Thomas Hardy(トマス・ハーディ)原作の"Far From the Madding Crowd"(邦題『遥か群集を離れて』)の芝居を観た。
劇場はロンドンから地下鉄で30分ほどのリッチモンドにあるRichmond Theatre 。
English Touring Theatreという劇団による上演だった。
ついこの間まで、TVのBBC1にて同じくハーディ原作の"Tess of d'Urvervilles"『テス』を放送していたので、ハーディの作品ということで、興味をそそられて観に行った。
席はUpper Circle、英語字幕付きの上演を選んだ。
この物語は、男性社会のなかで独立して逞しく生きる、美しい、農場主の女性Bathsheba(バスシーバ)と、彼女に求婚する3人の男性(羊飼いで友情に厚いゲイブリエル・オーク、裕福だが強迫観念にとらわれているウィリアム・ボールドウッド、向こう見ずで魅力的な軍曹トロイ)との関わり、そして、それを取り巻く人々や、牧場の牧歌的な生活を描いている。
最初に、羊飼いのオークが出会ったばかりのバスシーバにいきなり求婚したのには驚いたが、後にオークはバスシーバの農場で働くことになり、彼は陰ながら彼女を支える。
また、軍曹のトロイは最初に結婚するつもりの恋人がいたのだが、行き違いで結婚できず、その恋人は子供を身ごもるけれど不幸になってしまうところは、『テス』を彷彿とさせた。(テスは、バスシーバのように強い意志を持った賢い女性だったけれども、貧しさゆえに不幸な結末になってしまうのだが・・)
バスシーバは裕福なウィリアムからも求婚されるが、彼女はウィリアムには全く心を動かされなかったようだ。そして、若く魅力的なトロイに惹かれて結婚する。でもトロイはバスシーバのお金を使いまくり、まるでジゴロのような生活を送る。そして最後には、いつも一番近くにいた素朴で忠実な男、オークの良さに気づくバスシーバだったのだ。
ハーディの作品は、『テス』や『日陰者ジュード』など知っている限りでは、容赦ない貧しさや人生の厳しさ、不幸を描いていて、結末はいつもアンハッピーという印象があったのだが、この物語は意外とハッピーエンドだった。もちろん、結末までの過程では、さまざまな過酷で厳しい出来事があるのだが。
舞台の造りは極めてシンプルで、客席から向かって左側は、水場のある(ステージ床の蓋を開けると本当に水が溜めてあった)農場の作業場になったり、街のマーケットになったりする板の台が設えてあり、中央は何も無く、右側には階段を備えたちょっと高い空間があった。
劇中にはときどき音楽が流れ、また農作業の民謡が唄われ、演じる人々がダンスをしたり、踊りにより感情を表現しながら演技をしていたのが面白かった。また、梯子が時々登場し、効果的に使われていた。
以下に、プログラムに記載されていた翻案のMark Healyと監督のKate Saxonのノーツの一部を抜粋する。(拙訳)
「ハーディは、彼の後に出現する作家ロレンスやファウルズと同様、男性のイマジネーション(想像力、妄想)を異常なまでの緻密さで分析した。ボールドウッドのバスシーバに対するオブセッシブな必要性から、オークの変わらぬ謙虚な愛情、そして、トロイの自分本位な征服欲まで、この作品では、ヴィクトリア時代のありのままの風習や社会環境だけでなく、現代の人々にもある情熱を観察することができる。このような要素が、本作品を 'Classic'(傑作、古典)としているのではないだろうか。また、ヒロインのバスシーバは、19世紀の小説において最高の主人公ではないだろうか。彼女は自分自身を確立し、自分の思ったとおりに生きようと奮闘する、魅力的で度胸のある感情豊かな女性である。(中略)つつましい農場で働く人々から、裕福な地主まで、ハーディのシェイクスピア的な登場人物たちは、ディケンズ風のステレオタイプに陥ることは無いが、過去の時代の人々の深遠な人間性を表現しており、彼らの仕事での問題や心の悩みは、現代の我々のそれと、とても似ている。」(Mark Healy)
「主人公のバスシーバは知的で強情で、ハーディの時代ではまだ珍しかった自立心を持った女性であったが、ある日突然、叔父の農場を受け継いで農場主となる、また、同時に3人の男性に求婚され、女性としても駆り立てられる。(中略)農場の人々、労働者、土地への従属関係などは、自然との共生にあり、ハーディは自身が愛するWessexの自然の風景を用いて、登場人物の心の葛藤を映し出している。トロイがバスシーバとの不幸な婚姻を決意する場面では、突然の嵐に見舞われ、運命と行動が絡み合う。」(Kate Saxon)
追記(2013/04/16)
この作品について調べものをしていたら、この劇団の上演映像がダウンロードできるサイトを見つけた。数分だが、紹介のサンプル映像を見ることができ、当時、鑑賞した舞台そのものだったので、思い出されて懐かしい。サイトのリンク→Digital Theatre 。イギリスのいろいろな劇作品をダウンロードできるようだ。
