第143回直木賞、芥川賞候補が7月1日に発表された。
 
第143回 直木賞候補
 平成22年/2010年上半期
 (平成22年/2010年7月15日決定発表)
候補乾 ルカ『あの日にかえりたい』平成22年/2010年5月・実業之日本社刊
 
冲方 丁『天地明察』平成21年/2009年11月・角川書店刊
 
中島京子『小さいおうち』平成22年/2010年5月・文藝春秋刊
 
姫野カオルコ『リアル・シンデレラ』平成22年/2010年3月・光文社刊
 
万城目 学『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』平成22年/2010年1月・筑摩書房/ちくまプリマー新書
 
道尾秀介『光媒の花』平成22年/2010年3月・集英社刊
第143回 芥川賞候補
 平成22年/2010年上半期
 (平成22年/2010年7月15日決定発表)
候補赤染晶子「乙女の密告」『新潮』平成22年/2010年6月号
 
鹿島田真希「その暁のぬるさ」『すばる』平成22年/2010年4月号
 
柴崎友香「ハルツームにわたしはいない」『新潮』平成22年/2010年6月号
 
シリン・ネザマフィ「拍動」『文學界』平成22年/2010年6月号
 
広小路尚祈「うちに帰ろう」『文學界』平成22年/2010年4月号
 
穂田川洋山「自由高さH」『文學界』平成22年/2010年6月号
 
 

s-天地 沖方丁/著「天地明察」を読み終えた。
 2010年 本屋大賞1位だけあった。
 作品は、渋川春海というのは実在の人物で、この物語も事実を基にされている。
 出会いと、旅立ちと、苦難と、挫折。幕府で碁打ちを務めながら、武士でもなく何かの専門家でもない、自分という存在が定まらない生き方をしている春海は、茫漠とした人生に迷っていた。そんな彼に訪れた、出会い! 数々の算術問題を一瞥即解してしまう「関」という謎の人物。彼らのお陰で春海には目標ができた。それが人生をかけた一大事業へと彼を導いて行く。
 実のところ暦のことはよく知らなかった。 
 舞台となる江戸時代初期には宣明暦という中国暦が用いられていたが、800年以上使用されることによって誤差が生じ、2日もずれてしまっていた。これは中国と日本とには経度の違いがあるためだった。渋川春海の作った大和暦=貞享暦はその誤差を修正したものなのだ。これは日本人は作り出した初めての和暦となる。
 暦を変えるということはそうそう簡単なものではない。現代と違って昔の日本では暦は儀式的な意味合いを持ち、行事や吉凶に関わりのあるものだった。それを新しいものに変えようというのだから、難しいのは明らか。800年以上使われ続けた暦を間違っているものとして捨て、新しい暦を採用する……今でも何かを古いものから新しいものに変えるというのは難しいことなのに、それが江戸時代となると、その苦労は想像を絶するものだっただろう。 
 春海が改暦に挑む中、この世を去って行く人々……妻や師、測量を共にした仲間……そんな悲しみを乗り越えて、描かれる彼の偉業はすばらしかった。ドラマチックだった。

 

s-神去三浦しをん/著「神去なあなあ日常
」を読み終えた。
面白かった。主人公は平野勇気、横浜の高校を卒業したばかりだ。勉強は「全然好きじゃない」から大学に行くつもりはない、「人生決まっちゃうのかと思うと暗い気持ちになる」ので、就職するのは気が進まない。やりたいことがあるわけでもない。
 「甘ったれんじゃねぇ!」と一喝してやりたいようなヤツだけれど、担任の先生はそんな勇気の就職先を決めてきてくれた。「緑の雇用」という国の助成制度を利用して、神去村という三重県の奈良県との県境の山奥の森林組合で林業に従事することに..
 勇気が行った神去村の神去地区は住民が百人ぐらい。おしゃれなお店や娯楽施設があるわけはなく、郵便局も学校さえもない。もちろんケータイは「圏外」。こんなところの暮らしに、18才の青年にそうそう耐えられるはずがない。ところが、物語は1年後の勇気のひとり語りから始まる。

 物語が持つ雰囲気が瑞々しい。それは、林業という過酷な現場ではあっても、自然と一体となった神去の人々の暮らしが力強く活き活きしているからだ。山の神様を敬い神事を大事にした暮らし。神を身近に感じる出来事も多い。
 登場人物たちも抜群に素敵だ。勇気が居候している家のヨキは、野うさぎをタックルして捕まえ、川の大岩を動かして即席のプールを作ってしまう野生児ながら、厳しく温かく勇気を指導する。読んでいて思わず吹き出してしまう部分は、まずヨキが関わっている。
 勇気とヨキと一緒に働く「中村林業」の若い社長の清一も巌さんも三郎じいさんも、みんなおおらかで年齢とは関係なく若々しい。ヨキの奥さんのみきと、清一の奥さんの祐子と、隣の地区にある学校の先生と、若い女性がみんな美人なのはお愛嬌だ。勇気が神去村に溶け込み、居場所を見つけたように思われる。神去村を愛するようになった。