The Celestial Omnibus | Have a cup of tea

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主に英国に関する出来事を記録しています

ロンドンのコンサートでお知り合いになったコアなTDCファンの方々と、その後の情報交換などのやり取りを通じて知ったあるインタビュー記事から、Neil Hannon氏はE.M. Forsterが好きだと言う話題が上がった。E.M. Forsterといえば、自分が20歳頃、映画『眺めのいい部屋』が好きで、その映画からフォースターの作品に興味を持ち、図書館で『天使も踏むを恐れるところ』の翻訳本を借りて読んだり、映画を観たりしていた。『ハワーズ・エンド』とか『インドへの道』、『モーリス』なんかも観たなぁ・・・20年以上前だからすっかり内容を忘れているけど・・・と思いにふけっていたら、ふと、ずいぶん前にフォースターの短編集の洋書を購入していたことを思い出し、例のごとく、実家に探しに行ったら、あった、あった。

 

 

(このペーパーバックの表紙の絵はRoger Fry作。ロジャー・フライはフォースターも参加していたブルームズベリー・グループの一員で、ブルームズベリー・グループの画家といえば、ヴァージニア・ウルフの妹のヴァネッサ・ベルがいたなぁ・・・と、先日、映画『めぐりあう時間たち』を観て思いだした。)

 

本棚に放置されて、ページの端がすっかり日焼けしてしまったこの短編集を買ったのは、たぶん20年くらい前、フォースター作品の映画ばかり見ていたので、なにか原書を読んでみたいと思い、短編だったら短いしすぐに読めそう!という安易な考えからだった。それで、購入時に読んだ覚えがあったのは、The Celestial Omnibusという短編だった。

 

この奇妙なタイトルだけが印象に残っていたが、どんなストーリーだったかは正直思い出せなかった。たぶん、当時の英語力では理解が難しかったかもしれない。タイトルのCelestialという言葉はそれまで聞いたことのない英単語だったので、意味と共にどう発音するのか調べた覚えがあり、Omnibusは「オムニバス」で、これは以前から知っていた、小説や物語の何作品かが集まって1つの本になっているようなものを想像したが、実はこの短編のOmnibusは全く別物だった。

 

ストーリーの舞台は、ロンドン南西部のSurbiton(サービトン)という街。いつものごとく脱線するが、再読時にこの街の名前を見て、ぐっと物語に引き込まれてしまった。というのも、留学時に滞在した場所から近くて訪れたことがあったのだ。しかし、この本を買った時はまだ留学前だったので、全然ピンとこなかったと思う。このSurbiton、まさに今週始まったばかりの全英テニス、Wimbledonにも近いと思う。やはり実際に行ったことのある地名が出てくるだけで、関心が高まりやすい性格の自分・・・。

 

それで、ストーリーに戻るが、そのサービトンの閑静な住宅地、そこに住む少年が家の前の通りに立っている古びた標識に興味を持つ。標識には'To Heaven'と書かれているのがわかり、なぜか何の変哲もない路地(Alley)の方向を指している(このAlleyでハリポタのDiagon Alleyを思い出す・・自分)。両親にその標識の事を訪ねると、昔、ちょっと悪い冗談で、いたずら好きな青年が立てたもので、何の意味もない物だと一笑に付される。しかし、少年はどうしても気になり、その路地に行ってみると、そこで、’Alteration in Service’(運行の変更)、と書かれたビラが貼ってあり、「利用客が少ないため、日の出と日没時のみ運行、往復チケットのみ販売」とある。少年はその「乗り物」に乗ってみたいと思い、ある朝それを試みるのだった。

 

この短編、英文学好きな人には興味深いキーワードや英文学作品のキャラクター、ギリシャ神話などの登場人物が出てきて、読んでいたら、時期的に夏休みの課題じゃないけど、この短編をテーマにした小論文でも書きたくなってしまうが、個人的な感想としては、くどいけど、The Divine Comedyのアンコール定番曲のTonight We Flyを彷彿とさせたり、はたまた、ハリー・ポッターのナイトバスのシーンなんかを思い出してしまった。そうそう、ウッディ・アレンの映画『ミッドナイト・イン・パリ』も、、もしかしてこの作品に影響を受けたのかな?と思わせるところがある。また、権力とかお偉い人に対する反抗心とかも感じられるようなストーリーでもある。ファンタジーで、ちょっとホラーっぽいところもあり、不思議な物語だった。

 

そして、このOmnibus、確か、ロンドン交通博物館に行った時に写真を撮ってあったかも・・・と、データを掘り出してみたら、あった、あった!

 

 

Omnibusとは、オムニバスではなくって、乗合馬車のことだった。The Celestial Omnibus 、『天国行きの乗合馬車』というタイトルで和訳本が出ているが、どうやら絶版のせいか、古本でも高値が付いている・・のは英文学の古典作品にありがちなんだけど。どこかの図書館で探して借りるか、原書を頑張って読むか、という選択肢しかないのだが、やはり原書を読んで、使われている単語を調べたりしていくと想像が広がり、勉強にもなると思う。