Dickinson | Have a cup of tea

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Apple TVでテッド・ラッソの次に観ているのが、Dickinson(邦題:『ディキンスン~若き女性詩人の憂鬱~』)。

19世紀のアメリカ人女性詩人、エミリー・ディキンスンとその家族を描いたコメディドラマだ。コメディというだけあって、こちらもコミカルで面白く、テッド・ラッソ同様、アメリカのドラマと言う感じだ。

 

 

 

 

エミリー・ディキンスンのことは、アメリカ文学史の単位を取得するときに知ったのだが、作家の概要を読んで、生涯を独身で実家で過ごし、Transcendentalistとしてみなされ、生前創作していた詩は彼女の死後に世に出て有名になったということや、その思想などから興味を抱き、だいぶ前にKindleでほぼ無料の作品集をダウンロードして少し読み始めていたが、途中で止まっていた。なので、ドラマを観始めたら、肖像画のエミリーに似ている主人公が画面の中で生き生きと動き出し、19世紀ニューイングランドを舞台に文学的要素が散りばめられたドラマは、観ていてすぐに引き込まれてしまった。エマーソンやソローの影響を受けていたエミリーは、鉄道が自宅の敷地内を通るため大きな木が切り倒されるのを阻止しようと、湖のほとりの小屋で独り暮らすソローに協力を求めようと訪ねるが、憧れのソローは頼りにならず、ソローの小屋にはお母さんが洗濯物の替えを持ってきたり妹かクッキーを届けに来たりと、エミリーが想像してたのと違う彼に幻滅していたようだった。自分も何年か前に読んだソローの作品から抱いていたイメージが崩れたのも確かだ。まぁ、脚色もあるだろうけど、現実ってそんなものか。"Never meet your heroes"(自分のあこがれの人には会わないほうがいい)みたいな諺?があるけど、そんな引用もしていて笑えた。また『若草物語』を書いたオルコットがディキンスン家のクリスマスディナーに招かれ、創作についてあれこれ語ったり(その中にはメルヴィルの作品の言及が・・・)、ランニング好きだったとかで、ディナー後の腹ごなしにエミリーと馬のように走っていたり、オルコットがエミリーへ自立するアドバイスをしていて、稼ぐためには詩はダメなのよね、、みたいなことを言っていたり。そんなふうに作家たちを親しみやすくコミカルに描いているドラマは、なんだかウディ・アレンの映画『ミッドナイト・イン・パリ』を思わせる。また、エミリーの妹のラヴィニアが夢中になっている連載小説がディケンズのBleak House(荒涼館)だったりして、まさに連載中の毎号を楽しみにしている様子など、同時代のアメリカとイギリスの文学界を想像したりして、英文学好きは楽しめるドラマだと思う。

 

個人的にアメリカ文学史のなかでも特にその辺の時代は興味深かったので、単位修得のためにまとめを書いたノートを引っ張り出して読み返してみた。南北戦争時代のニューイングランドの女流作家であり、戦争のことよりも、個人的で純粋な信仰を追求する詩を創作したというディキンスンに、自分は興味と親しみを感じていた形跡がノートから見て取れた。今回このドラマを観て、その人となりのイメージが多少得られて、Kindleに保存してあるディキンスンの詩をまた読み始めたいと思った。