青春18きっぷを使った夏の小湯旅(その12-最終回) | 旅はブロンプトンをつれて

旅はブロンプトンをつれて

ブロンプトンを活用した旅の提案

白河からゆったりヤーコン号に乗って二岐温泉に宿泊し、翌朝ブロンプトンで会津鉄道の湯野上温泉駅に下り、そこから会津田島へ出て特急リバティに乗り換え、野岩鉄道経由で鬼怒川温泉駅へ下ってきたわけですが、ここで、同時刻に湯野上温泉駅から逆方向の列車に乗り、会津若松、郡山経由で帰った場合のことを考えてみたいと思います。

湯野上温泉駅は列車交換駅になっており、私は10時10分発下り会津田島行きに乗車しましたが、お向かいの上りホームには同時発車の上り会津若松行きが停車していました。

そちらの列車に乗って帰ったら、どれくらい時間がかかったかというお話です。

ここで、会津鉄道の上り下りの方向について説明します。

会津鉄道は、会津若松のお隣、西若松から、南会津の山深く入ってゆく旧国鉄会津線を踏襲した第三セクター鉄道ですが、野岩鉄道、その向こうの東武鉄道を経て浅草につづく会津高原尾瀬口方面へ行く列車が下り、逆方向の会津若松方面行き列車が上りとなります。

通常は東京へ向かう方を上り、東京からその他の地域へ向かう方が下りという風に覚えている方も多いと思いますが、正確にいうと戸籍上、登録上起点とされている駅から出発する列車を下り、逆に起点に向ってゆく列車を上りと称します。

そこで、会津鉄道の起点はどこかといえば、西若松駅なのです。

これは、国鉄会津線、つまりまだ野岩鉄道を通じて東武鉄道とつながる前の盲腸線だった時代を踏襲しているとも、その時代の名残で会津鉄道の本社が西若松だからともいわれています。

たとえば家の近所を走る南武線や横浜線は、東京都立川市、東京都八王子市と、神奈川県川崎市、神奈川県横浜市を結ぶ鉄道ですが、起点が南武線は川崎、横浜線が東神奈川に定められているため、東京都を背にして神奈川県へ向かうにもかかわらず、川崎行き、東神奈川行きが上り列車となります。

同様に、武蔵野線は府中本町が起点とされているため、府中本町発東京行きの列車でも、下り列車になります。

鉄道好き以外には上り下りなんてどうでもよいと思われるかもしれませんが、湯野上温泉駅のように同時刻発の下り上り列車がある場合、乗り間違えたらローカル線では取り返しがつきません。

だから、上記写真の列車のように、下今市から会津田島へ向かう直通列車の場合、東武線、野岩鉄道線内では下り列車でも、会津高原尾瀬口駅から会津鉄道線内に入った途端、扱いは上り列車に変身します。

それに、旅慣れない東京に住む人にとっては、下り列車は往路すなわち旅立ちに、上り列車は復路すなわち帰宅に利用する列車だと覚えている人もいらっしゃいますから、ぼやぼやしていると湯野上温泉駅で、下り会津田島行きではなく、上り会津若松行きに乗ってしまうかもしれません。

さて、その会津鉄道の上り列車に乗った場合です。

乗り継ぎは、下記のようになります。

湯野上温泉発10:10

 会津鉄道上り リレー号会津若松行き

会津若松着10:44

会津若松発11:08 

 磐越西線上り 快速郡山行き

郡山着12:12

郡山発12:50 

 東北本線上り 新白河行き

新白河着13:30

新白河発14:00 

 東北本線上り 黒磯行き

黒磯着14:24

黒磯発14:45 

 東北本線上り 宇都宮行き

宇都宮着15:38

宇都宮発15:55

 東北本線上り 湘南新宿ライン逗子行き

武蔵小杉着18:06

ということで、この場合湯野上温泉~西若松間の会津鉄道運賃840円さえ支払えば、西若松~会津若松間はJR只見線扱いなので、青春18きっぷだけで帰れます。

但し、上記乗り継ぎ時刻をご覧になればわかる通り、大回りしたうえに東北本線の乗り継ぎが悪く、宇都宮到着は15時38分、武蔵小杉には18時を回ってしまい、湯野上温泉から8時間近くかかって帰る計算になります。

