突然やってきたチタンモデルとのお別れ | 旅はブロンプトンをつれて

旅はブロンプトンをつれて

ブロンプトンを活用した旅の提案

(入手したばかりの頃 新木場)

ここのところ、加齢やコロナウィルスの蔓延による運動不足(私の場合は自転車に乗る時間の相対的減少)もあって、昔のように「暑さを吹き飛ばすような輪行や通勤」(じゃんじゃん汗をかいて、行った先でシャワーを浴びる)ができなくなっていました。
そこで、体がなまっているぶん少しでも軽い自転車をと、夏だけではなく冬も、そして山へ行く場合も旅に出る場合も急坂登坂対策として、チタンモデル(赤のM6L-X)ばかり乗っておりました。
この自転車は数年前に、三角形のチタン製リアフレームに付属するリアホイールステイが、金属疲労によって断裂し、また別の時には内装ギアの故障・交換でほぼ1年間修理に出して乗ることができなかった自転車です。
その間、クロモリのブロンプトンに乗っていたわけですが、修理が済んでチタンモデルに乗り換えた際の爽快感というものは、何度経験してもやめられません。

そして、今回のように気が付いたら「軽くてよく走るブロンプトン」ばかりに乗っているという状態になりました。

(この部分の交換だけで終わるかと思っていました)
それにしても出来が悪く、手間ばかり取らせる子どもの方が愛おしいとはよく言ったもので、故障以外にも、旅先でのパンクをはじめ、サドルのフレーム折れなど、よく事故に遭わずに済んだと思うようなこともこの自転車で経験しました。
もちろん、鉄道に乗る際に連れて歩くにも軽い方が有利なので、旧東海道をはじめ、長野、福島など、あちこちへ連れて歩きました。
旧青梅街道の大菩薩峠を、背負子にのせて(小菅側から)越えたこともあります。
あの時は、本気で山に置いて帰り、翌年の春に取りに戻ろうかと悩むほど身体がバテていうことをきかなくなりました。
そんなこんなで、ごくたまにではありますが、シートを思い切り下げて、未舗装の林道をマウンテンバイクのようにくだるということもやっていました。

オートレースの選手みたいに、カーブ内側の足を前に伸ばして、ドリフト気味に曲がるのです。
旅のためとはいえ、整備する人からみたら、明らかな「目的外使用」です。

(京都祇園)
そんなチタンモデルのブロンプトンですが、もとは2012年6月にネットオークションにて入手した自転車だったのです。
その頃はまだ今ほどにはブロンプトンは有名ではなく、価格も現在とは違っていたため、16万円で入手することができました。
中古とはいえ、今の新車価格の半額ほどです。

このブログで何度も繰り返しているように、私は見栄や洒落っ気でブロンプトンに乗っているわけではありません。

純粋な旅のツール(道具)として使用しているつもりです。
だから、私は心のうちのどこかで、最初に購入したクロモリ製の赤/黒M6R(通称モデスチン)と、このM6L-Xブロンプトンについては、乗り潰そうと思っていたのかもしれません。
そこで、通勤をはじめとする日常使いも、旅行に出るときも、いつもこのチタンモデルを玄関に置いておいて、乗り出していました。

(触るとこの部分が波打っています)
半年以上前ですから、去年の初秋(9月)だったと思います。
タイヤの摩耗による交換のため、いつもお世話になっている自転車屋さんに伺ったところ、ハンドルステムのがたつきを指摘されました。
分解してみてもらったところ、普段外側から見ることのできないフロントフォークの付け根が若干波打っています。
これは、その筒状の内にある円錐状の固定用部品(厚みのあるリング状の金属で、横から見ると台形をしています。名前は忘れました)との干渉によって起こるもので、原因はハンドルステムとメインフレームの間にあるヒンジ下、ステアリング・ベアリングと呼ばれる部分が、正確な値で締められていない場合に起こるらしく、私の場合は使い方と経年使用による負荷によって、無理な力が継続的にかかって出てしまった症状のようです。
このまま乗車していたら、おそかれはやかれある時点でフロントフォークの上部が破断し、ハンドルがぐるりと一回転してしまう状態になるそうです。

そういわれて真っ先に思い出したのが、何年か前にクロスバイクのフロントフォーク上部断裂により落車・転倒して頸椎を損傷してしまい、下半身が麻痺してしまった人の話でした。
あの場合はサスペンション付きフォークの構造的な欠陥がからんでいたようですが、自転車でもオートバイでも、前輪、すなわちハンドル側で不具合が起きて不意に転倒するとなると、リカバリーが難しいだけに重大な怪我を負いやすいのです。
結局、自分が操る乗り物には、安全のためにコストを惜しむわけには参りません。
その時点では、チタン製のフロントフォークの交換のみで済むということで、部品をイギリスから取り寄せることにしました。
しかし、リアのチタンフレームに続き前のチタンフレームもか、と思うと買ったときから残っている主要パーツはメインフレームとハンドルステムだけになってしまうわけです。

