タイトルは重いが、そんなことはない。たまには、甘ーい恋の話をしましょう。

 

これは、かつて、ある年上の女性から聞いた話である。

 

彼女がまだ若く、独身だったころ、同僚の男性からメモを渡された。

仕事の打ち合わせをしたいということで、待ち合わせ場所や時刻などの事務的な内容だったのだが、最後にこう書かれていた。

「もし、待ち合わせに遅れて来た場合は、僕の恋人になること。

僕の時計はときどき進むので、気をつけて下さい。」

 

彼女は、普通に「いい人」だと思っていたその男性からのそのメモに、心底びっくりしたという。

まあ、男性にしてみたら「いい人」から脱却するべく、勝負に出たのであろう。

 

彼女は待ち合わせに間に合ったのか、それともわざと遅れたのか、男性の時計は進んだのか。その辺の詳細は聞き漏らしたが、男性は勝負に勝った。二人はその後結婚したのである。

子供も作ったが、男性はその子が子供を産むより前、孫の顔を見ることなく早逝した。つまり、未亡人となった女性が、ちょっと恥ずかしそうに私に話してくれた、ニ人の恋のなれ初めというわけだ。

 

実は、この女性は、私の母である。