しかも、乗り継ぎのたびに座席確保に神経を使わねばなりません。

列車というものは、地方の地域区間輸送便であっても、14時を過ぎると、学生の帰宅などに重なってお昼前後に比べて混雑してくるものです。

そこで、なぜ今回青春18きっぷにくわえて2690円も支払って、会津鉄道を下り列車に乗り、会津田島、鬼怒川温泉経由で下今市へやってきたかといえば、今市でエキストリーム乗り換えをするためなのです。

前回お話した通り、特急料金なしの乗車券のみでリバティ号に乗れるのは下今市までで、ここから先、栃木、春日部、北千住方面にそのまま乗っていったなら、さらなる運賃のうえに特急料金も取られます。

そこで、青春18キッパーとしては、何としても下今市で下車してJR線に乗り換え、ここから先は青春18きっぷで帰りたいわけです。

リバティ会津128号が下今市に到着するのは12時23分です。

そして、JR日光線の上り宇都宮行が今市駅を出発するのは12時31分で、乗り換え時間は僅か8分。

しかも駅名を見ればお分かりの通り、東武鉄道下今市駅からJR今市駅までは、一本道ながら700mの距離があります。

リバティ号を下車して下今市駅前でブロンプトンを展開して走り出すまでに2分30秒、今市駅前でブロンプトンを畳んでカバーを掛けてJR日光線電車に乗り込むまで2分30秒としたら、700m走るのは3分しか残っていません。

700mを平均時速15㎞/hで走れば間に合う計算になりますが、信号ひとつでもつかえたらおしまいです。

途中にある信号はグーグルで調べると2か所。

ええい、間に合わなかったら次の列車まで1時間、喫茶店にでも入って読書するか、運動不足解消にJR日光駅までブロンプトンで走るまでよと思いながら、リバティ号が下今市駅に到着する寸前に大谷川を渡る際には、既に階段に近いと思しき車両後部のドア前にブロンプトンを抱えて立ち、下車準備を行います。

リバティ号が下今市駅に到着し、ドアが開いた途端、「駆け出し下車」と言われない程度に早歩きで跨線橋を越え、改札を出て即座にブロンプトンを展開し、下今市駅を背に今市駅へと走り出しました。

なお、国土地理院の地図によれば、下今市駅の標高は391.8mに対し、今市駅間のそれは395.3m。

つまり、駅間700mの標高差は3.5mのプラスでゆるやかな登りです。

と、今の日光街道(国道121号線)を横断する小倉町信号が赤で、ストップをかけられます。

そしてこの信号の待ち時間が実に長い…。

腕時計とにらめっこしていたら、確実に1分以上ロスして、このシャッターを切った時には12時28分に迫ろうとしていました。

残り3分で正面奥に見えているJR今市駅まで350m走ってブロンプトンをたたみ、電車に乗り込むのは無理だと諦めそうになりましたが、いや、JR日光線は東武線と違って単線だから多少の遅延はあるかもしれないし、JR今市駅は駅員の常駐しない簡易Suicaの駅だから、青春18きっぷに日付印を押してもらう手間もないし、ひょっとすると階段を使わず、改札口からホームにスルー出来る単純構造の駅かもしれないことを期待し、エキストリーム乗り換えは、乗る予定の列車の扉が閉まるまで勝負はわからないと、気持ちをたてなおしました。

小倉町信号が青になるやいなや全力ダッシュをかけ、今市駅駅舎の階段ぎりぎりまでブロンプトンをつけ、急いで自転車を畳んでいると、構内のチャイムがもうなっていて、「上り列車がまいります。危ないですから白線の内側まで下がってお待ちください」というプリレコーデッド・アナウンスが流れているではありませんか。

カバーを掛けて改札口に入った途端、宇都宮行きの列車は入ってきたのですが、無常にもホームは跨線橋の向こうです。

ここでも「駆け込み乗車」と言われない程度に早歩きで階段を上り下りし(こんな時に全力ダッシュしたら、間違いなく階段落ちをしてしまいます)飛び乗った途端、ドアが閉まりました。

いつか長野県の須坂から菅平高原と鳥居峠を越えて吾妻線大前駅で高崎行き列車に飛び乗ったときのように、乗り込んだ列車の中では700mしか走っていないのに、汗びっしょりで肩で息をしている状況でしたが、電車の中がガラガラなので、独り芝居をしているような格好になってしまいました。

