事例指導の面談の中で、

事例相談者(キャリアコンサルタント)の出来ていないところが明確だった場合、

その問題をどうすれば本人に気づかせられるのか?

 

例えば、

《クライエントの気持ちを全く受け止めていない》

《価値観をクライエントにおしつけている》

《関係構築が壊れてしまっていてクライエントが戸惑っている》

《結局、傾聴が出来ていないから問題把握も目標設定もずれてしまっている》

等々。

こうしたことに事例相談者が気づいていない…

 

だからそれを気づかせたい。

 

実践での事例指導面接でも、

1級キャリアコンサルティング技能検定の実技面接試験でも、

事例相談者に問題を気づかせたい時、

どうすればいいのか…

 

このように悩んでいる方が多いと思います。

 

今日は、

そんな疑問が少しでも晴れていくヒントにつながればと考え、

この記事を書くことにしました。


良くお聞きするお話に、

《指導者なんだから!こうしなきゃならない》

《事例指導者となるもの何か特別な専門職の色がないといけない》

《事例指導者なんだから模範になる知識やスキル、実力を見せていかなければ》

というような内容があります。

 

人のお考えはそれぞれで良いのではないかと思いますが、

それがキャリアコンサルタントとしてスタンダードな考え方かといえば私は全く異なると認識しています。

 

それこそ

「事例指導」「スーパービジョン」

について先入観を持ってしまっているのかもしれません。

 

事例指導には当然色んなやり方がありますが、

中でも基本に忠実で普遍的なモデルは、

キャリアコンサルティング面談過程が根底にあると思います。

 

事例指導において事例相談者に対して、

事例指導者の専門性や実力を感じさせなければならないなどということは本来の目的から大きく外れています。

 

事例指導の最終的な目的は、

「事例相談者がキャリアコンサルタントとして自らの問題に気づき向き合える力」を身に付け永続的に養うことが出来ることになります。

 

だからこそ、

事例指導者は事例相談者を聴くこと、

理解しようと努力することが最優先になり、

《指導なのだから具体的なアドバイスや指摘をしなければ物足りない》

と考えるのは事例指導者側の傲慢な考えにもなるのかと私は感じます。

 

勿論、

事例相談者は《どうしたらいいのかわからない》わけですから、

事例指導者に依存して答えを求めてくることも多いでしょう。

 

しかし、

クライエントに会ったこともない事例指導者が、

事例相談者のバイアスがかかった事例説明内容を鵜呑みにして、

実際のクライエントへの支援方法などを想像だけで評価したり、指示したりすることはあり得ないと思います。

 

『事例相談者が自分の事例を通じて自分の問題に向き合っていこうとする』

 

事例指導者はこうした場づくりを事例相談者に提供出来ることが重要でしょう。

この対話は出会いから始まっています。

 

しかし、

事例相談者が避けていたり、認めたくないようなこと、何となく感じていたことなど、

事例を振り返りながら表面化していくことを受け入れたくないことだってあります。

 

その時点で事例指導者からひとつひとつの事柄や状況などを否定されたり、

詰問されるような場には安心安全を感じません。

 

事例指導者のその視点がいくら的確だったとしても受け入れられないのです。

 

これは自分が本当に事例相談者として事例指導を受けていなければなかなか理解ができないかもしれませんが、

カウンセリングの原点ともいえますので

「無条件の肯定」について基本を見直してみるのも意外と自己発見につながるのかなと思います。

 

事例相談者に成りきるというのは実の経験をしないと難しいかもしれません。

 

要は、事例相談者はキャリアコンサルタントとしてクライエント支援を真剣に行い、

やれることを自分で良いと思ってやっているのです。

 

しかしながら、

 

(想定外の結果となってしまった。)

(想像はしていたが、では、これ以上どうすればいいのかがわからない。)

 

だから何が悪いかわからないし混乱しています。

 

若しくは、

もっと良いやり方があるなら教えて欲しいと自己防衛機能が働いているのです。

 

事例相談者はキャリアコンサルタントであり普通の人でもあります。

事例指導者だって同じですね。

 

ただ、事例指導セッションが成り立つのは、

キャリアコンサルタントは普通の人といっても専門職であり、人間関係を築くうえでの最低限の能力は非常に高い確率で持っています。

※もともとその能力がない場合はキャリアコンサルタントになっていなかったり、事例指導の契約が結べないことになるでしょう。

 

また、前述のように事例指導の最終的な目的は、

「自らの問題に気づき向き合える力」を身に付けることになりますので、

事例相談者にキャリアコンサルタントとしてのセルフイメージが出来ていることが大切です。

 

※他人に言えないイメージでも自分の中だけでは持っていることも多いのです。

→ですから、いきなり人間関係が出来ていない人から「どんなキャリアコンサルタントになりたいですか?」等と聞かれると流石に戸惑います。

 

これらのことを十分に配慮できる事例指導者にアシストされていくことで、

その対話等から、事例相談者は自分の感情や認知について考える力を働かせ、

また、問題意識を持ち「どうすればよさそうか」などを検討出来る前向きなセッションが確立していきます。

 

本題に戻りますが、

事例指導者が「気づかせたい」とする気持ち、

事例指導者が「問題を指摘したい気持ち、見立てや手立てを否定したい」とする気持ち、

こうしたものが出てきてしまうのは人として専門家として当然だと思います。

 

それはそう思うなと言われても思ってしまいます。

そんな時は是非、この記事を思い出してほしいと思います。

 

その感情は「事例相談者の前では自分の中で抱いておくこと」です。

※これは私のやり方なので、合わない方は絶対に無理をしないでください。

 

とにかく、

事例相談者がクライエントに対してキャリアコンサルティングを提供している事実があるのですから、

事例相談者がクライエントにしたこと、これからしようと考えていたこと、

これらを事例相談者の認知、感情、行動を踏まえ、理解しようとひたすら努めてみましょう。

 

そして事例相談者がこのケースの中でやろうとしたことまでが全てわかったら、

その結果が思い通りにいかなかった時の気持ち、どんな想いがあるのか理解していきましょう。

 

そうした対話を通して人間関係が深まれば、二人の学習同盟が結ばれ、

「どこをどうすれば事例相談者の方針が少しでも良い方向に向かったのか」

「そうすることでクライエントにとってどんな支援になったのだろうか」

このように事例相談者のやり方を主体にして検討が出来ます。

 

初回セッションでは、

「より良い面談を目指す」

ことを小ステップにすれば、その後、今後の育成目標も立てられます。

 

先ずは、今のケースを通じて、

はじめの半歩でも一歩でも事例相談者の「より良い面談」が実現出来そうか、

事例相談者が気づく範囲でアシストしていきましょう。

 

事例指導者の準拠枠で気づかせたいと思ったときは、

少し苦しいけれど、事例相談者の前ではその想いを自分の中に抱きましょう。

 

どうしてもどうしても吐き出したかったら、

試験官の先生に口頭試問の場で自分の見立てをはっきり言えば良いのではないでしょうか。

※ただ自分の考えを伝えるだけにとどまらず、その視点を事例相談者の前で示さなかった理由も指導者の考えとして伝えると良いかもしれませんね。


事例相談者が今の能力の中で、

出来そうな範囲で努力することで実現できる何か。


その気づきでも、

事例相談者がやる気になって現場で実行していくことで、

近いうちには事例指導者が気づかせたい問題の本質の気づきにつながっていくのではないでしょうか。


スモールステップが近道だったりするものです。