旧甲州街道の尺取虫旅を上野原で区切る | 旅はブロンプトンをつれて

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ブロンプトンを活用した旅の提案

尺取虫方式の旅をしていると、どこでその日の旅程を切り上げるかがしばしば問題になります。
たとえば、旧東海道の旅なら箱根の山の中、というに西坂において尺を区切ろうとすると、そこから自宅へ戻るのも、次回そこまで戻って再スタートを切るのも、交通の便が悪いだけに厄介になります。
だからなるべく箱根湯本まで詰めておいて、できれば三島まで一日で踏破したくなります。
しかし、箱根を一日で越えるというのは、現代人にとってけっこうしんどいので、自信のない人は元箱根や箱根町に泊まるか、そこで区切って2日に分けて越えるわけです。
しかし、その前段階として箱根を越える以前に夕方に箱根湯本に着くように、1日目を日本橋~保土ヶ谷、2日目を保土ヶ谷~平塚、3日目に平塚~箱根湯本と計画的に進まなければなりません。
つまり、「行けるところまで行って、疲れたら電車に乗って帰ればいいや」が通用するのは、平野部の人が住んでいる市街地に限るのです。


これを甲州街道に焼き直すとどうなるでしょう。
日本橋から新宿、府中、八王子を経て高尾くらいまでは、どこからでも帰れます。
しかし、小仏峠を越えてからは街道に沿っている中央本線も駅間が長くなり、街道のアップダウンも格段に増えます。
とくに、与瀬(相模湖駅)、吉野、関本(藤野駅)、上野原ときて、これまでの登り坂が市街地とは比較にならないほど急で長く、また場所によっては熊やヘビが出るかもしれないような山道にはいってきましたので、走破(踏破)スピードが舗装路だけを走ってるようなペースよりも落ちてきます。
当然、次に電車の駅の近くに街道が出るのはどこだろうかという先読みをしなければ、山の中で日がとっぷりと暮れてしまうことになりかねません。
私は霊魂の存在は信じていても、幽霊のような出方はしないと考えているし、現代の日本には追いはぎや山賊はいないことを承知していますが、それでもライトの無い状態で山の中は危険だと思います。


ところで、甲州街道沿いにおいて、高尾から甲府盆地に抜けるまでの難所をいくつ想像できますか。
たとえば中央本線に乗っていると、この区間の長いトンネルは小仏トンネルと笹子トンネルです。
中央道を車で走ったりバスに乗って車窓から眺めてたりしていても、やはり両方のトンネルはほかと違い格段に長いものがあります。
しかし、実はもうひとつ、この区間には難所があります。
それが犬目峠です。
犬目ときいても、街道マニア以外はさっぱり分からないと思います。
私などは、甲州街道(国道20号線)の裏道として、旧甲州街道犬目峠は高校生の頃から越えていましたが、ふつうそちらに用事のない人は通りません。
しかし、国道20号線を走っていると、上野原から猿橋までの間はかなり隘路になっているとわかります。
きっとV字渓谷が続いていて、迂回させるより道を通す方法が無かったのかもしれません。
電車も、上野原から四方津、梁川と鳥沢までは駅前に広い道のない駅が続きます。
中央道でも分かります。
下り線を走って上野原インターを過ぎた後、談合坂サービスエリアまでの区間、長くてきつい登り坂が続くでしょう。
あそこが中央道の難所です。


つまり、上野原の市街から、3つ先の鳥沢駅前まで、旧甲州街道は鉄道とは離れた山の中で峠越えをするのです。
これが徒歩や折尾畳み自転車をつれて越えてみるとなると、細くて狭い、山道のような区間が多く、けっこう難儀します。
それにこの区間はバスも走っていませんので、旅を中断して帰宅しようと思ったら、鉄道駅まで走るほか、前回ご紹介したように、高速バスの停留所を利用して、そこから帰るしかありません。
それに東海道本線のように、横浜へ帰ってあとは東横線で帰宅という形には、旧甲州街道はなりません。
南武線や横浜線は、快速運転がされている昼間の方が、朝や夕方よりも格段に所要時間が短くなります。
だから夏など小仏峠を越えた後に、相模湖付近でゆっくり食事などをとってしまうと、ここ上野原で中断しようかどうか迷うのでした。


