事例指導やスーパービジョンにおいて、
指導者側からキャリアコンサルタントに対して、
「クライエントのありたい姿を聞いていないじゃないか」
と問題となる現象を指摘することがあります。
少しそれますが、
クライエント側の視点から考えてみます。
以前も少しブログの記事にしたことです。
あるところで、
(先が見えないことが問題ではなく、ありたい姿がわからないことが問題だ)
とするメッセージを伺ったことがあります。
このメッセージ、
受け取る人によっては納得感があるかもしれません。
私が考えたことは、
それは強い人の考えにもなり得る。
そう言われると張ってみせるしかなくなる人もいるんです。
いや、追い込まれる人もいる、そして嘘をつかなければならなくなる等。
1級キャリアコンサルティング技能検定の実技試験においても、
こうした着眼点を当然のように活用していることがありますね。
キャリアコンサルタント同士で言い合っている。
(クラエイントのありたい姿を聞いてないよね)
例えば、
キャリアコンサルティングに限らず、
ひと昔前から、多くの業界で話題になっている
「Will」「Can」「Must」のフレームワーク。
もう古い…とかいう人もいますが。。。
古いとか新しいとか陳腐だとか斬新だとか、
そういうことではありませんね。
少しネガティブな表現をすると…
こうした何かのフレームワークに頼って人の納得感を惹きつけようとする。
説得力があり合理的で構造的だからこそ人を当てはめてしまうという難点が大いにある。
いつの時代でも自己〇〇的なプログラムにありがちな気がします。
時代毎に新たな興味深いキーワードに躍る感じ。
これでは軸もなく、
なんといっても柔軟性やしなやかさが得られない。
人としての根幹を磨きたいところです。
先ほどの一例ですが、
(ありたい姿)
という一見魅力的な表現にもなる言葉。
人によってはそれが酷な問いかけにもなり得るから注意が必要です。
どうありたいかがわからない。どうしたいのかわからない。
そうしたクライエントに、だから自己理解を深めよう、
自分が出来ることや求められていることを整理しよう。
それで本当に良いのでしょうか。
それが自己理解になるのか。
ありたい姿を考えていくこと自体が、
人によっては苦しいことにつながることがあるのです。
早めにキャリア教育を行う必要があるとか、
節目節目で自己のキャリアを考える機会をもつ…
どこか法則めいたことを押し付けることになっていないだろうかと
確認してみてほしいです。
クライエントが、
「何がしたいのかわからないのです」
と言葉にしたとします。
キャリアコンサルタントは
(何がしたいのかわからないことに悩んでいる人)
(やりたいことを見つけたい人)
と認識しがちです。
結果、その解決策として、
自己理解、環境理解、仕事理解等々を進めていこうとする。
非常にズレやすい見立てと方策になります。
クライエントが求めていることは
「やりたいことを見つけること」となるのか。
本当でしょうか。
そんなことは個々のクライエントに聴かなければわからないです。
私の業界では、例えばSEのスペシャリストがいます。
その人が私に
「人とのコミュニケーションは面倒臭い」
「人と調和を取るのは嫌だ」
と言っていたとします。
傾向を錯覚してしまうと、
SEとか職人は人付き合いが苦手な人が多い…
と結論付けることがあります。
そのように発言しているクライエントをわかろうとするには、
聞いた言葉をそのままそうなんだと受け取るのではなく、
そのように私に喋ってくれていることに関心を持つことだと思うのです。
どんな時にそう思うのか、
なぜそう語ってくれたのか、
そしてそう話している自分を今どう感じているのか、
いっぺんに聞くことはありませんが、
その人に真から関心をもっていれば色々知りたくなると思うのです。
すると、
「本当はこんな俺でも繋がってくれる人がいればいいと思うんだけど…」
とさっきまでとはまるで真逆の話をしてくれることもあるんですね。
先ほど書いたように、
やりたいことを見つけたいんですね?
とクライエントに問いかけて確認すると
「…はい…私にできること、
やりたいことが見つかれば…と思います」
とは反応することもあります。
そう答えるしかないということがあるです。
そう答えさせていることもある。
クライエントが言ったから…といって、
そのままキャリアコンサルタントが認識していたらどうでしょうか。
そして自己理解が必要だと一辺倒に考えてしまう。
どんどん話を進めようとしている。
キャリア形成支援にかかわっていれば、
自己理解の重要性は多くの方が認識していますが、
自己理解という表現や考えだけでは一体なんなのかわかりません。
人それぞれに異なります。
自分が何をしたいかわからないとき、
一人のときにどのような行動を起こすでしょう。
ネット検索をしてみる人は割と多い。
人生の先輩や何かの経験者等からのアドバイスが世の中に溢れていることがわかります。
まず自己理解から!!
