スペルアウト(Spell out)してください | 旅はブロンプトンをつれて

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ブロンプトンを活用した旅の提案

「スペルアウト」といっても、英単語の綴り方を致命的に間違えて、(それはスペルミス=英語だとto misspell)、万事休すという事態のことを言っているわけではありません。

旅行会社では電話などで正確な綴りを伝えるために、「お手数ですが、スペルアウトしてもらえます?」ということをよくやります。

たとえば、国際航空券の予約番号が”rg80bn4”だったとします。

これを電話口で「あーるじーはちぜろびーえぬよん」と言ってもなかなか伝わりません。

とくに先方が非日本人などの場合、数字を英語に置き換えたところでまず無理でしょう。

私は海外に一人旅していた頃、何が恐怖かって現地における帰りの航空券予約の再確認、いわゆるリコンファーム(reconfirm)の電話が冷や汗ものでした。

子どもの頃から父の仕事の関係で、電話口に出たとたん英語などというのはざらでした。

以下こんな調子です。

「はい、もしもし○○でございます。」

(昭和の時代は個人情報保護に疎かったから、礼儀としてこちらの名前を名乗るのが普通でした。)

「…。」という間があって”Hello, Mr.××at home?”

そこで父がいれば黙って受話器を渡すのですが、大概はおりません。

そこで、「アイアムソーリー、ヒーイズアブセント」と答えようものならさあ大変、英語圏の人って大抵の場合それで引き下がってはくれません。

曰く「何時だったらいますか?」「あなた息子さん?」「英語が喋れるんだ!じゃぁお父さんに…」

全く英語が分からない小学生の自分にだって、だいたい相手が何を言わんとしているのかくらい見当がつきます。

しかし、そうした多彩な質問に柔軟に答える資質などありません。

だから「アイアムソーリー、アイキャンスピークイングリッシュ」と言って慌てて電話を切るのですが、向こうは明らかに”You're speaking English right now!”(英語喋れないって、今喋ってんじゃんよ)と言いたげなのが伝わってきます。

仕方がないので日本語で「ごめんなさい、英語話せないんです」というと、なぜか相手が納得します。

言葉って、テクニック(話術)じゃなくて心なんだなと、子ども心に感じたものです。


でもこれって海外一人旅ではあるあるなことで、ある時英語の通じない中国の地方部で、急いでいる英語圏の人が腕時計を指さしながら、「ノーターイム!アイハブノータァーイム!”No time! I have no time!”と叫んでいるのを受けて、さすがに慢慢的(マンマンディ=のんびり屋さん)の中国人もしぶしぶタクシーのドアを開けるのをみて、「なるほど、いざというときは母国語の方が通じるのだな」と知り、さっそく実践してみました。

フランスでどうも複数人から後をつけられているなと感じた時、わざと歩く速度を速めたり、遅くしたり、急に戻ったりと、ちゃんと気が付いているよと伝えているのに、一向に後をつけるのをやめません。

仕方ないと思いつつ、ある程度距離が縮まるのを確認してから、角を曲がって振り向きざまに「コラァー!何か用があるのか!」と叫んだら一目散に逃げる3人の移民と思しきこどもたち。

おそらくはカメラかバッグをひったくるか置き引きしようとしていたのでしょうね。

でもそんなときに英語で”Hey!”なんて出てきません。

なお、この場合は相手を見てからの方が良いでしょう。

がたいの良い男性3人なら、何語を叫ぼうが羽交い絞めにされてしまいます。

こんな私ですから、自分から電話をかけて丁寧に英会話をするなんて、心臓バクバクものでした。
”Hello, this is ~Airlines ~speaking can I help you? ”(お電話ありがとうございます。~航空~が承ります。)
”Hello, I would lile to reconfirm of my reservation.”(こんにちは、予約の再確認がしたいのですが。)

”Sure. May I have your name please?”(かしこまりました。お名前をいただけますか。)

"My name is~"(はい、私は~と申します。)

"Could you spell out your name Sir?"(綴りを教えていただけますか?)

