スーパービジョンや事例指導の面接を実践していくとき、
バイジーや事例相談者に予め事例(ケース)記録をまとめていただくことが多いと思います。
※指導者の中には事例相談者に記録を出さなくてもいいと仰る方もおられます。
「こうするべき」と決めつけてしまうことではありませんね。
私は記録は起こした方が断然良いと考えています。
なぜなら「振り返りサイクル」が効果的に機能すると考えるからです。
ただし、記録を起こす人自身が、
記録に対して「指導者から記録を持ってくるように」と言われたから、
面倒臭いけれど、頑張って記録を起こした…と思っているようでは、
その行為は残念ながら効果的なものであるとは言えないかもしれません。
ですから、事例指導者は事例相談者に記録を起こすことを伝える際、
事例記録を自分でまとめるその意義や意味合いをきちんと伝えておくことが重要なのだと考えています。
事例相談者が記録を起こすことについて動機付けられていることが必要なのです。
これは事例相談者が自分の課題に気付ける仕組みをつくることにもなります。
振り返りサイクルの実践理論はまた近いうちに記事にしたいと思います。
さて、本日の記事のタイトルですが、
事例指導では、事例相談者がまとめた事例をお預かりして読み、
事例指導者としてその事例(ケース)をつかむという力が必要になります。
1級キャリアコンサルティング技能検定試験では、
論述問題でもそうしたことが求められていますよね。
このブログでいつも記していることですが、
難しい点では、
・事例相談者の認識から記述されている(バイアスがかかっている)、面談の全ては書かれていない
・事例指導者は相談者(クライエント)には会えない、会っていない
・事例の内容の解決方法に注意が向きやすくなる
というようなことがあると思うのです。
※実践で感じていることを挙げてみました。
特に事例相談者がまとめてくれた事例記録の内容に、
問題となりそうな細かい情報がリアルで多いほど、
惑わされてしまうこともあると思います。
複雑な対象を正確に理解していこうとすればするほど、
得られる情報そのものが複雑に絡み合い、そこから読み取ることは困難になります。
複雑な情報を自分の中でなるべく把握していこうとすれば、
単に自分の解釈に置き換えただけの複雑なものでしかない。
いや…余計複雑にしているとも言えるのかもしれませんね。
これでは事例の理解の困難さは増すだけでしょう。
一方、事例記録を読み取りやすい方法で整理していくとします。
つまり、キャリアコンサルティングの「あるある問題」のような単純化・一般化したものに当てはめ専門家っぽく整理していく。
これは固有の特性や元の複雑な現象を単純な情報に置き換えてしまっていることにもなり、
その過程において、肝心なものが削ぎ落とされていることが問題になります。
事例指導者(受検者)からすれば、
合格する手段として楽にショートカットできる術が上記の後者だと思ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。
それでは事例を過度に単純化しているということだけになります。
このように、事例記録のつかみ方によって、
よく反映していけば読み取りが難しくなり、
読み取りやすいように整理していけば事例のつかみどころに問題が残ります。
あちらを立てればこちらが立たずという関係ですね。
論述問題の考え方は、人それぞれだからこそ興味深く、
また、他者の考えから学ぶことができるという面白味があります。
それ自体が事例指導の面接実践であることに気付くことができると、
例えば、講座を受講するとかセミナーに参加するという意義、
そして人と対話を深めていく必要性がより深まるのではないかと思います。
試験における事例指導者(受検者)は、
試験会場という特別な環境に置かれ、
そして限られた時間内で事例をつかむことを強いられます。
すると上記の通り、
どちらかに偏った考えにとらわれがちになると思います。
特に事例指導を実践する側の立場では、
事例相談者や事例の評価ばかりに気が向きやすくなると思います。
それは問いが「問題は何か」を問うているからですね。
論述問題と向き合うときは、
事例記録から誰かの問題を探そうとしている自分自身に気付き、
それを制御できるように実践トレーニングをしてみると効果的だったりします。
最もらしいことをロジカルに解答用紙に記述したところで、
それが事例相談者が抱く感情面をも含んだ成長を図ることに繋がらなければ残念なことになりそうです。
事例相談者が持つ意欲、動機付け、自己決定等によって本人が発達し、
それが今後の相談者支援に効果的であること、
それをわかっていることが事例指導者として大事なのだと思います。