やりたいことを見つけるためにも、
「Will」「Can」「Must」を整理しよう!!
随分と聞き覚えのあるフレーズばかりが揃います。
もちろん、
根拠がありそうした提示をなされている場合もあり、
またそれでうまくいく人もいます。
反面、うまくいかない人も存在するのが実際です。
切り口としてそこに持っていこうとする情報は結果が華やかな事例が多い。
クライエントが
「やりたいことがわからない」
「何がしたいのかわからない」
といった状態にあるとき、
私たちキャリアコンサルタントが大事にしたいことは、
目の前のそのクライエントは、
《本当にやりたいことを見つけたいとその人は感じているのか》
とキャリアコンサルタントが一度立ち止まってみることではないかと思います。
どうありたいかがわからない…
と言葉にしているだけに過ぎないこともあり、
またそのような表現しか見つからないだけかもしれない。
ありたい姿がわからないと言い換えているだけということが大いにあります。
”来談してそのように語っている自分のことをその人はどう感じているのか”
これが目の前の人を純粋に感じることにもつながる気がします。
キャリアコンサルタント自身が、
ありたい自分探しが大事と勝手な解釈をしていると、
クライエントの相談の本質的なところを掴めないままになるでしょう。
さて、本題です。
冒頭に記したことに戻ります。
ここまで記事にしてきた視点を織り込んで考えると、
事例相談者(キャリアコンサルタント)に向かって、
(あなたはクライエントのありたい姿を聞いていない)
という指摘自体がおかしくなりそうですね。
事例指導者が事例相談者のケースについて、
どう進めていけば良さそうか…
事例相談者の対応の問題がなんなのか…
という視点ばかりが優先していると、
結局、そうした結論しか出てこなくなりそうです。
それはなぜか。
事例相談者が提供してくれるケースをちょっと想像してください。
何かしら気になるから持ってくるケースが多い。
基本的態度、姿勢、関係構築、問題把握、目標設定、共有、方策の提案と実行、振り返り等々の一通りの面接過程の中で、
どの過程においても、決して満点はないでしょう。
これは誰でもですね。
それを他人が観察すれば、
どの過程においても大なり小なり問題点としてみることができてしまう。
※全てのキャリアコンサルティング面談に、
より良い面談を目指すことができる余地が必ずあるということです。
すると概ね、
事例相談者のケースについて、より良い面談にしようとした視点で考えれば、
関係構築の面で傾聴力(例えば感情面)の質を高めることや、
問題把握力のところで問題の共有と核心を掴む力、
目標の明確化くらいまでの中で課題を絞り込んでいくことになりそうですね。
あとは環境への働きかけやネットワークについての課題等もあるでしょう。
それらの悪い点を、
どこかしら説得力を持って指摘することは必ずできるということになりますね。
これが事例指導なのでしょうか。
事例指導者が事例相談者に対して、
(あなたはどんなキャリアコンサルタントでありたいですか?)
(どんな心得でキャリアコンサルタントの活動を行っているのですか?)
みたいな質問をする。
一見、事例相談者を知ろうとしているように見えるかもしれません。
違う見方をすると、
事例指導者自身に「キャリア支援者はこうあるべき」的な姿が、
自分の中に固着しているともいえます。
こうした働きかけをベースにして、
(あなたは最初にこんな支援者でありたいと言いましたね)
と逃げられないようにし、そうなってないじゃないかと指摘する。
こんな鋭い指導もあります。
クライエントとキャリアコンサルティングを行うとき、
そして、
事例相談者と事例指導の面接を行うとき、
「ありたい姿」というどこか美しくもある言葉を、
軽々しく発してしまうことは、
相談を受ける側のある意味傲慢な側面にもなるのかもしれません。
クライエントが
「何がしたいのかわからない」
と悩んでいる人だった場合、
人それぞれに全てその意味が異なり、
また、その人の言葉の背景にあるその人の何かを知ることはとても大事だと思います。
事例指導でも、
例えばキャリアコンサルタントがクライエントに対して
「ありたい姿」を描く必要があると考えているのであれば、
そう考え、そう信じているキャリアコンサルタントのバックグラウンドをしっかりと理解することが大事です。
その前に、事例指導者自身が、
人は「ありたい姿」を持つこと「セルフイメージを明確化」することが大事、
そう頑なに信じていいたとすれば、
それはまたスーパービジョンのスーパービジョンを受講した方がよさそうですね。
1級の試験等でも何か役立てば嬉しく思います。