もう別の自転車になりかけているのかもしれません。

(左が新品)
さて、出費は痛いですが一台まるまる購入するよりはずっと安く済むので交換を決めたのですが、世界的なコロナウィルス流行の煽りをうけて、そう簡単に部品が手に入らないかもと言われました。
最低でも半年はかかるそうです。
「それまではこの自転車にはあまり乗らないでください」と言われたにもかかわらず、今年に入って暑くなってからはとくに、少しでも身軽になりたいし、以前のように週に3日も4日も新宿まで往復しているわけではないから良いかと考え、6月に入ってからちょくちょく乗っていました。
果たして部品が入荷した旨の連絡をもらい、自宅から横浜までブロンプトンで走っていったわけですが、はからずもこの日の走行がラストランになってしまいました。

(中山道追分宿)
というのも、お店についていざフロントフォークを交換しようと思ったら、これを受けるメインフレーム側の変形が去年よりもさらに進んで、入らなくなってしまったのです。
こうなると、せっかく取り寄せた交換部品(チタン製フロントフォーク72,500円税込み)はパーになってしまいます。
たとえば新しいクロモリのブロンプトンを購入して、その自転車にこのチタンフレームを組み込んでもらおうとしても、今のブロンプトンは部品の形状もサイズも少しだけですが変わってしまっているため、合わせられないのだそうです。
それに、完成車を一台購入するのにも、以前のようにチタンの供給が止まって見込みが立たないといいことはないにしろ、やはり最低でも半年は待たねばならないそうです。

たしかに、お店に並んでいる現行のブロンプトンを見ますと、ハンドルステムは気持ち短くなっているし、Mハンドルのバーも、形が少し違います。

さらに、今の私には旅にかけている費用もありますし、このブログが収入源になっているわけでもありませんので、購入資金をポンと捻出できそうにありません。

当面はモデスチンをはじめ、使い慣れたクロモリブロンプトンに戻るとして、さて、どうしたものか・・・。

(剝げかけのチタンモデルシールが勲章でした)

とにもかくにも、この自転車にはもう乗れないということがわかり、ある日唐突に別れを告げられた気分になりました。

振り返ってみると、辛い時も悲しい時も、楽しい時も、新たな発見をした時も、常に黙って寄り添ってくれたのがこの自転車で、こんなにずっと一緒に居て、あちこちへ出かけたのモノは、ほかに腕時計くらいしか思い浮かびません。

もちろん相手はモノですから、感情があるわけではないのですが、感覚として、私のこれまでの様々な感情を受けとめ、映し出してくれていた身体の一部を、事故などで急に喪失したような気分になりました。

そうなると、これまであちこちへこの自転車をつれて旅をしたことが走馬灯のように思い出され、愛おしくなってフレームなどについた傷を撫でながら、「これまで9年もの間、私を支えてくれてありがとう。乱暴な使い方をしてごめんなさい。色々辛い目にも遭わされたけれど、今水に流します。そして手放したとしても、ずっと感謝しています」という言葉が自然に浮かびました。

私はお寺を手伝っているから、こんな形でお別れするよりも、一度住職の前に持っていってお祓いしてもらい、上記の言葉を述べて自転車供養したいほどでした。

ご住職に頼んでやってもらいましょうかね。

(奈良 法隆寺)

なお、お断りしておきますが、自分のようにヘビーな使い方をしなければ、もっと長い期間同じ自転車に乗れたと思います。

形あるもの、それも動くものは壊れるとは思いつつも、ブロンプトンにチタンモデルが特別脆弱であるとか、ブロンプトンに消費期限があるとか、そういう話ではないので誤解無きようお願い申し上げます。

昔、テレビにピタゴラスが出てきて「形あるものは壊れる」と言っていた瞬間接着剤のCMがありました。
そのCMはピタッとくっつくからピタゴラスを登場させたわけで、実際のピタゴラスはそんなことを言っていません。

同じ意味の言葉なら、ヘラクレイトスの「万物は流転する」でしょう。

「同じ川の流れに二度入ることはできない」という表現もありました。

仏教思想書で時間を説明するのに出てきました。

9年間乗ったブロンプトンだって、同じ状態は一度としてなく、私も日々刻々と変化していたとすれば、毎日の乗車が新しい経験だったのかもしれません。

それを踏まえたうえで哲学的な言い方をすれば、ブロンプトンと出会ったその瞬間に、すでに未来の別離が内包されていて、それは逆もまた真なりで、毎日使っていたブロンプトンをこうして失った瞬間に、次のブロンプトンへの出会いが用意されていると考えて良いわけです。

チタンモデルを喪失したままにはできないと思いながら、この後の話は次回に回したいと思います。

(まさか、この1枚が最後になるとは。)