床屋さんの看板で、青と赤の線がクルクルと回っているのを皆さん見かけるでしょうし、おそらく多くの方々がその意味を既に知っているでしょうが、念のためその意味をお伝えすると、その昔まだ医療が発達していなかった頃、外科的手術は床屋さんが行っていたので、その名残として動脈(赤)と静脈(青)が床屋さんのサインとして使われているのです。
その床屋さんで必要不可欠なのがハサミで、僕はクリニック近所の美容師さんに散髪して貰いますが、担当美容師さんもハサミをとても大切にしていて、一本10万円ほどのハサミを自腹で購入し、それを定期的に研ぎに出しながら一生そのハサミを使用するとのこと(O_O)
そして僕の治療で毎回使用するのも”剥離剪刀”と呼ぶ手術用ハサミですが、外科医の治療経験・技術が何より大切なのは勿論のこと、信頼おける治療道具で治療することも結果の良し足に密接に関わる最重要事項の一つです。
刃物は専門職で重要なばかりでなく、一般人の生活にも欠かせませんが、ここで刃物の歴史について少し調べてみると、刃物は約6,000年前から狩猟や農耕で刃物を使い始め、紀元前1,400年頃から本格的に鉄を刃物に使用し、こういった鉄製刃物は武器・工具・利器として、ギリシャ・エジプト・中国など世界各国に広まったようです。
ハサミが日本に伝来したのは6世紀頃で、奈良県の古墳から”握りハサミ”が出土されており、その後ハサミは鎌倉時代を通して日本独自のハサミが発達したようですが、16世紀半ばの戦国時代になると、ヨーロッパ人が頻繁に日本を訪れるようになり、その際ヨーロッパ製ハサミが持ち込まれ、それは”洋バサミ”として発達したようです。
そして美濃の国(今の岐阜県関市)はドイツのゾーリンゲン、英国のシェフィールドと並ぶ世界三大刃物産地となり、特に日本の刀鍛冶職人の技術は高く評価されていて、日本の刃物を求めて世界からお客さんがやって来るようです(^○^)
ところが手術道具となると、日本製ハサミへの僕の評価は決して世界トップクラスとは言えないので、僕の治療ではドイツ製ハサミを使用していますが、そのドイツ製ハサミは日本製のものより値段は10倍近くするものの、その切れ味と信頼(安定)感を考慮するとドイツ製ハサミ無しでは卓越した手術は成立しないでしょう(>_<)
そてにしても”日本の工業製品技術は世界トップクラスと誰しもが認めているのに、何故手術用ハサミの品質はそれほど高くないのだろう??”と僕はしばらく頭を悩めましたが、その理由は以下によると気づきました(^_^;
それは外科医療での手術器具のシェアはとても狭く、シェアを確保しなければ、たとえどんなに良い製品を作っったとしても会社の利益にならない、もしくは採算が合わないからです。。
つまり、手術用ハサミ製造で利益を得るには世界シェアを獲得する必要がありますが、医学歴史上、日本はドイツ・米国に遙かに先を越され、特にドイツが手術器具シェアをすでに獲得していたので日本が新規参入する余地が無かったため、日本の手術器具は正直採算の合う、つきなみなハサミ製造しているに過ぎないのでしょう。。
ただ僕のようにドイツ製ハサミの高い価値に傾倒してしまうと、ハサミ以外にもドイツ製品を何でも信じる”ドイツ贔屓”になっているので、まだ保有したり運転したことはありませんが、ドイツ製メルセデス・ベンツもさぞかし良い車だろうと信じ切っています(^_^;
このようにハサミ一本の出来具合でその国の信頼度に多大な影響を及ぼことを鑑みれば、日本の手術器具メーカーさんも、多少採算が合わなくても是非優れたハサミを作って頂きたいと僕は常々思っています(^_^)