私は、講座の中で
「目の前の事例相談者をわかろうとすること」
とよく受講者の方へお話しをします。
そうしたお話しをしながら、
常に自身へも言い聞かせているわけですが、
改めて、
他者のことを理解することの奥深さを書いてみたいと思います。
1級キャリアコンサルティング技能検定試験においても、
事例指導面接のロールプレイ場面や口頭試問でお役に立つかと思います。
記事の内容がしっくり来る方は取り入れてみてください。
先ず、事例相談者のことを理解しようと意識すればするほど理解が難しくなります。
これは相談者(クライエント)の相談をお聴きするときもその難しさに毎回直面します。
他者のこれまでの体験等と自分の体験等は異なるわけで、
他者の経験等から生まれる思考や感情等は、
いくら理解できたように感じても自分にとって都合の良い推測に過ぎません。
かといって全く理解できないかといえば、
そんなことはないかと思うのです。
一般の人がコミュニケーションの中で無意識におこなっている他者への理解の仕方と、
私たち専門職が意識的に行う相談者・事例相談者への理解の仕方とは随分と異なります。
キャリアコンサルティングは、
相談者の望ましい生き方を相談者自身が主体的に見出しつつ、
そこに向けた目標を描き、課題を一つひとつクリアしていくための側面的支援を能動的に行うことになります。
また事例指導は、
事例相談者が、
相談者へのキャリアコンサルティングについて、
例えば、
《うまくいかなかった…》
《どうすれば良かったのか》
など、自己の面談への反省的振り返りをしながら問題を抱えてやって来るわけで、
事例相談者がキャリアコンサルタントとして望ましい成長のあり方などを事例相談者自身で見出し、
自律的にそこに向けた目標を立て、
本人が課題をクリアしていくための側面的支援を事例指導者がしていきます。
他者を援助、支援していく際に必要なことは、
その人自身の精神的、心理的なものを受け止めながら、共感していくステップは当然に必須であり、
その人を理解しようと、わかろうとする姿勢がなければ信頼関係など構築できないわけです。
ですから、
完全に理解することが不可能だとしても、
相談を受ける側が、面接の間、終始相手を尊重してわかろうとする姿勢が備わっていること、
それが関係構築をより深めていくことにつながるのではないでしょうか。
事例指導面接にはその点の必要性がとても顕著にあらわれてきますし、
仮に事例相談者が相談者に対してそうした点が出来ていない時でも、
事例指導者は自分が巻き込まれてシンクロしないように気をつけることです。
例えば、
事例相談者が問題を抱えている相談者にフォーカスできていない、それが問題だと仮定します。
そして、
事例指導者はその点ばかりにフォーカスして事例相談者に気づかせようとしたとします。
これでは問題視点がシンクロしています。
相談者(クライエント)と事例相談者(キャリアコンサルタント)との間ですれ違っている。
それを指摘する事例指導者も指導面接で、
事例相談者と事例指導者との間ですれ違っている。
これではグルグル回りますよね。
事例指導者は事例相談者をわかろうとすることです。
何故、
そこでその点をクライエントの問題だとフォーカスしたのか、
その視点がどうクライエントの幸せに役立つのか、
どのように考え行動したのか、
わかろうとするのです。
完全なる理解は難しい。
でも専門家同士だからこそ、
事例相談者がやろうとしたことの経緯をしっかりとわかろうとする姿勢があることは、
事例相談者にとって安心を感じるかと思います。
関係構築がある程度強固なものになって、
はじめて次のステップにも進めるのかもしれません。
《あれはできた》
《それはこうしました》
《そこは私はこう考えたからこうした》
何を気づかせようと聞いたところで、普通は大抵考えがあるものです。
また防衛的になればなるほど、
やっていなかったと否定されたくなくなるので、
嘘でもそれはやりましたと言うかもしれません。
そうした互いの関係性に何も前向きな学びは生まれません。
できているところ、
その人の考えがしっかりと反映しているところをわかろうとしていく、
そして全体的な方針が概ね理解できれば、
事例相談者が問題としているどうして良いのかわからない点を明確化していけるように、
同じ視界で、その人のできているところからでも他のやり方などに気づけるような働きかけもありかと思うのです。
いくらできていても、
他のやり方もあることを、今度は事例相談者がわかろうとできるようにかかわっていくことで、
事例相談者が多面的視点を持つようになります。
そうすれば
「ここでこうしても良かったかな…」
と柔軟な対応を考えることができます。
結果、相談者の主訴に近いところへ、
そうしたワークをガイドしていくことで、
より良い面談を視野に入れて、他のやり方や修正したいポイントなどに気づけるようになります。
事例相談者が主体的にそう考えられることは成長なのです。
相手をわかろうとするということは、
そうしたプロセスの中で、とても重要且つ根底になるポイントではないでしょうか。
非常に奥深いものかと思うのです。