昨日は堂島ビエンナーレの最終日だったので、
駆け込みで鑑賞しに行ってきました。

事前にどのような作家が出品しているのか調べずに行ったのですが、
前から気になっていた作家の作品が出品されていました。

タイのアラヤー・ラートチャムルーンスックの
「ミレー<落ち穂拾い>とタイの農民」です。
ビデオ作品なのですが、写真のように<落ち穂拾い>を
タイ農民が鑑賞して好きなことを言い合うという作品です。

$器な生活

この作品は文化人類学的な意味でとても興味深い作品です。
文化人類学では人々の発話や行為は、
ある文化体系(文化システム)に依拠して表出すると考えます。

発話や行為の背後にあって、
それらを規定し、方向付けるものが文化だと考えます。

「常識」などはその典型で、
日本人にとっての常識は、
外国人にとっての非常識だということは多々あります。

他文化にとっての常識を一つの文化システムとして考え、
それを自分たちの常識と照らし合わせることで、
自分たちの常識も一つの文化システムでしかないことを明らかにするのが、
文化人類学の基本的な姿勢となります。

アラヤーの作品は、フランス農民を描いたミレーの<落ち簿拾い>を、
フランスとは異なる文化システムをもつタイ農民に鑑賞させ、
彼女たちが<落ち穂拾い>について語る姿を作品としています。

つまり、タイ農民の<落ち穂拾い>に対する解釈を作品にしているわけです。
タイ農民は全く異なるフランスの文化システムの中で作られた<落ち穂拾い>を、
タイの文化システム(解釈の体系)を用いて語っています。

たとえば、
「象、荷台を引いているのは象たちなの?」

「土地の中に手が引っかかっているんだよ。
それか、ヒキガエルを捕まえようとしているのかも」

「乾いているからこの人たちは芋とかを食べなきゃならないんだと思う」

こうした何気ない会話の中に、
タイ農民が異文化を解釈していくプロセスが見られます。
これが、アラヤーの作品の面白いところです。

アラヤーが文化人類学を専攻していたとは思えませんが、
彼女の作品は、映像人類学的アートだと言えるでしょう。


アラヤー以外の作品は以下のようなものでした。
とても多様な表現形態で楽しかったです。

【ヴォルフガング・ライプ:通路】
$器な生活

米の上に置かれた船はどこに行くのでしょうか?

【八木良太:Vinyl】
$器な生活

氷のレコードは、徐々に溶けて音がノイズへと変わっていきます。

【チームラボ:憑依する滝】
$器な生活

流体力学を使って人工的なデジタルの滝が作られています。

【畠山直哉:アンダーグラウンド/ウォーター】
$器な生活

木村伊兵衛賞を受賞した写真家の作品。
個人的には石灰鉱山の発破を撮影した『LIME WORKS』が好きですが、
アンダーグラウンドやウォーターのプリントを観たことがなかったのでよかったです。

【畠山直哉:アンダーグラウンド/ウォーター】
$器な生活

【杉本博司:華厳滝図】
$器な生活

説明も必要のない現代作家さんですね。

【ツァイ・チャーウェイ:蘭嶼】
$器な生活

台湾の少数民族が住む島に核廃棄物の「一時」保管場が建設されています。
ツァイはこの海の写真に般若心経を書き込んでいます。
今でも福島の海が放射能によって汚染され続けている現状をみると、
原発がいかに愚かな人工物であるのかを考えさせられる作品です。