MRS12
「読書しながら」

クリスマスも過ぎて、あとは大晦日までちょっととなった。
今年も終わるのが早そうやな。
残念ながらクリスマスにはあのMRSには行けんかったんやけど、なんか楽しそうなことしてたんやろか?
今日はそれを聞いてみよう。
ほんで前回この店を出て階段を上った時に、怪しげな人影を見たんや。
あれは気のせいやったんかな?
あの店と関係あんのかな?
それとも…。
とにかく行ってみるとするか。
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店長:いらっしゃいませ。
オレ:メリークリスマス♫
店長:もうとっくに終わってます。
オレ:そうやんな…。すまんな、読書中やのに。
店長:なんでご来店されたお客様が謝るんですか?仕事中に読書してる方が悪いのに。
オレ:まぁ普通はそうなんやろうけど、ここはちょっとちゃうから。
店長:ちょっとどころではないですけどね。
オレ:自覚あんのかい。
店長:ところで、マンさんこそクリスマスはどんな風に過ごしてたんですか?
オレ:オレ?クリスマス?オレはクリスマスやろうがなんやろうが、いつもと変わらんかったで。
店長:そうなんですか。で、どこでなにを?
オレ:えらいツッコんでくるな…。
店長:アリバイがあるかどうか捜査してます。
オレ:オレは容疑者か!?やめてくれよ。
店長:で、クリスマスにはどこで誰となにを?
オレ:“誰と”ってのも追加したな…。オレはいつものようにクソ忙しく仕事してたで。一人で。
店長:そうですか…。せっかくのクリスマスですのにね…。
オレ:オレのことはええとして、この店ではクリスマスにはなんか特別なイベントとかやったん?
店長:いや、特には。飾りつけは多少やりましたけどね。
オレ:そうなん?なんか寂しいクリスマスやな、お互い( ´ ▽ ` )ノ
店長:マンさんよりはマシですけどね。
オレ:ちょっと腹立つなそれ( ̄。 ̄;
店長:そしてマンさんは、この店に来てもくれませんでした…。
オレ:いやいや、だって平日やったやん。平日は来られへんて。
店長:いつなら来れたんですか?
オレ:金曜日か土曜日の、しかも遅い時間かな。
店長:いつもそうですもんね。
オレ:分かってたら聞くなや。
店長:知っててわざと聞きました。
オレ:嫌な性格やな。
店長:よく言われます。
オレ:誰から?
店長:妹からです。小さかった頃から大人になった今でもずっと。
オレ:キミ、妹おったんか?
店長:そっくりな妹です。
オレ:やっぱりハーフなんか?そりゃそうか。
店長:ハーファーじゃないとおかしいでしょ。親が違うなら話は別ですけど。
オレ:日本に住んでるん?それとも海外?
店長:今は南極にいます。観測隊として。
オレ:え?そうなん?妹さんって南極観測隊なん?すげーな。そんな人が身近におるなんて初めてやわ👀
店長:ちなみに夏の間3ヶ月間南極に滞在する夏隊と、1年を通して南極に滞在する越冬隊があるんですが、妹は越冬隊です。
オレ:マジか…そんなに長くおるん?
店長:長いですね。
オレ:えっと、妹さんは独身やんな?
店長:独身です。
オレ:恋人は?
店長:婚約者がいます。
オレ:うわぁ…その婚約者も可哀そうやな。長い間ずっと会われへんのやろ?
店長:そういう事になりますね。
オレ:なんかさ…あっちの観測隊の男と仲良くなってもうたりせんのかな?
店長:マンさん、なんか変な事考えてません?
オレ:変なこと…と言えば変なことなんかも知れんけどさ…。
店長:知ってますか?南極観測隊あるある。
オレ:南極観測隊あるある?
店長:はい。長い間同じ空間に閉じ込められて生活するんですが、当然禁欲生活にもなりますよね?
オレ:あー…考えたことなかったけど、そうなるんかな?
店長:限られた空間…禁欲生活……そんな環境にいると、男女はお互いがすごく魅力的に感じてくるそうなんです。
オレ:へ~そうなん?
店長:男も女も、例えば見た目もスタイルも普通の人だったとしても…
オレ:としても?