どうやら、私が改札をくぐるのを、ワンマンカーの運転手さんは見ていてくれたようです。

一時間に1本しかないJR日光線へのエキストリーム乗り換えは、成功はしたものの、もう二度とやりたいとは思いませんでした。

なお、ここで乗り換えに成功すると、乗り継ぎは以下のようになります。

湯野上温泉発10:10

 会津鉄道 快速リレー号

会津田島着10:35

会津田島発10:41

 会津鉄道/野岩鉄道/東武鉄道 特急リバティ会津

下今市着12:23

【ブロンプトンで700m移動】

今市発12:31

 日光線上り宇都宮行き

宇都宮着13:05

宇都宮発13:32

 東北本線上り 湘南新宿ライン直通快速逗子行き

武蔵小杉着15:36

ご覧の通り、湯野上温泉を同じ時間に出発して会津若松、郡山を経由して東北本線鈍行に乗るより、2時間半も早く武蔵小杉に到着できます。

仮に同ルートで郡山から東北新幹線に乗車し、大宮で下車して湘南新宿ラインに乗り換えても、武蔵小杉到着は14時36分ですから今回のルートと1時間しか違いません。

しかも、新幹線利用区間は青春18きっぷは使えませんから、乗車券の3,410円と特急券の6,580円の合計9,990円、つまりおよそ1万円余分にかかって1時間しか早着できないのです。

その点、今回は追加の2,690円だけで、ブロンプトンが網棚に乗ってしまう、新幹線よりずっとシックなリバティ号を利用できたわけで、乗り換えた日光線がガラガラでエアコンがよく効いていることも含め、今回の帰宅ルートは大正解でした。

なお、日光に多いインバウンド客ですが、どうも東武特急を利用しているようで、こちらに乗っているのは栃木県のロコと思しき、ポルトガル語を話す日系ブラジル人たちのようでした。

こういう非観光ローカル線に乗るのも、青春18きっぷの楽しみです。

なお、今市以外の東武線とJR線の乗り換え駅ですが、栃木駅から両毛線を経由し、小山乗り換えで東北本線に乗り換える方法があるものの、両毛線も運転密度は薄いので、乗り換え時間がかかれば旨味はありません。

またJR運賃も栃木~武蔵小杉は1,980円ですから、一枚(日)あたり2,410円の青春18きっぷを使用したら、損をしてしまいます。

エキストリーム乗り換え成功に気をよくして、始発駅なのをよいことに、グリーン券(休日なので800円)を奮発して帰りました。

宇都宮での乗り換え時間は28分と、たっぷりありましたから、駅構内で販売している焼き餃子ダブル弁当(800円)か、青春18きっぷ利用者であれば、東口改札口を出てステーションパルという名の駅ビル内に入っている、有名な「みんみん」という店のテイクアウト餃子(焼きと揚げがあり、一つあたりのサイズが大きいことで有名=事前に電話で予約しておけば、待たされずに持ち帰りできます)を買ってグリーン車に乗り、冷えた缶ビール片手にプシュー、バリバリとやれば、おじさんのテンション上がりまくりと、ちょっとだけ誘惑されました。

しかし、車内で酒盛りをひらくと餃子は特に匂いがきついことと、武蔵小杉駅から自宅へブロンプトンで自走して帰る以上、たとえ自転車であっても飲酒運転は厳禁ですから、想像するだけでやめておきました。

(それに、アル中たちの苦しみは傍にいて嫌というほど知っていますから、どこかの自称カウンセラーのように、手前で酒を飲みながら、「解決はある」なんて戯言を抜かして商売する輩と意地でも一緒にはなりたくないので、ひとりの場合はとくにお酒を断っています)

でも、これが誰かと一緒だったら、間違いなく車内で祝杯をあげて、武蔵小杉からはタクシーで帰ったと思います。

今朝ごはんをゆっくりと食べたうえで、会津の山奥の宿をブロンプトンで発ったのに、こんなに早い時間に多摩川を渡って帰ってきてしまいました。

しかも、湘南新宿ラインに乗っている間は読書しているか爆睡しているかのどちらかです。

これがマイカーだったら、今頃東北道の渋滞にはまって、運転手がひとりでイライラしているのかもしれません。

これなら16時前には家に着きますから、ひと風呂浴びた後に昨夜の宿でお土産にもらった蜂蜜を氷水に入れてレモンを絞り、串カツでもおつまみにして、ノンアルコールで旅の成功を祝いますか。

それで会津にまつわる本でも読みながら、さっさと寝てしまいましょう。

「行きは良い良い帰りは何とやら」なありがちお疲れさん旅行ではなく、ブロンプトンをつれた温泉旅は、「帰宅良ければすべて良し」な旅なのでした。