上野原という場所は、お住まいの方には申し訳ないのですが、中途半端な場所なのです。
山梨県には入っているのですが、大月のように富士山方面に向かうというロマンも無く、オートバイなどでここへ差し掛かると、甲府盆地や信州方面まで走るのが面倒くさくなって、右折して鶴川沿いの谷を遡り、鶴峠を越えて小菅村に出て、奥多摩湖経由で青梅に戻ってしまおうかと、よく悩む場所でした。
中央線の下り列車に乗っていても同様で、上野原は急行も停まらない、街から離れた谷間にある小さな駅で、山梨県には入ったものの、ここで下車しても何もないという場所でした。しかし、街道踏破の旅の場合は、どこで区切るか、区切るのなら、難所を前にした場所で早目に切り上げる方が身体にも優しいし、次回につながる旅になります。
そこで夏場の暑い時期や、冬のように日が短い時は、この先がんばって犬目峠を越えず、午後いちばんくらいでも、ここ上野原でいったん旅を終わりにしていました。


じっさい、旧甲州街道のある段丘上の市街地から、中央道上野原インターの出入口を横目に県道のつづら折りを下り、一番下までおりないで、途中上野原駅入口信号を右折して、上野原駅の旧市街側の出入り口にブロンプトンをつけます。
上野原駅の改札口は、桂川のレベルよりは高く、旧市街よりは低い、段丘の途中にあり、北側の入口にあたるこちらは、崖の中腹にある為か、送迎用の車が停車することしかできず、駐車スペースはありません。
駅前には河内屋さんと看板をあげた割烹旅館がありますが、果たして営業されているのかどうか。
お隣の見晴亭は、旅館を改造したコミュニティ&コワーキングスペースにリニューアルしているようです。
そのため、車を寄せる場合は桂川よりの、南側の出口を地元の人たちは利用しているようです。
こちらには駅の改札口のレベルから出口レベルまでエレベーターもついていて、駅前にはスーパーマーケットもあります。
ちょうど桜の開花時期で、桂川沿いには桜並木が駅から望めました。

実際に上野原から14時半過ぎの上り列車に乗って帰ったのですが、中途半端な時間ゆえに、高尾行きのこの列車にも座ることができ、高尾立川間も、立川からの南武線快速にも座って眠ることができました。
結局武蔵小杉に着いたのは15:49で、この時間なら家に帰ってからゆっくりして、早めに床に就くことができました。
そして2週間後、今度は武蔵中原4:43の始発に乗車して、立川、高尾乗り換えで6時ちょうどに上野原駅に到着しました。
こちらはガラガラなので、立たねばならない心配はありませんでしたが、陣馬山へ行く人は藤野駅、扇山へ行く人は鳥沢駅と、ポピュラーな山へ登山に行く人は上野原では下車しないので、電車から降りたのは私を含めて2人だけでした。
前回調べて分かっているので、南側、つまりエレベーターのある側のロータリーに面したトイレに入ります。
駅構内のトイレより、こちらの方がずっと新しくてきれいです。
それに、朝早くなので、他人を気にせずゆっくり用を足せます。


そこから朝一番の空気を吸いながら急坂をえっちらおっちら旧市街まで登りましたが、桂川対岸の山々が朝日に照らされて美しく見えましたし、これから旧甲州街道の犬目峠に登るにあたって、いい準備運動になりました。
このように、旧街道尺取虫の旅は、それをしていなかったらまず下車する機会の無い駅に、朝早くや昼過ぎなど、そこに住んででもいなければ利用しないであろう時間帯に利用することになります。
これって、上野原に住んでいるか、そこへ通勤や通学で通っている人たちと同じような鉄道利用をしていることになります。
これが、街道そのものだけではなく、沿道に暮らす人たちへの親しみにつながるわけで、マイカーで上野原を往復している人には絶対にわからない感覚だと思います。
こうした「半端な区切り」を敢えてするところにも、尺取虫方式の旅の良さはあると思います。