店長:男からは普通の女が“アンジェリーナ・ジョリー”に、そして女からは普通の男がまるでジョリーの旦那さんに見えるらしい。
オレ:例えがかなり変やな…。せめて“ブラッド・ピット”って言えよ。
店長:面倒やったんで。じゃあ“ブラピ”に見えるんだとか。
オレ:略すなて。
店長:“アンジョリ”でもだめですか。
オレ:あかんな。略してるから。ほんで女が“アンジェリーナ・ジョリー”に見えるからって、男がジョリーの旦那に見えんでもええがな。
店長:確かに。そこは“ビリー・ボブ・ソーントン”とか“ジョニー・リー・ミラー ”でも良かったかも知れません。
オレ:どっちもジョリーの元旦那やないかい。他におらんのかよ。
店長:せめて旦那さんか元旦那さんに例えないと、倫理的にマズいかなと思いまして…。
オレ:元旦那の時点で倫理的に問題あるやろ。
店長:まぁそんなあるあるがあるそうです。
オレ:えー…そんなところに妹さんがおって、キミは心配やないんか?
店長:大丈夫です。全部嘘ですから。
オレ:嘘なんかーい!!なに?あんだけ話してて全部嘘?え?ちょっと待って?
店長:待ってますよ、読書しながら。
オレ:読書やめて待てや。えっと…南極観測隊のその話も嘘やんな?
店長:ああ、南極観測隊あるあるは本当の話です。
オレ:え?そうなん?それが全部嘘やと思ってた…。ってことは…妹さんが南極観測隊ってのが嘘なん?
店長:越冬隊の事ですよね?
オレ:あ、もしかしてほんまは夏隊やったとか?
店長:妹が南極観測隊って事も嘘ですし、妹の存在自体が嘘です。
オレ:………なんてこった………完全に騙された………
店長:ぼくには妹はいません。しかし姉はおります。
オレ:どうせそれも嘘なんやろ。
店長:いえ、それは本当です。歳の近い姉がおります。
オレ:ハーフか?
店長:ハーファーです。
オレ:ええ加減“ハーファー”ってゆーのやめへんか?
店長:もうこれで最後ですから。
オレ:最後って…お姉さんでハーフが終わりってこと?
店長:100%それに等しいです。
オレ:「そうです」でええやんけ。
店長:あと姉の子供はクォーターですけどね。
オレ:もうええわ。これ以上ややこしくすな。
店長:申しわけありませんでした。
オレ:ところで店長。
店長:なんでございましょうか?
オレ:仕事中にくつろぎながら読書するの、オレ的には全然かまへんのやけどさ。
店長:ありがとうございます。
オレ:その恰好でそんなとこに寝転んで…もう仕事モードやないよな、完全に。

店長:そのように見えますか?
オレ:大いに見える。むしろ見え過ぎる。
店長:見え過ぎちゃって困るのは、それはいいアンテナだからですかね。
オレ:キミはそのCM知ってんのか?
店長:知りません。
オレ:いや知っとるやろ、絶対に。
店長:こう見えて実は、かなり仕事モードなんです。
オレ:それも嘘なんやろ?
店長:本当です。だってほら、今読んでるこの本を見てください。
オレ:なになに?……『人をおちょくる100の方法』…まったくキミに相応しいムック本やな。勉強してんのか?
店長:ビジネスに役立てようと。
オレ:役立つかい!!いや、別にええんやけど。ええんやけどなんで畳の上なん?
店長:寝転びたくてレンタル商品を持って来ました。
オレ:ああ、それって商品なんかい。オレはまた家から運んで来たんかと思ったわ。
店長:そんなまさかぁ(*ノωノ)
オレ:そんなまさかなことをすでにしとるやろ、キミが。ほんでさ…
店長:まだありますか?
オレ:あるある。その恰好はなんか意味あんのか?
店長:寝転がるための恰好してるつもりです。
オレ:なんかさ…
店長:あ、その先は言わなくても分かります。マンさんがなにを言おうとしてるのか。
オレ:分かる?じゃあなに?
店長:お尻がデカいって事ですよね?
オレ:ちゃうし。確かになんとなく若干盛り上がってるようには見えるけども。
店長:違いますか?じゃあなんでしょう?
オレ:なんとなく露出が多いんやけど、キミはくつろぐ時ってそんな感じなんか?
