事例の支援方法を検討。具体的な支援方法の実践知識を養う。

事例指導:支援内容や方法の背景等を汲み取り事例相談者の学びを深めていく共同作業。

 

このように簡潔な表現はわかりやすい。

 

しかし実現するには、

例えば、事例指導に事例検討を取り入れていくこともあるでしょうし、

事例指導が事例検討になっていても当事者が理解していれば良いのかもしれません。

 

情報を受けた側(私たち)が、その文字通りの解釈を安易に行うのではなく、

一人ひとり異なった視点で諸々の角度から理解を深めていく作業が必要となるでしょう。

 

自身の実践力向上に向けて意識できるところを見つけ出し、

自分なりに少し深読みした解釈によって課題を設定して努力していくことに、

独自の学びと楽しみが生まれるのだと思うのです。

 

文字通りの解釈は、あれこれ真に受けてしまいがちです。

 

そのまま取り組もうとしたところで文字が指南書的な機能となり、

どれも中途半端で難しくなっていくことでしょう。

実は1級の試験を難しくしているのは受検者の方かもしれません。

 

私を含め、1級に合格されている方は、

試験細目に示されている内容が本当にできていたのでしょうか。

※一部の方はもしかしたら自分で「自分はすごい」と思っているかもしれませんが…

 

事例指導者もスーパーバイザーもすごくなどない。

すごいのはクライエントであり、事例相談者やスーパーバイジー、受講者です。

 

「自分は初学者」と思われている方々から私たちは学ぶことばかりなのです。

※実際、何が初学者で何が熟達者であるかはわからないものです。

 

伸びしろが豊富な人ほど熟達者なのではないでしょうか。

そうした方ほど、指導力が備わっているのではないかと感じることが実際にあります。

 

大体、文字にすると堅苦しいことは世の中たくさんあります。

 

キャリアコンサルタントが文字通りの解釈をしているということは、

他者の人生の意味の解釈を堅苦しくさせ、

しかも自分の解釈や認識で物事を価値づけてしまうことにもなるのかもしれません。

 

1級キャリアコンサルティング技能検定の実技試験に関して、

実践的で柔軟性のある豊かな準備を重ねていきたいものですね。

 

それは1級試験だけに終わらない学びの積み重ねにつながると信じています。