ここまできて、一音ずつ区切りながら、彷徨老馬が名前なら、「エイチ、オー、ユー、ケイ、オー、ユー・・・」とやるわけです。

しかし私の名前は綴りの関係から決して正確には発音してもらえませんでした。

でも、これ予約番号(航空券の場合は”Reference Number” 略して「リファレンス」でも通じます)を言えば、向こうの端末に全部情報がでているから、一発で確認できます。

そこで冒頭の話に戻るのです。

こんなとき、旅行業界ではフォネティックコード(Phonetic alphabet=表音アルファベット)というものを使います。

すなわち、AはAble、BはBakerというように、それぞれのアルファベットを簡単な単語で表すのです。

たとえば上記の”rg80bn4”という予約番号なら、”I have a reference.”(予約番号を申し上げます)と断ったうえで、Roger-George-Eight-Zero-Baker-Nancy-Four(日本語なら数字のところは「数字のX」と日本語で言います)と伝えれば、相手はそれにあわせてキーボードを叩くというものです。

日本の旅行業界で使われるフォネティックコードは、以下の通りです。

A    エイブル    Able    

B    ベーカー    Baker
C    チャーリー    Charlie

D    ドッグ    Dog
E    イージー    Easy
F    フォックス    Fox
G    ジョージ    George
H    ハウ    How
I    アイテム    Item
J    ジャック    Jack
K    キング    King
L    ラブ    Love

M    マイク    Mike
N    ナンシー    Nancy
O    オーバー    Over
P    ピーター    Peter
Q    クイーン    Queen
R    ロジャー    Roger
S    シュガー    Sugar
T    タイガー    Tiger
U    アンクル    Uncle
V    ビクトリー    Victory
W    ウィスキー    Whiskey
X    エックスレイ    X-ray
Y    ヨーク    York
Z    ゼブラ    Zebra

一方、国際的に使われるフォネティックコードは、NATOフォネティック(NATO phonetic alphabet)と呼ばれるもので、ICAO(国際民間航空機関)等が定めたものです。

上記と一部同じだけれど、大半は違うので、海外との電話でのやり取りはこちらを使います。

A    Alfa 
B    Bravo
C    Charlie 
D    Delta  
E    Echo 

…(「NATOフォネティックコード」で検索すれば出てきます)

そのほかに、国内旅行、ホテル業界で使われるフォネティックコードがあるのですが、こちらは国名や都市名だらけで国際航空業界では全く通用しません。

A    アメリカ America

B    ボンベイ Bombay

C    チャイナ China

D    デンマーク Denmark

E    イングランド England

…こんな調子ですからね。

私も上記2つのコードを暗記して、国際電話や仕事中現地で空港事務所に電話したりして普通に使うようになって、かつてドキドキしながらホテルの部屋や公衆電話からリコンファームの電話をかけていた自分から、ずい分と業界馴れしたなと思ったものです。

知らない人が聞いたら、暗号の乱数表でも読んでいるのかという感じですからね。

でも、海外の支店の人と電話で話して、仕事で現地に行って会った時、「あなたが○○さんですか、お会いできて光栄です」と言われた時に、だいたい「電話ではもっとお年を召されていると思っていたのに、ずい分とお若い方ですね」と言われてしまうのは、国内外を問わないのでした。

日本語でいえば、「漢字ではお名前をどう書きますか?」と訊くのと同じですが、正しい名前の綴りを知ろうとしているのは(個人情報がどうのこうのという以前に)、アルファベットの綴りがパスポートと一文字違っても、飛行機には乗れないからです。

国外の人からみたら、日本人の名前の綴りは難しいように、日本人からして海外の方のお名前の綴りもまた謎ですから、正確に聞くためにもスペルアウトは必要なのです。

お子さんに将来沢山旅をして色々な国の方と知己を得て欲しいと思ったら、あまり長い名前でなく、表音とアルファベットが乖離していない名前を付けた方がよいのかもしれません。