店長:そうです。あんまり着てると堅苦しくてくつろげないので、できるだけ服を減らします。
オレ:そうやろな。そんな感じがする。
店長:ですがここは曲がりなりにもお店です。ましてや今ぼくは仕事中です。
オレ:まがりなりにもな。
店長:なのでこれだけの服は着させていただいてます。
オレ:いやけっこう薄着やけどな。外は真冬やぞ。寒くないんか?
店長:ぼくがいるこの空間に、思いっきり暖房の熱が送り込まれてますから。
オレ:そうなん?……あ、ほんまや。めっちゃここ暖かいな。オレは寒くてこんな恰好してるのに。ズルいぞ。
店長:ズルいですか?じゃあマンさんも薄着になってここでくつろげばいいのでは?
オレ:おお、そうやな(*‘∀‘)…………って、ちょい待てよ。
店長:キム・タクヒョンですね?
オレ:キムタクや。なんで韓国っぽい名前出すねん。
店長:韓流をゴリ押ししてみました。
オレ:オレにゴリ押しすんなや。
店長:で、ずっと待ってますが。
オレ:どこがずっとやねん。ずっとおちょくっとるだけやないか。なんか腹立つな…。
店長:👂
オレ:耳を傾けてるつもりなんかい。まぁええ。あのさ…
店長:聞いてます。
オレ:こんな年末の夜遅くに、こんな場末の地下にある薄暗い店のカウンター内の片隅で、男2人が薄着になって畳の上でくつろぐって……異様やないか?
店長:いえ、全然。
オレ:いや、もっと客観的になって考えろよ?今のキミのその横にオレも薄着になって寝そべって……うぁ!!考えただけでサブイボが!!
店長:寒いですか?じゃ暖房をもっと……
オレ:そんな問題じゃないねんな。分からんかなぁ。
店長:はぁ?
オレ:たとえ今日がクリスマスやったとしてもそんなシチュエーションないで?
店長:2人ともがヨッパでも?
オレ:………………ない…か…な?
店長:なんかありそうですね(*‘∀‘)
オレ:なんで嬉しそうなやねん、やめてくれ!!
店長:あ、クリスマスなんですけど。
オレ:急になんや?
店長:オーナーがプレゼントをくれましたよ。
オレ:オーナーが来たん?この店に?
店長:正確に言えば、起きたらプレゼントがあったんです。
オレ:キミ、寝とったんか?
店長:寝そべってました。
オレ:寝てたんやろ?
店長:目をつむってました。
オレ:寝てたんやないか。
店長:オーナーが来た事に全く気付きませんでした。なかなかにくい演出ですよね。
オレ:ものも言いようやな。オーナーはキミにプレゼントあげて喜んでもらいたかったんやろうに。まさか寝てたとはなぁ。
店長:“寝たふり”とも言いますが。
オレ:ちゃうやろが。で、なんでオーナーからのプレゼントって分かったん?
店長:実は、カウンターの中のこの棚にプレゼント用の靴下を置いといたんです。
オレ:そんな所に?オーナーはそんな所にプレゼント用の靴下があるってよう分かったな。
店長:そこに置いとけとゆーオーナーの指示でしたんで。
オレ:オーナーが指定してたんかーい。それで、プレゼントってなんやったん?
店長:シェーバーです。
オレ:シェーバー?電気ひげ剃り?
店長:そうです。なかなかいい物ですよ。前からオーナーがお勧めしていて、ぼくも欲しいなって言った事があって。オーナーは覚えてくれてたんですねぇ(*‘∀‘)
オレ:キミはヒゲが濃いんか?
店長:濃いです。
オレ:それは良かった。……ってゆーかさ…
店長:なにか?
オレ:オーナーがお勧めするようなシェーバー……オーナーはそのシェーバーがええ物やって知ってたって事やんな?
店長:そうですよ?よく剃れるって言ってました。
オレ:え?…ってことはオーナーもそのシェーバーを使ったことがあるっていこと?
店長:だと思います。ぼくはそうとりましたけど。
オレ:…オーナーって女性やってゆーてたよな?
店長:そうです。
オレ:女性やのにシェーバー持ってて使ってんのか?おかしくないか?
