私の名前はりりちゃんである。インコのりりちゃんである。先日、カゴの上で、ぴよぴよ機嫌よく鳴いていると、大きい段ボールを玄関の方からえっちらほっちら運んで来た人間がいた。クルチである。口元に笑みを浮かべているように見える。床の上で、段ボールを手先とはさみを使ってごしごし開けると、息をつく暇もなく、黒い四角の物体を組み立てて、ミニコンポというものを部屋の窓際にしつらえた。その一連の様子を見ていたのだけど、私は尻込みして、カゴの一番後ろのほうに下がって遠くから見下ろしていた。

 

 私に向かって、不気味にニタっと笑って、

 「りりちゃん、いまからここからいい音が出ますよ、びっくりするんじゃないですか、もしかして」

 と言って、珍奇な恰好でリモコンのボタンをあれこれといじって、しごくモタついていた。

 唐突に、

 「つーらららー、つらららら・・・・・」

 と立派な弦が奏でる音が聞こえてきた。

 クルチが猿みたいなほてった顔を私に向けていた。

 クルチがスローで動いているようで、私は恐くなった。

 「ぎゃ」

 と一声発して、落ち着いてから。いい音かもしれないなと、神妙になった。

 

 そういうふうな能天気のクルチと暮らしているのであるけれど、私には執拗に嫌な癖があるようだ。

 私は日頃クルチを軽くいじめているのである。どういうふうにいじめているかというと。私がクルチの猫背の肩にぼんやりと立って、位置を占めているときに、

 「りりちゃん、そろそろ下りてくれませんか。もうそろそろ時間ですよ」

 クルチはつぶやいてくる。クルチの肩に乗ってかれこれ2時間は経っている。

 私は、頑として下りないのである。意地でも下りない。クルチが途方にくれ、手を差し出しても、犬のように体をぶるぶるふるわせても、あれこれ考えあぐねても、決して肩から下りない。隙あらば、私はクルチの坊主頭の上に乗ったりして、おどけてみる。

 クルチの頭の上に乗って、

 「きゃっきゃ、ぴろぴろろー」

 と大声でさえずったり、首を上下に動かしてノリに乗って踊ったりする。

 「ぴろぴろ」

 

 「りりちゃん、そろそろ、カゴに戻ってくれませんか」

 とクルチが猫なで声の優しい声で、呼びかけている。

 私は、そういうクルチが焦って、困ってる時間が好きなのであります。

 それから三十分ほどして、クルチがかわいそうになって、手からカゴの中に移った。しかし、どうも最近、イライラが止まらないようになってしまいました。これはどうやら発情というものでしょう。いっそう強く何かが込み上げてくるものがあるのです。

 

 「いたたた」

 クルチの手を、疑問に思いながらも、強く頻繁に噛んでしまう。そういう様子を見て、クルチは私がメスなんじゃないかと思い始めたよう。楽しくなったり、哀しくなったりもする。ああ、この雲の中の状態はいつまで続くのだろう。

 

 日が暮れて、部屋が暗くなったので、私は寝るとします。私たちインコは、棒につかまって静かに寝るのです。