「語用論的能力」について少し触れてみます。

 

私たちキャリアコンサルタントは前後の様々な状況等から、

色々な言葉を選択して相手に伝えています。

 

リアルな面談時であれば、

その時々の表情、そして会話の間合いや空気感、タイミング等によるもので、

言葉の意味が理解できたりするものですが、

事例記録のように、それを他者が文字化した場合、

こちらから読んだときの文字の意味と言外の意味とが違う場合があります。

 

一例を挙げてみると、

 

相談者の発言として

「仕事に就きたい」

と記述し、

 

それに対して事例相談者は

(視野を広げる)

とした記述をしていたとします。

 

この時点で私たちは、

事例相談者の考えがある程度推測できますよね。

 

『この事例相談者は相談者が仕事を探すためには視野が狭いことが問題だと考えている』

 

こんな風にイメージします。

 

この事例相談者は相談者の仕事に就きたい思いを受け、

仕事に就けるようにするために視野を広げるとしているのです。

 

この時、

そのまま文字通りに解釈してしまうことでよさそうでしょうか。

 

例えば、


この事例相談者は、この相談者が仕事に就くためには、

もう少し先々のキャリアプランを明確化した方が良いと考えているのかもしれませんし、

相談者自身の経験値をリスト化するなりして自分のことをわかることが有益だと考えているのかもしれない、

そうすることで主体的に自信を持って物事を考えられるようになるのかもしれない、

色々な意味合いが背景にあるのかもしれません。

 

だからこそ、

事例記録を読む時は、前後の文脈や状況等の分析が必要になります。

 

視点を変えてみると、


(相談者の視野が狭い)


という事例相談者が持つ問題視点が事例から読み取れたとすれば、

 

果たして視野が狭いということを問題として良いのだろうか…


と指導者として考えてみることも大事です。

 

そもそも視野が狭いことが問題なのでしょうか。

なぜ視野を広げる必要があるのでしょう。

 

1、改めて自分が得意と思っている業界の魅力に気づくかもしれない

 

2、他に関わりたい業界があるのかもしれない、見つかるのかもしれない

 

3、人生一度きりだしこれまでやったことのないことに思い切って挑戦できるのかもしれない

 

等々。


キリがないほどに挙げられると思います。

 

事例相談者には専門家として色んな支援目的があり、

そのように発したのかもしれないことがわかります。

 

これを、

私たち事例指導者が事例相談者の事例記録を読んで、


<相談者がこだわっているのに「視野を広げて」と伝えていること自体、ズレてしまっている>


と問題視してしまうことが、

それこそ如何にズレてしまっているのか…

 

ここに気がつくのではないでしょうか。

 

問題を上手に表現できることで問題は概ね解決している

 

といわれます。

 

論述過去問等でこうした練習を重ねていくことが、

事例指導の面接の質を上げてくことにもつながるのではないでしょうか。