店長:おかしくはないでしょ。女性でも使う人いますから。
オレ:そうなん?えーっと…ヒゲじゃないやろうから、他のとこで使うんか?
店長:ぼくに聞かれても困りますけど…きっとそうでしょう。
オレ:なるほど…。一応念のために聞いておくけど…。
店長:はい。
オレ:オーナーって濃い感じ?
店長:なにがですか?毛が?それとも風貌が?
オレ:毛の方。
店長:見た目はそんな事ないです。そして見えない部分は当然ですが分かりません。
オレ:そやろな。ちなみに風貌ってどうなん?
店長:そこは言えません。
オレ:え?なんで言われへんの?
店長:口止めされてるからです。
オレ:マジか!?なんで口止めされてんの?なんかすげー怪しいんやけど?
店長:確かな理由はぼくも知りません。ただそう言われてるだけなんで。
オレ:えー…めっちゃ気になるんやけど…。
店長:他の店の店長も同じように口止めされてますから。ただ、これぐらいなら言ってもいいかな……
オレ:なになに?聞かせてや!
店長:…それにしてもマンさん…さっきからオーナーの事に関してものすごく食いついてきますね。もしかしてオーナーに対して興味が湧いてるとか?
オレ:いやぁ…そんな意識はなかったけど…そう言われたらそうなんかな?
店長:まさか…オーナーに一目ぼれ?
オレ:ちょいちょい待てよ。
店長:キム・タッキュウですね?
オレ:誰やねんそれ。卓球は中国のイメージやねんけど。韓流ゴリ押しすんなってゆーたやろ。
店長:忘れてました。
オレ:ほんでさ、一目ぼれもなにもオーナーに会ったこともないし見たこともないぞ。キミから話をちょくちょく聞いてただけやし。
店長:確かにそうですね。イメージするぐらいしかないですもんね。
オレ:そうそう。ほんでオレ、イメージしたこともないしな。
店長:そうですよね。今までオーナーの風貌の片鱗さえ言った事ないですから。
オレ:で、さっきこれぐらいなら言ってもええかなってゆーてたよな?それはなんなん?
店長:忘れてください。
オレ:えーーーっ!?なんで?言いそうになってたのに急にやめるなんて、ズルいぞ!!
店長:思い直したら、やっぱりダメかなと。
オレ:うーむ…ま、しゃーないか。いつかは顔を拝める日が来るかも知れんしな。
店長:まぁ……そうかもですね。ただ、オーナーは基本的に人前に姿を現さない努力をしていますので、なかなか難しいかも。
オレ:なんでそんな努力なんて………あ
店長:どうかなさいましたか?
オレ:ちょっとオレ、そろそろ帰るわ。
店長:もうですか?ここで喋っただけですよね?
オレ:いやまぁそうやけど、ちょっと気になることがあって。
店長:気になる事?そうですか。残念ですが、お見送りします。
オレ:ああ、ありがとう。でも今日はなんてゆーか…普通の顔やから、上まで上がって見送るの嫌やろ?
店長:かなり恥ずかしいですね。
オレ:オレからしたら全然恥ずかしがるような感じやないんやけどな。ただその薄着が気になるけど。
店長:コートを着ますから、大丈夫です。
オレ:今日は上まで来んでもええよ。この店の前までで。
店長:いえ、ちゃんと上まで行きます。
オレ:いや寒いからええって。
店長:行きます。ほらマンさん、急がないと。
オレ:別に急ぐ用事じゃないんやけどな。じゃあ行くわ。
店長:お見送りします。
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オレ:さて、階段上がったとこまで来たけど、やっぱり寒いなぁ。
店長:寒いですね。…で、マンさん。なにをキョロキョロしてるんですか?
オレ:いや、誰か人がおるかなと思って。
店長:この辺りはやけに人が少ないですからね。あっちのコンビニぐらいじゃないですかね。人を見かけるの。
オレ:そうやな。ほぼ人影を見るのは……あ、またや。
店長:どうしましたか?
オレ:うん…いや、なんでもない。じゃあ帰るわ。ありがとう。
店長:あれ?今日はそっちに行くんですか?いつもと違いますね。
オレ:こっちに用事があるから。じゃあまたな(。・ω・)ノ゙
店長:またのご来店をお待ちしております。…あー恥ずかしい💦
終わり