マトンキーマ
ココナッツの野菜

店は玉川上水に沿った細い道路に面している。
玉川上水は、まだ夕暮れには早く、沈む前に明るさを増す午後3時の日差しとは対照的に暗かった。深い溝の底には水が流れていた。それは不気味でもあり、希望のようでもあった。何か、運ばれていた。

店の中では、古いナショナルのラジオをスピーカーにして、60年代のロックミュージックが流れていた。とてもふくよかな音だった。
古いヘフナーのベースは今でも古い音がするから、この時代には実際に今とは違う音が鳴っていたのかもしれない。今では高音はぎらっとして耳に痛く、低音は内臓を揺るがす。それはSNSと同じで、意味のある情報が少ないともいえるし、生死が拮抗せず、モルティドーが勝っているともいえる。

刮目すべきカレーだった。
マトンキーマは、濃い羊とクローブ、マスタードシード。添えられたココナッツ、キャベツ、ししとう、よもぎのような和え物と合わさると、さっぱりとした苦みが加えられて、群を抜くおいしさになる。

ココナッツの野菜はケララ風ということだったけど、とてもクリーミーだった。学生だったとき、朝まで飲むか麻雀をしたあとで、二学年上の女性が作ってくれたカルボナーラを思い出した。生クリームを煮詰めていた。
これも隣の副菜と合わさるとすばらしかった。紫キャベツ、グレープフルーツのような柑橘の甘さと苦み、たくさんのコリアンダーホールがまったりとしたクリームに加わると、ほんとうにおいしかった。
米は、細かくなったバスマティライス。すこし塩が利いている。

立地からはダバクニタチとネゴンボを思い出したけど、また別の発達を遂げたカレーだった。